奇跡が起きた。

しかしその奇跡がある一人の少年によってもたらされたものである事は誰も知らない。

 

少年は交通事故にあってしまった叔母を救った。

少年は生きる希望がなくなってしまった従兄妹を救った。

少年は消え行く定めであった狐を救った。

少年は不幸な事故に会い7年間も目覚めなかった少女を救った。

少年は哀しい出来事によって心を閉ざしてしまった少女を救った。

少年は未知の病魔によってもう助からないと言われた少女を救った。

少年は自らの家族を否定していた少女を救った。

少年は自らが持つ力を否定していた少女を救った。

少年は弟を失い後悔の自責を重ね続けた少女を救った。

 

9もの「奇跡」を実演させた少年は自らの手で少女達を救い出し、見事に変わらぬ平和な日常を手に入れていた。

しかし、本来ならば行われていた事象を変える……それは世界の理を否定し、破壊するに等しい行為だった。

世界の運命は決まっている、変更は……ないはずだった。

少年が行った「奇跡」は確実に完璧であった世界に歪を作ってしまったのだ。

その歪は小さなものだがヒビは確実に世界に広がっていく。

そして、世界による「裁判」の日が知らぬうちに少年へと近づいていた……。

 

 

出張!奇跡を運ぶ道化師

 

 

空気が張り詰めていた。

手にするのは勝利のみ、ここでは敗北という字は即……死を意味する。

囲まれた四方の中央に位置する山、この山に俺の命運が決まっている。

「いくぜ……、これが最後の勝負だ」

俺は山に向け手を伸ばす、誰かの息を飲み込む音が聞こえたような気がした。

そして山から一欠けらの"それ"を取った瞬間……勝負は決まった。

 

「うっしゃ! 来たぜ、ツモ! 国士無双!!」

「何ー!? なんだそりゃー!?」

「あ、ありえないわ……」

「こくしむそうって何? 祐一」

 

学校のお勤めである授業が終わり、今は放課後。

丁度名雪と香里が両方とも部活が休みと聞いたので最初、みんなで百貨屋にでも寄ってこうかという話になっていた。

しかし肝心の名雪が財布を忘れたと言い出し今日はお流れになろうとした時、北川が「んじゃみんなで麻雀でもやらないか?」といってきた。

どうやら学校の男友達と昼休みに遊ぶ為持ってきたようだ。

俺は最初呆れていたが何故か名雪と香里が乗り気だった。

名雪の方は一度もやったことないという理由で目を輝かせていたがまあこれはいつものことだ。

俺的にはそういうものを香里は嫌いだと思っていたのだが意外と好きらしい。

後で聞いた事だがどうやら昼のドラマを見ていた栞が俳優が麻雀をするシーンを見たらしくその後香里に無理に相手させたらしい。

最初は嫌々だった香里だったがやっていく度にその面白さに気づき始めたんだそうだ。

今では香里の方が栞に無理に相手をさせているようだ。

「あーあ、たく!ハコになっちまった」

そういいながら北川は空になった点数箱をこちらに見せる。

さすがに役満に耐え切れるだけの貯えはなかったようだ。

「私も殆ど空よ、それにしても国士なんてそんな運だけの役満がここで出るとは思わなかったわ」

香里の方は最初地道に勝っていた事が幸いしてかハコにはなっていない、あのままいけば香里の勝利で終わっていたはずだ。

「祐一、私も空になっちゃったよ……」

名雪は最初の時点から麻雀初心者だったのであまり点数は残っていなかったのでこれはしょうがない。

まあよく善戦したほうといっておこう。

「まあ今回は俺の圧勝だったな、俺を崇めろー」

まさか俺も国士なんて確立低い役満を引き当てるとは思ってもみなかった。

最初はその引きの悪さに負けを覚悟したものだが、これだから麻雀はやめられないのだ。

それにこの麻雀の勝者には特典があった。

「さて、香里くん、覚悟はいいかね?」

俺は出来るだけ意地悪そうに顔を作ると香里に詰め寄った。

香里は諦めた顔でため息をついている。

「わかったわよ……、明日でいいんでしょ?案内するわよ」

そういって香里はひらひらと手を振る。

どうやら降参の合図のようだ。

「いいなぁ、祐一……私も知らないのに」

「俺だって美坂と知り合って結構立つけど未だに知らないぜ?」

敗者である名雪と北川はうらやましそうに俺の方を見ているが今回ばかりは俺も冷酷に徹する。

これも香里の秘密公開の為だ、許せ。

「それじゃあ明日、香里の入ってる部活を紹介してくれよな!」

 

 

香里の入っている部活は何か、俺がそれを最初に聞いたのは転校してきてすぐの事だったと思う。

その時香里は「秘密よ」といってはぐらかし俺には教えてくれなかった。

そして後で名雪に家で「お前、香里が何の部活に入ってるか知ってるか?」っと聞いたら「私も知らないんだよ……」っと返ってきた。

不思議に思った俺は仕方なく北川に「香里の入ってる部活って何だ?」っと聞いたがこちらも「俺の方が知りたいぜ」という答えだった。

……俺の好奇心の芽が一気に花咲いた。

誰も知らない香里の部活、親しいクラスメイトでさえ「香里が何かの部活に入っている」ということしか知らないのだ。

後日改めて香里に聞いたがやはり「秘密」の一点張りだった……。

その隠された香里の部活に行ける、これも麻雀のお陰だ……。

香里が一方的に勝利しようとしていた局面、俺は苦し紛れに賭けを申し出た。

「ここから俺が逆転して勝ったらお前の部活に案内させてもらう」

それを聞いた香里は余裕そうな顔をして、

「構わないわよ、それじゃあ私が勝ったら今度百貨屋でおごってもらうわ」

と言い出した、それに便乗して名雪と北川も権利を賭けて共に戦ったが結果俺の一人勝ちだ。

 

 

そして待ちに待った翌日の朝。

『朝〜、朝だよ〜、朝ごはん食べて学校行くよ〜』

相変わらず睡眠欲を2倍ほど倍増させるような目覚まし時計が鳴り朝の訪れを伝えた。

「まだ眠い、でも名雪を起こさないと……」

あまり覚醒していない頭で俺は自分の部屋から出る。

目指すは「名雪の部屋」と書かれたプレートがぶらさっがっている部屋だ。

「名雪ー? 朝だぞー、起きろー」

ドンドンと部屋をノックしながら呼びかける、もはや無駄な行為と知りながらも続ける俺はある意味律儀だ。

「…………入るぞー?」

案の定ノックだけでは起きていないみたいだ、まあ仕方ないといえば仕方ない。

俺はいつも通り名雪の部屋のドアを開けると室内に入り込んだ。

「おーい、朝だぞー!起きろ名雪」

少し大きめの声で言ってみるが反応はまったくない、時折「もう食べれないんだおー」と寝言をもらしている。

「お・き・ろ!! 名雪!!!」

ゆさゆさと名雪の体をゆらしながら耳元で叫ぶ。

このぐらいしないとこの寝坊助は起きない事は百も承知だ。

「うにゅ……、私ゆーいちも食べれるもん」

「…………えっと? 名雪さん?」

何か身の危険を感じて俺は少し名雪から距離を置く、俺も食べれるってどういう意味やねん。

どんな夢を見ているかが凄い気になる、怖いもの見たさで。

「うぅ……、北川君はいらないおー、香里にあげるー」

北川哀れ……、そして名雪…本気でどんな夢見てるんだよ?

「あ! ……ゆーいち可愛い」

何が!?何がですか?名雪さん!?

「うにゅ……、それじゃあいただきます…だよー」

バコン!小気味いい音が名雪の部屋に響き渡る。

なんだか知らないがこれ以上名雪に夢を見させてはいけない、そんな気がしたのだ。

「頭がとってもいたいお〜? あ、祐一おはようございましゅ……」

「おう、おはよう……早く起きて飯食って学校行くぞ」

なんだか疲れた……、俺はどこか疲れたサラリーマンのように肩を落としながら部屋を出て行く。

……別に名雪に「ゆーいち可愛い」と言われたのがショックなわけではない、断じて。

 

 

「あ、おはようございます祐一さん」

階段を降りた所でどこかに行っていたのか玄関から来た秋子さんとばったり遭遇した。

 

どうしますか?

1、攻撃する

2、防御する

3、アイテムを使う

4、降参する

 

…………もちろん4だな、秋子さんに勝てる存在などこの世にいない。

「おはようございます、秋子さん、どこか出かけてたんですか?」

俺は出来るだけ爽やかに笑顔を作り挨拶をする。

別にさっきのコマンドが頭に浮かんだ事を誤魔化す為ではない。

「はい、ちょっとゴミを捨ててきました、今日は燃えるゴミの日なので」

どうやら今日は燃えるゴミのらしい、学校に行く時部屋にあるゴミ箱の中身を捨てに行こう。

「あ、それなら捨ててきましたよ、一緒に」

「へ?」

秋子さん、偶に凄い事しますね……。

いや、俺は別に捨てられて困るようなものはゴミ箱に入れたりしていないからいいけど。

「そうなんですか、ありがとうございます」

「いえ、それじゃあ朝ごはんにしましょう、今日はパンとご飯どちらがいいですか?」

「んー、今日はご飯でお願いします」

なんとなくここ最近は毎日パンだったので今日はご飯にしてみる。

「わかりました、それじゃあ……新作のジャムを…」

「ご飯でお願いします!」

流石にジャムをご飯に乗せて食べる趣味はない、というか秋子さんもわかってて言ってますね?

「残念です、それじゃあリビングに来てくださいね」

「はい」

 

 

朝ごはんも恙無く終わり、俺は学校に向かう仕度を済ませる。

今日は教科書があまり必要でない科目ばかりなので助かる、鞄が軽い事はいいことだ。

……もっともほとんどの教科書は教室に置いてあるのだが。

「名雪ー、先学校行くぞー?」

結局朝ごはん中に姿を見せなかった、多分二度寝か初めから起きていなかったのだろう。

「うにゅー、もう駄目だおー、このままじゃ地球がー!」

…………。

「いってきます、秋子さん」

「はい、祐一さんいってらっしゃい」

秋子さんは苦笑しながら送り出してくれた。

名雪、遅刻決定。

せめて昼休みまでには学校へ登校して欲しいものだ、……無理か。

 

 

ガラガラー。

「ういー、おはよう皆の衆!」

教室に入った瞬間クラスメイトは驚いたように俺を見る。

「あれ? 相沢か? 珍しく早いな、水瀬さんはどうしたんだ?」

そういったのは……クラスメイトの男子だ、確か斉…西郷とか言ったか?

どうやらみんな今日も遅刻ギリギリで入ってくると思っていたんだろう、甘いな。

「置いてきた」

「うわ、ひでぇ」

西郷は笑いながらさっきまで読んでいたと思われる雑誌をこちらに渡してくる、なんだ?

「いいから見てみろって、面白い事が載ってるぜ?」

「えっと、何々? グラビアアイドル歌月の芸能界デビュー?」

「違う違う、その隣の所だ」

先に言え、ちょっとこのEカップに惹かれてしまったではないか。

隣いうと……このどうみても3流的な見出しのやつか。

「……また起こった! 怪奇、血を吸う殺人鬼…なんだこりゃ?」

予想していたより詰まらない内容に俺は投げるようにして西郷に雑誌を返す。

西郷は慌てて雑誌をキャッチする、見事なものだ。

「なんだよ、相沢はこういうやつに興味ないのか? これ隣町で起こった事件だぜ?」

それならば昨日夜中にニュースを見ていた時に見た。

何でも体中の血を抜き取られて異常な形で死んでいる猟奇的殺人がここ最近近くで起こっているらしい。

「興味はあるけど俺には直接関係ないし、そこまで騒ぐ事でもないだろ」

基本的に俺は自分の直接関わること以外は極力手を触れない事にしている。

無責任に正義の味方面したくはない、そう思っている。

「……くはー、まいったまいった! 普通の奴が言うと何言ってんだ? こいつ程度にしか思わないけどお前が言うと様になるな」

「そうか? んなことないと思うけどな……」

「謙遜謙遜、まあそれはいいや、そういえば北川知らないか?」

「は? 北川? まだ学校に来てないんだろ? 知らないな」

「昨日の夜から用事があって何度も電話してんだけどあいつ出ないんだよ、で、今朝買った雑誌がこれだろ? 何か変な感じがしてな」

北川の家は確か一人暮らしだ、だから万年金欠のあいつが夜中に外食に出たとは考えづらい……ということか?

「考えすぎだろ? 携帯にかけてみればどうだ?」

「かけたけど電源入ってないんだよ、昨日の夜から今日の朝まで」

ふむ、三度の飯よりメールが好きな北川が夜中から今日の朝まで電話に電源をいれていない…か、まあ偶然だろ。

「もう少ししたら来るさ、あいつ遅刻はしても学校休まないだろ?」

「あぁ、小学校の頃から皆勤賞取ってるからな、あいつ」

マジか、健康だけが取り得だなあいつ。

「それなら大丈夫だろ? もう少ししたらあいつは何食わぬ顔で登校してくるさ」

「そうだよな、うん、何言ってんだか俺は、悪かったな相沢」

そういうと西郷は安心したように笑う、こいつ意外といいやつかもな。

「気にすんなよ、西郷」

「俺は斉藤だ!!!」

……ありゃ?

しかし隣町で起きた猟奇殺人…か、覚えといて損はなさそうだな。

 

 

 

 

そして、授業が始まる頃にはクラスの席はほとんどが埋まった。

 

ただ……今朝寝坊した名雪と……ついに授業が始まるまでに現れなかった北川の席を抜かして。

 

 

あとがき

出張!奇跡を運ぶ道化師の連載スタートです!

多目的クロスオーバーの予定、……まあ予定は未定といいますしねー(ぇ

色々と謎の残して始まるプロローグ、全部消化出来るかは不明ですよ。

取り合えず大学生活に支障がない程度に頑張ります(゜ω゜)/

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