人なき足音が聞こえる。

―――なるほど、それは末期だろう。

人亡き足音が聞こえる。

―――なるほど、それは空耳だろう。

人泣き足音が聞こえる。

―――なるほど、それは悲しかろう。

人鳴き足音が聞こえる。

―――なるほど、それは五月蝿かろう。

 

 

人無き足音が聞こえる。

―――なるほど、それはさぞ恐ろしかろう。

 

 

出張!奇跡を運ぶ道化師

 

 

「詳しく聞かせてもらおか?」

北条鉄平はそういうと強面の顔を歪ませながらこちらを威圧する。

どうやらまだ怪しんでいるようだ、当たり前か。

上手い話には裏がある、"こいつら"が常日頃実践してきた行いなだけあって……警戒しているらしいな。

それなら上等、こっちも捨て身覚悟の一手だ……やれる所までやってやろうじゃねぇか。

「お話しは先ほども言った通りで試験的に導入される制度のテスト…という事でやってきた次第ですが?」

「国……言いおったな、村が実施している制度じゃないって事か?」

……なるほど、確信をついて来たか。

意外にモノが見えるか、やばいな……数年雛見沢を離れていたからと楽観的に見ていたか。

そう、北条家は雛見沢の中で徹底的に嫌われている家だ。

だから村が同意して実地している制度ならば……北条家までもその制度が及ぶ事はほとんど確立的にありえない。

村が関わっているのならば北条家はまずいないものとして処理される。

それは散々梨花ちゃんとレナに聞いた事実だった。

「その通りです、国が全国的……といっても予算の関係などで一部の地域でしかまだ実地しておりませんが行っている事です」

「ほぉ、そんな制度が出来た何て聞いた事ないけどなぁ?」

鉄平はそういうと挑発的に鼻を鳴らす、揺さぶりといった所か……。

まずいな、もっと短絡的思考で来ると思ってただけに……これ以上詳しく聞かれる訳にはいかない。

「ですから、回覧板で一足早く……皆様にご連絡した次第でありまして……」

「回覧板のぉ……おぉい! 沙都子っ!! 回覧板あるんか?」

回覧板はない筈だ、これも揺さぶりの一つだと考えられる。

そもそも北条家には回覧板は"回らない"―――それは確認済みだった。

「え……、回覧板は……ありませんわ……」

沙都子ちゃんは少し脅えながら鉄平の顔色を伺いなら答える。

こいつ―――今すぐ黙らせてやろうか?

暗い思考が脳裏に過ぎるが……グッと堪える。

ここで暴れても何の意味もない、我慢しないと……。

「なぁん? ………まあそういうこっちゃねん、そんな制度聞いたことないから家も片付けておらん始末や……悪いけどちょっと待っとってや」

―――そういうと、鉄平は家の中に入っていく。

何だ今の態度は……いいのか悪いのかはっきりしない返事だったな。

そして、鉄平が去った今……玄関に残されたのは俺と―――沙都子ちゃんのみだった。

「………どういう事ですの?」

沙都子ちゃんは全てを悟ったように疲れた表情で話しかける。

それに対し俺は軽く苦笑すると小さく答えた。

「―――言った通りさ、ちょっとした"国"の制度でね」

「……へぇ、そんな話は初耳でしてよ?」

「まあね、極秘事項だし」

「極秘の割には回覧板が出回るんですのね、おかしな制度ですわ」

そういって、沙都子ちゃんは軽く笑う。

梨花ちゃん達と一緒に居る時とは違う……けどしっかりとした表情で笑った。

まだ……間に合う、俺は―――今にも消えそうな沙都子ちゃんの顔を見ながらそう感じた。

日常への回帰は、必ず叶うんだ……いや、叶えるんだ。

 

 

「―――相沢、祐一……」

羽入は外からその様子を見ていた、相沢祐一が北条家へ足を踏み入れるその瞬間を。

何という大胆不敵な行動、今までの"世界"で―――誰がこんな方法を思いた?

これが梨花の言う……新しい運命の……流れ、ありえない―――ありえるはずが……ない。

運命は決まっている、だからこそ自分は今まで傍観者を続け、逃れられぬ悪夢を繰り返し見ていた。

謝って、謝って―――それでも足りないくらい悲劇は続いて、全てに押しつぶされそうになりながらも黙って見続けて。

でも、相沢祐一は現れた―――それが何を意味するのかは知らない。

「でも……運命は変えられないです、誰にも……絶対……」

だがしかし、彼は前に進むのだろうか……逃れられぬ運命だと知ったとしても。

それはわからない、わからない、彼はわからない。

でも、もしかして―――彼は何かの前兆だとしたら……この悲劇は終わると言うのだろうか?

そんなありえない幻想は……考えてはいけない。

自分は傍観者―――見ているだけの存在だ、それだけでいい。

「だけど」っと、羽入は……呟く。

そもそも、傍観者でいる必要が……傍観者でいる理由が……自分にはあっただろうか?

―――その答えはひぐらしだけが知っている、ひぐらしだけが―――鳴いている。

 

 

「むふふふ〜」

―――だが、その様子を見ていたのは決して羽入だけではなかった。

北条家より少し離れた雑木林の道路に、その黒塗りの乗用車は停止していた。

「大石さん、あの男……誰です?」

大石の隣にいた刑事、大石からは熊ちゃんと呼ばれている刑事は双眼鏡から目を離して大石に問う。

すると大石は何やら考えるように笑いながら車の窓に向けて煙草の煙を吐き出す。

そして、嫌らしそうに笑うとただ一言だけ答える。

「私の勘が正しければ―――彼は有益な協力者ですよ」

大石はそう言ってまた煙草を吸う、そして煙を吐き出そうとした刹那―――大石は軽く頭を掻く。

さぁて、どうしちゃおうかねぇ〜……相沢祐一さん?

そんな事を声には出さずに呟きながら、大石は未だ見えない祐一の行動に対し……煙を吐き出した。

「取りあえずは様子を見ましょう、北条鉄平に用がありましたけど……もっと面白くなってきたみたいですからねぇ〜」

そう言って大石は煙草の灰を弾くように捨てる、まるで―――見えぬ"何か"を弾くように。

 

 

―――そして、"彼女"も雛見沢へとやってくる。

登場は遅れて、だけどしっかりとした足取りで……久しぶりに訪れた地元の空気を確かめながら。

手には着替えと少しばかりの小物を入れたバックを、そして長い碧の髪を靡かせながら……彼女は歩く。

「ふふん〜♪ さあて、鬼婆にお姉は元気してるかな〜?」

"園崎詩音"は、そう呟きながら……雛見沢へと到着した。

「まずは鬼婆に軽く挨拶……かな? う〜ん、先が思いやられますね〜」

口調は苦く、だけど表情は明るく―――園崎魅音の実の姉妹である詩音は活発そうに笑っていた。

彼女には目的がある、彼女には理由がある。

それは……夢見、それは……大事な角砂糖のように甘く脆い夢。

だが、彼女には十分な行動理由となる―――決定的な夢だった。

―――だから、彼女は寮を抜け出した。

「大丈夫、沙都子は私が守るから―――絶対にね」

彼女は笑う、今はいない―――大切な人に向けて。

そして、園崎詩音は雛見沢に帰ってきた……今雛見沢で起きている事を知らずに。

 

 

 

世界は変わり、世界は進む―――そして……世界は終わる。

雛見沢という世界の終わりは……確実に近づいていた。

そして雛見沢全てを巻き込んだ戦争が―――今始まろうとしていた。

 

 

 

相沢祐一、残り時間……60時間34分10秒。

 

 

 

あとがき

毎日更新第二弾、道化師更新!

第一弾からトラブル気味で最早呪われているのかと勘違いする今日この頃、何とか更新です。

ひぐらし勢総集合……とも言えないけどそんな感じですね。

何とも厄介な事になってきたひぐらしサイド、誰が勝ち誰が負けるのか。

それは―――ひぐらしだけが知っている……みたいな(ぇ

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