今日は暖かいと思う。

明日は寒いと思う。

明後日は暖かいと思う。

明明後日は……分からない。

 

 

でも―――分からないなら、せめて暖かい日である事を望もうと思う。

 

 

出張!奇跡を運ぶ道化師

 

 

相沢祐一が北条家に足を踏み入れた同時刻、古出梨花は雛見沢にある家を一軒一軒回っていた。

話す内容は同じ、挨拶ももどかしげに済ますと本題に入る。

「北条沙都子を助けて欲しい」っと。

もちろん様々な理由を挙げどれだけ沙都子が辛い現実に直面しているか訴える。

時には激しく、時には静かに語り出し……説得を続けている。

だが、村人がそう簡単に梨花の言葉を聞き入れる事はなかった。

それも当たり前、何故ならば北条家は雛見沢で敵として見られている家であり、北条家に肩入れすればしっぺ返しが自分にも降りかかるかもしれない。

そんな考えがあるために、いくら古出神社の梨花といえどもそう簡単に同調する訳にはいかなかった。

―――しかし、古出梨花は諦めない。

いくら断られようと、いくら拒否されようと、いくら話を聞いてもらえなくとも、梨花は諦めずに説得を続ける。

一度断れた家には再度訪問し、また同じ説明を続ける。

古出梨花は戦っている、他の誰でもない……北条沙都子という友人を助けるために。

 

 

 

そして、竜宮レナは雛見沢を出て興宮で戦っていた。

レナが向かったのは児童相談所、下級生数人を連れて北条沙都子の保護を早急に行うように陳情する。

だが、その願いは相談所に届く事はなく……門前払いもいいところでただ話だけを聞いてもらいすぐに帰されてしまった。

レナが連れてきた下級生達は落ち込む、自分達の力ではどうすることも出来ないとわかり……諦める。

しかし―――竜宮レナは決して諦めることはなかった。

項垂れる下級生達を出来る限り明るい声で励ますと諦めてはいけない事を伝える。

諦めれば絶対に北条沙都子は帰ってこない、自分達が好きなあの笑顔は永久に失われてしまう。

それがわかる、何故かと言われれば詳しくは自分でもわからない……でも、わかる。

今ここで諦めれば……絶対に自分達は負ける、そんな気がする。

だから竜宮レナは戦う、どれだけぞんざいに対応されようがこちらの意図が通じるまで戦う。

諦めはしない、諦めるのは本当に全てが終わったときでいい、そして、今はその時じゃない。

竜宮レナは戦っている、他の誰でもない……北条沙都子という友人を助けるために。

 

 

 

そして、相沢祐一も戦っていた。

確かに自分がやっている事は詐欺罪、決して許される方法では無いことは承知している。

だけど、残された時間内で自分が出来る事を考えたとき、自分の思考ではこれが最善手であった。

だから迷わない、だから躊躇しない、だから……振り返らない。

例えこの先に何が待ち受けていたとしても……相沢祐一は走り続ける。

誰に頼まれたわけでも誰に命令されたわけでもなく、ただ自分の為に。

相沢祐一は戦っている、他の誰でもない……北条沙都子という友人を助けるために。

 

 

 

相沢祐一、残り時間……60時間00分00秒。

 

 

 

「………うわっ」

そんな声が北条家のリビングに広がった。

相沢祐一がそこで見たのは悲惨な家庭環境を思わせる現実だった。

散乱する酒瓶の山、脱ぎ散らかされた衣服、足の踏み場もないほどに散らかった部屋だった。

……ここで沙都子ちゃんは暮らしているのか?

祐一は額に吹き出してきた汗を乱暴に手で拭うと現実を直視する。

大丈夫だ、落ち着け……ここで冷静になれなくちゃ意味がない。

「……祐一さん、お部屋に案内しますわ」

祐一のそんな様子を察したのか沙都子は何処か辛そうにそう話しかける。

……そんな沙都子の顔を見て、祐一はバツが悪そうに唇を噛み締める。

―――自分は何をしにきた、それを考えろ。

沙都子ちゃんにとって今現実を他人に見られている事自体が苦痛と知れ、隠したい事実を暴かれた時の心情を考えろ。

だったら俺はこんな時どうすればいい、それは……決まってるよな。

「ふ……ふふふ」

祐一の口から僅かに微笑が洩れる、そんな祐一を見て沙都子は瞬きを早くする。

笑っている……、何故?

そんな思想が頭を占め沙都子は祐一の顔を凝視する。

「あっはっはっはー、これは挑戦だな沙都子ちゃんっ! いうなればこれは部活の野外戦、つまり俺がどれだけ使えるやつだと図ってるな?」

「………は?」

「わかってるさ沙都子ちゃん、この家政婦マスター祐ちゃんの名で呼ばれている俺には全てわかっている!」

そう、俺に出来る事といえばこのぐらいだ。

俺はいつも通りに接すればいい、恐らく……それが今彼女が求めている最高の態度だと信じる。

だから俺はわざとらしく大声を出しながら笑う、今なら笑える……だって俺は今沙都子ちゃんと同じ土俵に立っているのだから。

そして、そんな俺の思いが伝わったのか……呆然と眺めていた沙都子ちゃんは刹那呆れたように苦笑する。

「野外って……一応ここは室内ですわよ?」

沙都子ちゃんは笑う、その笑顔は弱々しく消え去りそうな印象さえあった。

まるで、そう――栞の時のような目の前から消えてしまう気がする―――笑顔だった。

「………そういやそうだな、まあそれは置いておいて―――まず片付けから始めようか?」

そんな事はさせない、沙都子ちゃんは絶対日常へ帰す。

舐めるなよ、こちとら奇跡なんてもんを扱えるらしい男だぞ。

こんな些細な事件、ささっと片づけてやるさ。

 

 

 

「これから決戦……ですかねぇ」

北条家を見張る車内で大石は誰にいうわけでもなく呟く。

「決戦って何のことですか?」

そんな大石の呟きを隣に座って北条家を監視している刑事が問いかける。

すると大石はため息を一つついて口にくわえていた煙草を灰皿に押しつけながら話し始める。

「いえね、興宮で相沢祐一さんという方と会ったんですがね……あぁ、今北条家に入っていった若者ですよ」

そういいながら大石は新たな煙草を取り出して火をつける。

「彼ねぇ、何故かは知らないんですけど……何処か空気が違うんですよ」

「空気……ですか?」

刑事は怪訝そうにそう問い返す、大石の話す内容の意図がイマイチ理解出来なかった。

「柔道なんかでもね、あるんですよ……普段は普通のオヤジなのに帯を締めた瞬間ガラッと空気が変わるんですよね〜」

「へぇ……自分にはよくわからないんですけど大石さんがそういうならそうなんですかね?」

「熊ちゃんにはまだ早かったかな? まあいいや、それでね……先日話した彼から同じような空気を感じたんですよ」

そう……まるで何かの達人のような、いや、何かを迫られた手負いの獣といったほうが正しいかもしれない。

それは日々を暮らしている人間にはあまり出せない空気、そう……それこそ"何か"をしそうな雰囲気だった。

それが何に向けられるのか、それはわからない。

だけど―――そんな空気を持つ彼が何かをしようとした時、それは凄い力を持つ事は間違いないだろう。

「だからねぇ、決戦なんですよ……良くも悪くも…ね」

果たして彼が自分にとって彼は……どういう位置付けになるのか、大石は煙草を吹かしながら黙って北条家を眺め始めた。

 

 

 

「さてっと……じゃあ俺も行くわ」

そういって、圭一は送ってもらった車から降り魅音にそう告げた。

自分の役割は終わった、そして……これからが本番だ。

「まずは相沢先生達の所に言って作戦の概要を伝えてくるわ」

「うん、お願いね圭ちゃん……これはタイミングが命だよ」

「わかってる、精々COOLに行こうぜ―――これからが決戦だからな」

圭一は歩き始める、もう……振り返りはしなかった。

これから始める決戦、そして……恐らく分の悪い賭け。

だけど勝率なんてどうでもいい、要するに今俺達が必要なのは勝てるという気合いだけだ。

部活メンバーは個々で一騎当千、そして……全員揃って最強無敵、今は沙都子が欠けているが変わりに相沢先生が居る。

だったら―――俺達に負けはない!

 

 

 

「………北条鉄平、お前を正面から砕いて削って粉砕してやるぜっ!」

 

 

 

あとがき

更新遅れております、ベイベー(壊

う〜ん、決戦前夜という感じもしますが決戦ですよ、えぇ。

静かなる立ち上がり、達人同士の戦いのように!

え?タイトルが変わってないかって?

―――そんな事言う人嫌いですっ!!(マテ

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