涙が枯れるまで泣こう

声が枯れるまで叫ぼう

汗が枯れるまで戦おう

 

―――この命尽き果てるまで、僕らは諦めない

 

 

出張!奇跡を運ぶ道化師

 

 

「…………」

赤く染まる夕暮れ……雲がゆっくりと流れていた。

そんな雛見沢の空を見上げながら私は――痛む頬を撫でる。

殴られても、叩かれても、私は……大丈夫。

この心に暖かい思い出がある、みんなへの思いがある。

―――私は……まだ。

「梨花……、相沢さん……、圭一さん……、レナさん……、魅音さん……、私は大丈夫ですのよ?」

沙都子の頬に一滴の水が零れ落ちた……。

 

 

夜の帳が降り雛見沢は暗闇に閉ざされた。

ここは雛見沢でもっとも神聖とされる古出神社の近くにある一軒家、古出梨花の住む家である。

普段はこの時間ならば光は既に消えているが今回はそうではなかった。

―――今宵、古出の家には2人の来客が訪れていた。

「んじゃそれぞれの報告を聞こうか……、まず俺からだな」

そういって切り出したのは相沢祐一、彼は現在古出家で居候をしている。

……奇跡という能力に翻弄され、世界を巡る事になってしまった悲しき道化師だ。

「俺の担当した警察は今日知り合った大石さんって刑事と話した」

祐一の行動はいたって単純明快だった。

まず大石という刑事に電話をかけて事情を話す、そして今後の対策を助言してもらった。

一つは……やはり児童相談所に連絡をした方がいいという案。

今回の事はやはり法的にはこちらが不利だ。

しかし法には正攻法で挑む他ない……なのでこちらも法案で挑もうという事だ。

二つ目は……ここは堪えて様子を見てみてはどうかという案。

まだ連れ去られて1日しか経っていない、それでは現段階で児童相談所も簡単に動く事が出来ない。

危険性がまだ確認できていない段階で行動を起こすのは逆に危険だという事。

「取り合えずこれだけだ、今回の事に警察は不干渉……動く事は出来ないそうだ」

―――証拠がなければ警察は動けない。

大石の答えは……おおよそ電話する前から判っていた事だ。

しかし、無駄だとわかっていても祐一は諦めない……。

例え可能性が1%にも満たなくても0%ではない限り諦める事はないだろう。

「私は児童相談所に行ってきたよ、……でもこっちの結果も思ってた通りだったよ」

そう祐一の次に切り出したのは竜宮レナ。

彼女は悲しき瞳を持ちながらも揺るがない心を持ち合わせている、とても人間として強い女の子だ。

レナは児童相談所に行き今回の事の顛末を話した。

……しかし、児童相談所はレナの話を一通り聞いて配慮してくれるとは約束してくれなかった。

当然といえば当然、今回の事実だけを話しても相談所としては対応できない。

児童相談所は虐待も育児放棄も確認できていない時点では動く事は出来ない。

それに本人からの連絡でない事も大きかった。

親友とはいえレナはただの他人、そんな他人がいくら相談所に訴えてもそれほど事は大きくならない。

「相談所としては対応をしますって言ってたけど……多分後回しになって何週間後になりそうだよ」

レナはそういってうな垂れる……、拳は固く握られており彼女の悔しさが感じられる。

「そうか……、という事は相談所も脈なしって事になっちまうのかよ」

祐一は歯を噛み締めながら目を瞑り上を見上げる。

―――その何も見えない暗闇が祐一の心を更に追い詰めていく。

「ボクは雛見沢のみんなに沙都子の事を話しに言ったのですが……」

そんな二人を見ながらも梨花は気丈に話し出す。

「―――効果は不明です、でも……少しでも沙都子の事が心に残るよう話し続けましたです」

梨花はただただ前を見つめていた。

その揺ぎ無い瞳は不甲斐無さを噛み締めていた2人の心を切り替えさせる。

諦めている時間はない、今はただ……行動するのみ!!!

「……そうだよな、俺達に出来る事をやり続ければいいんだ」

「うん! レナは明日も相談所に行くよ!!」

二人は先ほどまでとは違い笑みさえ浮かべながらそう決意する。

そんな二人を見ながら梨花も笑う……。

逃れられない世界に絶望しかけた少女の笑顔とは思えないほど、その顔は晴れ晴れとしていた。

達観ではない、諦めでもない、彼女は信じているのだろう……。

―――これから自分達が起こすであろう奇跡を。

 

 

「熊ちゃーん! ちょっとこっち来てくれますかねぇ?」

興宮署に大石の声が響く。

呼ばれた熊ちゃんという刑事は大急ぎで大石のデスクへと走る。

「大石さん、どうしました?」

「むっふっふ〜、ちょっと明日雛見沢にデートしに行きましょう」

「は? ……あ、もしかしてS号関連ですか?」

若い刑事は一瞬困惑したがすぐに意味を察する。

しかし、大石の答えはその刑事の予想とは大きく違っていた。

「いえいえ、ちょーーーっと……北条家までね」

そういいながら大石は不敵に笑っていた。

 

 

 

 

 

住人達が既に寝静まった夜――俺は一人外に出た。

レナは夜がふけきる前に家に帰り、梨花ちゃんは一日の疲れが出たのであろう……すぐに眠ってしまった。

そんな梨花ちゃんを起こさないように静かに部屋を出て、階段を降り、外へと出かける。

 

そして俺は古出の神社を出て、田舎道を目的もなく歩く……まるで最初にこの世界に来たときのように。

 

虫の鳴き声が鳴り響く雛見沢、しかし喧しさはなく逆に心を落ち着けてくれた。

……しかし雛見沢に来て既に三日、その間色々な出来事が起きた。

失ったものもあれば得たものもある……、その一つ一つは俺にとって目が覚めるような事ばかりだった。

だが……未だに本当の目的である歪は見つからない。

―――そもそも歪ってなんなんだろうか?

奇跡を起こした弊害だとアレイスターは言った。

そしてその歪は俺のように特別な力を持つモノに影響を及ぼしているらしい。

………でも、この世界で暮らしてもそれほど特別な事は起こっていない。

本当に歪なんてあるんだろうか……?

あるとしたら……それはどのような影響なんだろう。

―――それがもし、今回の事に影響しているとしたら?

……それだけはないと信じたい、しかし、ただでさえ何が起こるかわからないのだ。

もしみんなが悲しく泣く世界を俺が作り出したんだとしたらその償いは……できるのだろうか?

 

―――疑問は晴れるとこなく……夜の雛見沢に消えていった。

 

 

 

 

 

あとがき

書き直し……ってあんまり変わって無いですね( ̄A ̄;)

未だ見つからぬ歪、焦りは徐々に不安へと変わっていきます。

―――道化師は一人世界を思う。

児童相談の電話相談ってやつを見ましたけど現実問題結構ややっこしいです。

基本的には本人の連絡でなくても動いてくれるらしいですけど……事実はどうなんでしょうかね?

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