「"神をも殺す刃"……か、流石に一筋縄では行かぬようだ」

クロウリーはそう呟きながら目の前に立つ"異常"を見据える。

――目の前には金色の光に包まれた少年が一人、魔界と化した世界でその腕を振るっている。

彼の一撃はその自らに課した偉業の成果と共に惜しみなく力を見せる。

その威力は空間を切り裂くほどの天からの一撃である。

「………まったく、世界を相手に出来るほどの力…しかしこれが贋作の力だというと可笑しくて笑えるな」

クロウリーは笑いながら自らの体内に漲る魔力と世界に満ちる魔力を平衡して交互に発する。

「しかしな、世界は無限大の力を持つという事を忘れるな――"神をも殺す刃"よ」

 

 

出張!奇跡を運ぶ道化師

 

 

「………運命は変えられないのですよ、梨花」

雛見沢村にある一つの人家、ここは雛見沢の人間にとっては忘れられた家である。

そんな家の前で羽入はただ何をする事もなく、ただそこに立っていた。

……目の前にあるのはオヤシロさまの祟りにあったとされる罰当たりな家系、北条家の実家である。

いつもならいるべき主人がいない北条家には人の気配が一切しない、ただ主人の帰りを待つだけの家であった。

しかし、今は人の気配が……北条家に満ち溢れている。

干された布団、料理をする音、怒鳴り声。

悲しいほどの冷たい人のぬくもりが今の北条家を包み込んでいる。

「……………沙都子、ごめんなさいです」

羽入はただただ、それを見ていることしか出来ない。

自分は傍観者、干渉せず干渉されず……ただ運命を流れる者。

それが自分の本質なのだと震える体に言い聞かせて……。

その瞳から流れ落ちる一粒の涙にさえ気づかぬほどにその顔は悲しみに染まっているというのに……。

 

 

「北条……鉄平?」

俺は大石さんに一通りの出来事を聞いた。

間宮リナの死により自分にまで火の粉が降りかかるのではないかという恐怖により雛見沢に帰った鉄平。

そこで運悪く……興宮中を圭一と魅音を探していた沙都子ちゃんが見つかり北条家に連れ戻されたという。

……そんな馬鹿な、だって…さっきまで一緒にいたんだぞ?

「……相沢さん? 大丈夫ですか?」

大石さんはそういうと俺の顔を覗き込んでくる。

しかし、俺にはそんな事気にしている暇などなかった……。

「―――探さなきゃ、沙都子ちゃんを」

そうだ、こんな所でこんな刑事と話している場合じゃない。

これが事実だったら……大変な事だ。

北条鉄平、間宮リナ……何故最初にその名前を聞いた時気づかなかったのか。

……レナが言ってた事を思い出す。

レナの父親に対し美人局という恐喝を実行しようとしていた人物の名前を……!!!

「くそ、大石さん! 沙都子ちゃんは今何処に!?」

「北条家だと思います、そう連絡を受けましたから」

連絡……?

そういえば、この刑事は何故ここまで詳しく知ってるんだ?

連れて行かれたのだって……ほんのさっきのはずだ……。

「……大石さん、もしかして沙都子ちゃんが連れ去られるのを見てたんじゃないんですか?」

「……えぇ、見てましたよ?」

「―――何故止めなかったんですか?」

平然とそう言う大石さんを睨みながら俺は静かにそう聞いた。

その際殴りかかりそうになる体をグッと堪える、……ここは冷静になるんだ。

今ここでこの刑事と揉め事を起こすわけにはいかない、俺が今しなくちゃいけない事を考えろ。

「相沢さんが言わんとしている事はわかります、でもねぇ……、北条鉄平がした事は保護者としての権利でもあるんですよ」

「親権者って事ですか……、こんな時には邪魔な法律だな」

何年もほったらかしにしてきたゴロツキが今更親権者を気取る……だと?

――都合のいい道具じゃないんだ、子供は。

しかし、今の俺じゃ法律に逆らう事など出来ない……親権者ってものは元々子供に必要な権利だ。

それを一概に否定するなんて事は出来ない。

「沙都子ちゃんを助ける方法は……?」

「残念ながら思い当たりませんねぇ、虐待でもされていたら別でしょうが今の段階ではなんとも……」

様子見……か、まあそれが当たり前の対応だな。

……でも、それでいいんだろうか?

何か胸につっかえる"しこり"が残ってる気がする……、このまま様子見に徹するのが正しいのか?

「……………」

俺自身、こんなにも焦っている自分の気持ちがわからない。

確かに北条鉄平は最悪のゴロツキだ、その危険性を知っての焦りならわかる。

―――でも、この焦り方はどこか違う気がする。

何かこう……本能というか………反射的な違和感とでもいうか。

この一歩間違えたら爆発してしまうような感情は……なんだ?

「……祐一さん!?」

背後から聞こえた声に俺は振り返る、そこには息を切らしたレナがいた。

そのレナの焦っている顔を見て、――俺はもう躊躇うことなくレナの元へと走り始めた。

「―――悪い、レナ! 沙都子ちゃん家に案内してくれ!!」

 

 

「沙都子……!!」

私は走る。

途中何度も足をもつれ転んだがそんな事はどうでもいい。

今は……沙都子の顔が見たい。

沙都子の姿を人目見ないとこの足は安心して止まれない!

「すいませんです! 沙都子を……いえ、ボクぐらいの背格好をした女の子を見ませんでしたか!?」

「さぁねぇ……今日は通行人が多くてそこまで注意して見てなかったよ」

人に聞いても沙都子の所在を知るものは誰もいない。

その事が私の不安をまた一つ心の空席を埋める。

まさか……そんなはずはない。

だって、もう綿流しまで後二日……、こんな時期にあの男が帰ってくるはずがない。

祐一が雛見沢に訪れて、運命は確実に変わっているんだ!そんな事になるはずが…ない。

……でも、運命が必ず良い方向へと変わっていると誰が決めたんだろう?

「……はぁ、はぁ、はぁ、沙都子!!」

………確かめなきゃ、私が確かめなきゃいけないんだ。

時間がない、綿流しが終わり数日経ったら……私はまた死んでしまうかもしれない。

その前に、沙都子だけは……せめて沙都子だけは助け出すんだ!!

そんな気持ちに後押しされながら私は一路、雛見沢を目指すように走り出す。

……こんなにも幸せな時間がまだ終わっていない事を祈りながら。

 

 

「こっちか!?」

「うん! そこを左に曲がって!!」

「――わかった!!」

レナの乗ってきた自転車に乗り俺は沙都子ちゃんの家を目指す。

後ろには案内役としてレナが座っており二人乗りしているがその速度は増す一方だった。

……火事場の馬鹿力というやつだろうか?

俺は酸素が足りない頭でそうボーっと考えていた。

「――見えた! あそこが沙都子ちゃんの実家です!」

レナの言うとおり目の前には木造作りの古い家屋が見えてくる。

――あそこが北条家、沙都子ちゃんの実家か。

俺はそれを確認すると家から少し離れた場所に自転車を止め、レナと共に北条家の玄関へと向かう。

「沙都子ちゃん……いるか?」

俺はレナにそう尋ねる、しかしレナは口を開かずただ黙って北条家のベランダを見ている。

……そこに干してある布団を見て俺はレナが言わんとしている事を理解した。

やっぱり帰ってきたのだ、北条鉄平は沙都子ちゃんを連れて。

「どうすればいいんだろうな……、俺達」

わからない、多分正しい選択肢なんて……ほとんどない。

その中で俺達が今出来る事は……何かあるのだろうか?

「沙都子ちゃんをどうにか助け出さないと……」

レナはギリっとこっちに音が聞こえるぐらい強く歯をかみ締めていた。

しかし、沙都子ちゃんを助け出す方法が見つからないのかその顔には苦痛がにじみ出ている。

―――本当はやり方なんていくらでもあるんじゃないのか?

その時俺の中の黒い感情がそう告げる……確かにその考えは真っ先に思いつくがそんなことしてどうなる。

俺は沙都子ちゃんを守りたいんだ、戦いたいんじゃない。

「…………沙都子ちゃんを助けるんだ、絶対に」

「うん、絶対に助ける」

そういってレナは俺の手を握ってくる。

……その手は震えていた、レナも先の見えない恐怖と戦っているのだろう。

――しかし、その目だけは死んでいない。

レナの気持ちは折れていない、ならば俺達のできる事はまだあるはずだ。

「取り合えず、事実を確認する事でも尋ねてみるしかない」

俺はそう決心してチャイムを押す……。

そこに待つのは鬼か悪魔か……俺の心臓は大きく高鳴っていた。

「あぁん!? ……お前ら誰んね?」

 

 

「………相沢祐一」

羽入は目の前で起きている事を黙って眺めていた。

北条鉄平を初めて見た瞬間のあの二人の驚愕の顔、そしてその後沙都子の所在を聞いて鉄平に怒鳴られる彼らを見ながら呟く。

「無駄なのですよ、あなた達じゃ何も出来ないのです……これは運命なのですよ」

羽入は祐一達から視線を外して空を見上げる。

……そこにはいつも通りの憎らしいほどの青空が広がっていた。

 

 

あとがき

頭が……(TAT)

といいますか最近できたSSを読み返す暇もないのですよ。

誤字、脱字がありましたら是非ご報告を(汗)

もう本当に時間がNEっすよー( ̄□ ̄;)

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