―――俺は罪人だ。

奇跡とかいう力を使い、自分勝手に世界を弄くり回してしまったらしい。

だが、そんな行為をしておきながら……俺はその行為が間違っていたなどと思わない。

何故なら……俺は結果としてみんなを救えたから。

だから、俺は後悔はしていない―――後悔するはずがない。

汚い偽善者と、間違った正義感と貶されようが……俺は構わない。

みんなを守れたこの力は、俺にとって必要なものだったんだ。

 

だったら―――俺は罪人でいい。

 

 

出張!奇跡を運ぶ道化師

 

 

―――蝉が耳障りに鳴いていた。

突き刺さるような太陽の熱気が体中に纏わりつくように俺の体力を刻一刻と奪っていく。

だけど……そんな事はもうどうでもいい。

俺は、俺の出来る全ての事をしなくてはいけないのだから。

「アレイスターへの連絡は無理……か、非通知じゃなければな」

そう呟き俺は使えなくなっている携帯電話を見つめる。

この世界ではこの携帯は普通に使う事は出来ない、唯一使える手段としてはアレイスターの連絡のみだった。

しかし、それもこちらからかける事が出来ない為……現時点ではただの音がなる小型機器に成り下がっている。

「……ま、使えない携帯をいつまでも眺めてたって自体は解決しないよな」

俺は携帯を閉じてジーンズのポケットに仕舞い込むと目の前に立つ建物を見つめなおした。

そこには、今回の騒動の現況となる―――北条鉄平と北条沙都子が現在住んでいる家があった。

「そんじゃあ行くか、―――救われない子に、少しばかりの"奇跡"を届けに……な」

そうして、救われない道化師は北条家のインターホンを押した。

そこに待つのは天国か地獄か……、どちらにしろ―――構わない。

天国だろうと地獄だろうと、俺がする事は一つだけだ。

 

 

相沢祐一、残り時間……61時間11分51秒。

 

 

「祐一さんがまだ帰ってない?」

お昼を過ぎた午後、古出家を訪ねたレナは怪訝そうに梨花に聞き返した。

聞くところによると相沢祐一は朝に出て行って一回帰って来たはいいが、すぐにまた出て行ってしまったという。

「祐一さんどうしたんだろ、何か梨花ちゃんは知らない?」

「……祐一の様子が少し変だったのです、もしかして"あの"せいかも」

「あの……? 梨花ちゃん、どういう意味?」

そして、梨花は今朝起きた出来事をレナに事細かに話した。

謎の音が鳴る機械に祐一の挙動、そして帰ってきた時の様子。

「それから祐一は『なんでもない』って言って出て行きました、『ごめん』とも言ってましたです」

「……それだけだと、詳しくはわからないね」

レナは目を瞑りながらそう答える、情報が少ない中で出来る限りの推理をしているのだろう。

「祐一さんの事だから思い切った短絡的な行動はしないと思うから……もう警察署に行ったという可能性もある…かな?」

祐一の担当は警察関係だ、もしかしたら既に行動を起こしているのかもしれない。

だとすると今は興宮の方だろうか……自転車がない筈だから徒歩で向かった筈だ。

今から追いかければ間に合うだろう、でも……それは時間の無駄だ。

もし祐一が既に行動しているのだとしたら、自分達も行動した方が効率がいい。

「うん、そうだよね……レナはこれから児童相談所に向かうよ」

自分の役割は児童相談所だ、今日は学校の下級生を何人か集めて一緒に向かう予定になっている。

今日は児童相談所に北条家の現在の状況と危機について訴えかけるつもりだ。

意味のある行為かはわからないが……無駄ではない筈だ。

相沢祐一は竜宮レナに初めて会った時に言った、"試せる事はすべて試せよ"っと。

自分が逃れられない悲劇の運命に捕らえられていると思っていた時、そう言われたのだ。

そして、結果として……今の自分が確かに存在している。

だから、レナは信じていた、あの時の相沢祐一の言葉を。

「ボクも自分の出来る事をしますです、祐一の事は気になりますが……今は沙都子を救う事に全力を尽くそうと思います」

梨花も普段からは考えられないような真剣な表情でそう言った。

それも全ては、相沢祐一という存在に全てを賭けているから。

確かに祐一の正体は未だにわからない、でも梨花は決めていたのだ―――今回の世界に全力を尽くすと。

故に行動する、古出梨花の役割は……説得。

未だにダム戦争を引き摺り、北条家の問題を見てみぬ振りをしている村の住人達の目を覚まさせる事。

それが、雛見沢でオヤシロ様の生まれ変わりと言われている自分の役割だ。

「行きましょう、レナ……沙都子が待ってますですよ?」

「そうだね梨花ちゃん、あんまり待たせると沙都子ちゃんが怒っちゃうからね」

二人はそう軽く笑いながら家を出る、全ては、仲間の為に。

 

 

「圭ちゃん、行動はいつ起こす?」

魅音が俺の顔を見ながら真剣な声で聞いていくる。

……出来れば今すぐにでも行動は起こしたいが、軽率な行動は取れない。

第一、まだ―――確認は出来ていないのだ。

「……出来ればレナ達と呼吸を合わせたいな、急を要する事態なのはわかってるけど……慎重に行かないとな」

「そうだね、でも…さ、そう簡単には行かないみたいだよ」

「そうなのか? 何でだよ?」

部活メンバーはみんな揃ってこそが本領の発揮出来る筈だ、だが、魅音は首を振る。

「梨花ちゃんが村の人達に沙都子の事で接触を頻繁に図ってる、下手したらこっちの情報が園崎に流れちゃうよ」

「くそっ、そうか……今回の事は魅音の婆ちゃんに知られるとまずいんだったよな!」

「そういう事、悔しいけど……私の家が足枷になっちゃってるんだよ……」

魅音はそういうと辛そうに顔を伏せる、自分の家が沙都子を救う事を邪魔している事実に責任を感じてるのだろう。

……だけど、それは魅音のせいではない。

ダム戦争なんて終わった事をいつまでも引き摺っている村の老人達がいけないんだ。

「顔を上げろよ、その悔しさは間違ってない……だから今俺達はここにいるんだろ?」

俺は魅音を元気付けようと笑いながらそう言った。

そう、俺達はもう決意しているんだ、だからここで後悔する必要はない。

俺は雛見沢を、魅音は園崎家を、二人とも大事なものを敵に回す。

そのぐらいの覚悟をしている、だから……簡単には引けない。

「……そうだね、私達は絶対に沙都子を救うんだ!」

 

 

「ゆう……いち…さん?」

「よう沙都子ちゃん、"約束通り"厄介になりに来たよ!」

俺は軽快にそう言うと驚愕している沙都子に笑いかける、よかった……見てる限りではまだそれほど変わった事はないみたいだ。

俺が今いるのは北条家の玄関、ドアを開けてくれたのが沙都子ちゃんだったので俺はスムーズに北条家へと入る事が出来た。

「……沙都子、誰がきたんね?」

そういいながら面倒くさそうに奥から歩いてくる見るからにチンピラ風な男、北条鉄平も遅れて俺の存在に気づいた。

さて……っと、ここからが正念場―――俺は出来る事をするしかない。

ここまで来たら、後には引けない。

「初めまして、俺の名前は相沢祐一と言います―――現在雛見沢で教師をしていて沙都子ちゃんに勉強を教えている者です」

「あぁん? ……その教師がどうして訪ねてくんじゃい」

教師……という言葉に苛立ちを隠さずに、しかし慎重そうにそう問いかけてきた。

やはり、こういう所では頭が回るらしい、俺が教師だと聞いたから警戒しているのだろう。

昨日、レナが児童相談所に駆け込んだ為に係員から電話が来た筈だ。

だから下手にここで追い返すとまずい相手だと悟ったのだろう。

教師が今日の対応を見て児童相談所に駆け込めば、更に面倒くさくなるとわかっているのだ。

なので、そこに上手く付け込む事が出来れば……こちらの勝ちだ。

「いえ、今日は"沙都子さんの家"に厄介になる日なのですが……」

「はぁ? 何いってるんね?」

鉄平は意味がわからないといった顔でこちらを睨んでくる。

正直、その敵意を正面に受けて、足が竦みそうになるが……ここは引けない。

「あれ? おかしいな……回覧板で連絡が言ってる筈なんですが……」

これも嘘、そんな回覧板が回ってる筈がない。

だけどそんな事実を昨日今日帰ってきたこいつが知るはずもない。

「―――だから何の事じゃといっとるんねっ!!!」

遠まわしにする俺の言葉に堪え性がないのか苛立ちながら鉄平は怒鳴りつける。

「実は学校の方針でしてね、国から指定された教師が家庭訪問の変わりに数日生徒さんの家に泊めてもらう制度があるんですよ」

「はぁ!? なんじゃいその意味のわからん制度はっ!!」

うん、俺も意味がわからない制度だと思うぜ。

心の中で同意しながら俺は、しかし、それを現実の制度であるかのように話し出す。

「いえね、近年都会などでは子供に対する親の責任放棄が頻繁に起こっていましてね……ついに国が事態を深刻に受け止めまして全国の学校で今のような制度を実験的に導入するらしいんです。 雛見沢も田舎とはいえ国の一部―――これは法的に行使されるものでして、ご了承を頂きたい」

口からまったくの出任せをならべ、北条鉄平の出方を観察する。

ここで真面目にこの話を受ければよし、受けなくても進展はある。

大丈夫だ、強攻策ではあるが……ここで外れても実害は殆ど発生しない筈。

「そんな話は聞いとらんね、悪いが今立て込んどる……他ぁ当たってくれんかぃ」

「そうですか……残念です、この制度を受けてもらえないと協力金は渡せませんが……それでもよろしいですね?」

「……あぁ? 協力金?」

鉄平の顔が微妙に変わる、どうやら話だけは聴く気になったらしい。

流石は金の亡者、こういう所ではハイエナ根性を発揮するらしい、嫌らしいやつだな。

俺は確かな手応えを感じつつ、甘い蜜を垂らすように鉄平へと話続ける。

「もちろんこの制度は国が民間に"協力"を仰ぐものでして、協力してもらった家には少ないながらも協力金が支払われる事になっているのですが……」

「……幾らんね?」

「………はい? 何でしょうか?」

「―――その協力金とやらはいくらやねんと聞いとるんじゃ!」

かかった、こいつは協力金を欲しがっている。

ならば吹っかけてやろうじゃないか、どうせ嘘の制度だ……多めに言っておこう。

「はい、協力して頂けるなら―――数日後に十五万円ほどの協力金が支給されます」

これで―――俺の仕込みは完了した。

 

 

あとがき

リハビリ的な更新、頑張るぞーっと。

真っ赤な嘘がそんな簡単に通じるかよーっという人はたくさんいると思います。

でも実際は騙される人は確かに存在してます、例えば「オレオレ詐欺」に「偽の携帯請求」……信じてしまう人は信じてしまうものです。

だから詐欺はなくならないし、騙される人もいなくならないんです。

そして、詐欺はいけない事ですよ?

まったく、祐一君は悪者だなぁ(´∀`)

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