「……き、さま…、どういうつもりだ?」

少年は最早機能しない眼でクロウリーを睨む。

そんな少年を冷めた目で見ながらクロウリーはため息を一つつく。

「何、貴様を消滅させては"上"が気づく、まだ貴様を消滅させる事は出来んさ」

そういいながらクロウリーは自らの体を見下ろした……。

右腕はすでになく、左腕はピクリとも動かなかった。

体は既に死に体、しかし……白き世界での勝者、アレイスター・クロウリーはそこに立っていた。

「――ふっ、思った以上にこの体を傷つけるとは……」

クロウリーはそう苦笑しながらも冷静に分析を行う。

――残された時間は約10800秒、その後は体の機能保障は不明。

「……ふむ、流石は"神をも殺す刃"という事か、私の身体機能の78%をも奪うとはな……」

 

 

出張!奇跡を運ぶ道化師

 

 

「………」

沈黙のまま、俺とレナは北条家を後にする。

………結果は酷いものだった、唯一の収穫としては沙都子ちゃんは今はまだ無事だという事がわかったにすぎない。

北条鉄平は思っていた以上のゴロツキでチンピラだった。

―――あんな奴の下にこれ以上沙都子ちゃんを置いておいたらどうなるかなんて……考えたくもない。

「なんとかして……助けられないのかな」

ぼそりと呟くように俺は顔をふせながら言った。

……そんな俺の呟きにレナは一度はこちらを見て何かを言おうとしたが結局言葉にならず沈黙が続く。

俺達はもう目的もなくただただ歩く、二人の心はもはや潰れそうになっていた。

「………祐一さんは沙都子ちゃんを助ける方法がいくつ見つかりますか?」

暫く歩き、畑の脇道に差し掛かった所でレナは決意したような顔でそう言う。

沙都子ちゃんを助ける方法……か、今現在俺達が出来る事なんて限られてるんだけど……。

「そうだな、無理をして3つ……確実に助けられる方法はまだ見つかってない」

それが現実、思いついた3つの方法だって危ういものだ。

正攻法で攻めればどこかに歪が発生する、故に完璧に作戦を実行できる方法が見つからない。

「その3つってなんですか?」

レナは期待を込めてこちらを見てくる、しかし……俺の答えはそんなに上等なものじゃない。

「1つは児童相談所に相談する事、でもこれは通る事が難しい……なんていったって沙都子ちゃんは別になんの被害も受けてないから」

強制的に連れ戻されたとはいえ仮にも親権者、その行動は原則として間違ってはいない。

それにこちらは沙都子ちゃんと会えないのだ、ならば虐待の線も怪しいだろう。

「2つ目は警察、美人局を仕組もうとしたチンピラとして連絡する、でもこっちも正直怪しいがな」

―――所詮は計画止まりの事、実行してない分証明は難しい。

それに証拠が何一つない、この案も不可能だろう。

「そして3つ目、北条鉄平自身にこの雛見沢を出てってもらう……村人の署名でも集めて賛同をもらったりしてな」

………多分この案が一番現実的だろう。

悔しいが子供達だけの力じゃ限界があるし、しかも俺はこの村の住人ですらない。

それならば村の人々に手伝ってもらうという案が一番効果的だろう。

しかし、俺の3つ目の案を聞いたレナは黙って首を振る。

「それは無理です……、北条家の問題に関わろうとする住人は雛見沢じゃいないから」

 

 

俺はその後レナに北条家と雛見沢の対立の事情を聞いた。

ダム反対派だった雛見沢の怒りを買った北条家のダム推進派への転向。

村の者でありながら北条家は国の決定に従う見返りに金銭をもらおうとしていた事が住人の怒りを買う。

それ以降御三家の発した命令により、雛見沢の住人は北条家を敵と見なし近寄らなくなった。

だから北条家は雛見沢ではタブーとなり今回の事にも無関心だろうという事。

………それはなんて悲しい話なのだろうか。

住人達がそんな昔の事に囚われたが故に何の罪もない沙都子ちゃんを助けられやしない。

救う手立てがまた一つ消え……俺はうな垂れる。

―――沙都子ちゃんを救う方法が見つからない。

「……くそ! なんだってんだよ!」

俺はそこらに転がっていた石ころに怒りをぶつける、飛んだ石ころは畑の中央に落ち……そのまま沈んだ。

「結局俺達は……無力だっていうのかよ……」

「……私達は沙都子ちゃんを救う事が出来ない」

レナはそういいながら拳をギュッと握り締める。

その顔には悲愴の表情が浮かんでおり目にはうっすらと涙が光っていた。

そんなレナを見ながらも俺は……ただただ奥歯をかみ締める事しか出来ない。

―――これが俺の限界だった。

所詮俺は何の力もない、ただの人間だ。

何も出来ない、何も救えない。

「………何を言ってんだ、相沢祐一」

そうだ、普段は偉そうに説教をたれるくせにこういう時だけ子供に戻るのか?

………レナに言った言葉を思い出す。

『現実から……"世界"から逃げるなよ、竜宮レナ』

世界から逃げるな?俺の今してる事は……世界から逃げてる事なんじゃないのか?

『試してないのにそんなこというなよ、どうせ……なんて言って諦めるんじゃない』

俺は何を試した?3つもの作戦を考えておいて"どうせ"って言って諦めてないか?

『まだ間に合うかもしれないだろ?試せる事はすべて試せよ』

そうだ、俺は言ったじゃないか…あんなにもはっきりと。

『レナ、これだけは言っておくけどな……』

思い出せ、自分自身の言葉を――自分が信じた言葉を。

『……この出来事が解決しないのは平たく言えば――お前のせいでもあるかもしれないんだぞ?』

―――そうだ、全てはお前のせいだ……相沢祐一ッッッ!!!

そして、頭がすっと冴え渡る気がした……。

体は熱く、頭は冷静に……不思議な感覚だった。

今まで感じた事のない高揚感、いや――昔一度だけこんな事が会った気がする。

そう、舞とあの夜の校舎で一緒に戦った時の緊張感に似ていた。

しかもあの夜に比べれば幾分かマシだ。

――俺は魔物と戦った事もあるんだ、そんな俺があんなチンピラに遅れを取るはずがない。

恐れるな、相手は同じ人間なんだ……難易度としては初心者向けって事さ。

俺がするべき事はわかった、後は――実行に移すだけ。

時間はない、でもやる気と譲れない信念が俺にはある……それだけで十分だ。

「―――上等だ、こちとら世界を駆ける道化師だぜ? 奇跡でも何でも起こしてやるさ!!!」

 

 

「……圭ちゃん、さっきレナから連絡が入ったよ」

魅音は居間へと戻って来てすぐ俺にそういった。

やっぱりさっきの電話はレナからだったのか……。

「やっぱり沙都子は今……北条家か?」

俺は外れて欲しいくじ引きを目の前にしたような心境でそう問いかける。

「そうみたい、悔しいけど今は手出し出来ないよ……」

魅音はそういい悔しそうに目を瞑る、手は怒りで震えていた。

そんな魅音を見て俺は居た堪れなくなり畳を拳で殴った。

「……くそ! 情報を事前に魅音が察知してくれたのに作戦が裏目に出たな」

「まさか興宮で鉄平と沙都子が会うなんてね、偶然にしても最悪だよ……」

くそ……、本当に最悪だ。

こっちの予定が全てほんのちょっとした事で崩れるなんて……考えてなかった。

「それで? 俺達はこれからどうする?」

今の所俺はお手上げだ、今回の事は慎重に事を進ませなきゃいけない。

しかし……、その慎重さがさっきの失敗を招いたのも確かだ。

「まだ情報収集に徹した方がいいね、葛西さんには連絡を取ったし……それに表の仕事は相沢さんがやってくれるよ」

「相沢先生が?」

俺は不思議そうに魅音へと聞き返す。

そんな俺を見て魅音は今まで見たことないような柔らかい笑みを浮かべながら楽しそうに言う。

「うん、レナから聞いたけど相沢さん結構燃えちゃってるみたい……絶対沙都子を救うんだって」

「……そっか、いい人だよな、相沢先生」

―――雛見沢に来てまだ間もない都会の大学生だった相沢先生が沙都子の為にそこまでしてくれる。

住人の大人達があてにならない今、それはとても頼もしい事だった。

「そうだね……、それに私達も負けてられないね!」

「当たり前だぜ!? 沙都子は仲間だ!! 絶対に助けてやるんだ!!!」

俺達は絶対に負けない、信じられる仲間達が揃えばどんな敵にだって打ち勝ってみせる。

無敵の部活メンバーの力、舐めると怪我だけじゃ済まないぜ?

……そして、沙都子を救うために俺達は行動を開始した。

 

 

 

―――その心に固い決意と信念を抱きながら。

 

 

 

あとがき

反撃への狼煙を上げろー(・∀・)9m

今回は準備編、祐一、レナ、魅音、圭一がそれぞれの決意と信念と共に立ち上がります。

テスト期間中だろうと張り切る場面になってきました(゜∀゜)

ひぐらしも残すところ後数話、「幕壊し編」もそろそろ佳境です。

……頑張れ、俺(´A`;)

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