「信じる心……何と儚い物か」

アレイスターは祐一への連絡を終えて軽くため息をつく。

……憂鬱な空気が広がるようにアレイスターは白く無限に広がる世界を見つめる。

人間とは何と脆いものか、少しの動揺を与えると勝手に崩壊する。

「運命は螺旋の如く、変えられはしないという事なのか?」

運命の輪は終わる事のない連鎖を生み出して世界を紡いでいく。

―――その道に救いはなく、また終焉さえも皆無。

「相沢祐一……貴様は運命を変える事が出来ぬのか?」

アレイスターの呟きは最早動く事さえ出来なくなった己自身に対しての問いかけでもあった。

そして……その言葉を最後にアレイスターは目を閉じた。

全ては運命の名の下に、決して変える事が出来ない悲劇へと加速していく悲しき追想曲。

 

 

出張!奇跡を運ぶ道化師

 

 

「あぅーっ!? り、梨花は何処にいるですかーっ!!!」

僕は家のドアを超特急で通り抜けて梨花のいる居間へと駆け寄った。

……梨花は僕の想像通り居間に一人座っていてその手には一つのお皿を持っていた。

「待つのです! 梨花ーーーっ!!!」

僕は急いで梨花の目の前に移動して抗議の意思を伝える。

……僕は直接梨花には触れないのでこうして存在を伝えるしかないのです。

梨花は何故か満面の笑みで僕に気づいていないような不利をしながらもう一方に持ったスプーンを動かす。

―――まさか梨花は僕が来てもまだその凶悪な食べ物を食べる気ですかっ!?

「あぅあぅあぅーっ!!! 梨花やめてなのですーーーっ!!!」

バタン、バタンッ!!!ドスン、ドスンッ!!!

僕は出来る限り力を込めて床を踏みしめました、これで流石に梨花も気づくはずなのです。

「あら? 犬でもいるのかしらね?」

しかし梨花は我関せずといった感じでそう呟きながらそれを口に含む。

「―――っ!? あぅあぅあぅーっ!!! 梨花やめるのですー!!!」

……口の中にまたあの刺激物の味が広がった。

この辛くて痺れて熱くて痛いのは……『懲罰用』ではないのです、これはまさか……『死刑用』!?

―――普段台所の下にある棚に仕舞ってある特製キムチ、辛さによって名前が変わるのです。

『懲罰用』は普通のキムチの辛さ、その次が『折檻用』……そして最後に『死刑用』となっているのです。

僕にとっては『懲罰用』のキムチでさえ地獄だというのに……『死刑用』はその名の通り僕には死刑並みの辛さのキムチなのです。

その辛さは『懲罰用』の約三倍、つまり彗星の如く辛いキムチなのです。

僕が……僕が一体何をしたっていうんですかーっ!?

「ふぅ、中々辛いわね……このキムチチャーハン」

辛さに身悶えしている僕を尻目に梨花は淡々とそんな事を口にした。

何が中々ですかっ!?こんな暑い日にこんな締め切った室内でこんな辛いキムチチャーハンを食べて何が中々なのですかっ!?

梨花の味覚は可笑しいのです!こんな辛いものを好んで食すなんて可笑しいのです!!

「梨花、今すぐ何か甘い物を食べるのです!! 甘味で辛味を中和するのですっ!!!」

「……わかってないわね、この辛さがいいんでしょう」

「全然よくないのです!」

まったく……梨花は何を考えているのですか。

……この頃の梨花は変です、変に期待を持ってあんな男を家に住まわすなんて。

―――運命は変えられない、ならば繰り返す世界に嫌気をさして流れに身を任せればいいのに。

北条鉄平がこの世界に現れた時点で僕たちの勝ち目はなくなりました。

どうせ賭けるならもっとやり易い世界に賭けた方が……無駄な心労はなくなります。

「それで……梨花は何で僕を呼び寄せたのですか?」

「……沙都子の様子はどうなの? 知ってるんでしょ?」

やっぱりそれですか……、僕は他人から姿を見られることはない。

つまり僕は絶好の観察者……決して見つかる事がないスパイのような役割です。

どんな名探偵も僕には敵わないのです、えっへん。

でも、僕が見るのはいつも悲惨な状況のみ……人間の闇の部分ばかり今まで見てきました。

「……沙都子はまだ大丈夫なのです、心労は溜まっているようですがまだそう時間は経っていませんから」

しかし、僕が見た北条家の様子はいつもの様に酷い有様だった。

鉄平が暴れたのだろう、床にはゴミやご飯が散らばっておりそれを黙って片付ける沙都子。

―――だが、鉄平はそんな沙都子を見て更に罵倒を浴びせかける。

思い出したくもない、矛盾と屁理屈に満ちた自分勝手な鉄平は本当に最悪の男だ。

沙都子はよく耐えていると思う、これも……悟史を思うが故の悲しき勇気なのだろう。

北条悟史……沙都子の実の兄で数年前、"鬼隠し"に遭った被害者。

あの頃から沙都子は自らの過ちに気づき今まで健気に頑張ってきたというのに……。

全てを破壊する要因である『北条鉄平』によって打ち砕かれてしまう。

「そう……でもあまり時間はないわ」

「そうです、行動を起こすなら早い方がいいと思います」

僕はわかっている……いくら行動を起こそうが沙都子を救う事は出来ない。

言いたくはないが、それが沙都子の運命なのだから……。

 

 

「………これから、どうしようか」

俺は唸るような暑い日差しを浴びながら雛見沢を目的もなく歩き続ける。

―――運命の選択は俺の手に、選んでしまえば全てが取り返しのつかない道だ。

まだ大人にさえなっていない自分が選ぶ最初の選択肢にしては随分重い決断だな……。

「俺は……こんなにも優柔不断な人間だったかよ……」

いや、本当の選択は既に自らの心の中に存在していると思う。

……だけど、その選択で本当にいいんだろうか。

選べば引き返す事は出来ない、つまりこれからのみんなの運命と自分の運命を決める事になる。

このまま時が過ぎれば強制的に戻されてしまう自分、世界の崩壊を正す力を持っている唯一の人間。

つまり……俺がここで北条沙都子を選べば、元の世界のみんなを見殺しにする事になるという事だ。

―――アレイスターのいう事を本当に信じればそういう事だ。

それは自らが犯した罪、そして自らが負った宿命。

「わかってるのか、相沢祐一……一人の少女を救えばみんなが死ぬんだぞ?」

歯を噛み締める、答えは一つ―――口に出せば全てが始まる。

 

 

 

 

「―――俺は………北条沙都子を……救う」

 

 

 

 

あとがき

「あずみ」見ながらあとがきー(ノ´∀`)ノ

思った以上にあれですな、ってあずみの感想はどうでもいいんですよ。

さてさて、ついに世界を敵にまわした祐一君。

その選択は悲劇を生むのか惨劇を生むのか……。

たった一人の少女を救う選択が間違っているのかいないのか。

……多分、一生わかるはずもない選択だと思います。

魔の選択肢ってやつですね、えぇ(´∀`)

Ads by TOK2