「相沢はもう行ったのか?」

白き世界、そこには一人の少年が訪れていた。

「あぁ、そして相沢祐一は"またも3番を選んだよ"」

クロウリーは薄く笑みを浮かべながら手に持つ水晶に映る祐一を楽しそうに見ている。

そんなクロウリーを見て、金色の髪を揺らしながら少年は忌々しそうに舌を鳴らす。

「悪趣味なやつだな、お前も……」

「そうか? しかしお前も気にならないか? "奇跡"というなの"悲劇"を持つ少年の今回の末路を……」

水晶は妖しく青白い光をただ静かに発していた。

 

 

出張!奇跡を運ぶ道化師

 

 

「ぷはー! 死ぬかと思ったー!!!」

俺は先ほど知り合った少女に家から持ってきてもらった冷たい麦茶を飲み干しなんとか体力を回復させた。

うむ、飲み物でHPが回復するという噂は本当だったんだな。

一気に汗がひいていく気がする、そして南極の風のような爽快感が俺の背中を突き抜ける……はさすがに言いすぎか。

「めっちゃ美味かった、感謝するぞ……見知らぬ女の子よ」

「……な、なんでお礼を言われてるはずなのに全然そんな気がしないんだろ?だろ?」

俺の命を救ってくれた女の子は俺から空の水筒の蓋を受け取るとりながら複雑そうな顔をしていた。

「まあ気にするな、見知らぬ女の子」

「見知らぬ女の子ってなんかやだな……、そうだ自己紹介!私の事はレナって呼んでください、竜宮レナです」

そういって見知らぬ女の子……レナはぺこりと頭を下げる。

ううむ、やっぱりどことなく雰囲気が名雪に似ている気がする、こうぽけぽけ具合がなんとも。

「そっか、俺の名前は相沢祐一、自由気ままに旅する旅人さ!」

「凄いですね! 相沢さんは旅人さんなんですか?」

「あぁ、まあな……それと俺の事は祐一でいいぞ? 俺も君の事レナって呼びたいし」

俺がそういうとレナは少し頬に赤みを帯びる。

いきなり知らない人からそんなこと言われたら恥ずかしいか……。

香里なんかは初対面でも普通に返してきたけどな、そこは年齢の差ってやつか。

「えっと……、そ、それじゃあ……祐一さんでいいですか?」

「おう! んじゃ俺はレナって呼ぶな、よろしく」

そう言って俺は右手を差し出す。

「はい! よろしくお願いしますねー!」

レナは満面の笑みを浮かべながら俺の手を握り返した。

 

 

「それで、祐一さんはどうして雛見沢にきたんですか?」

互いに自己紹介をした後レナは俺にそう聞いてきた。

雛見沢……この地名の事だろうか?

それにしてもどうして……ときたか、やむにやまれない事情なのだが話しても信じてくれないだろうしな……。

まあここまで世話になったんだしな、少し遠回りに嘘7、真実3ぐらいで話してあげるか。

「うーん、……実は世界に俺の居場所がなくなってしまったのだよ」

うわっ!なんかくさ!!

自分で言って微妙だと思ってしまった……、これじゃあ変なやつと思われても仕方ないな。

しかもこれじゃあ真実10だし……、俺って馬鹿か。

「居場所……ですか?」

しかし、レナは意外にも真剣に俺の話を聞いてるみたいだ。

……レナって見た目から言うと俺の3つか4つは下だと思うけど随分と大人っぽい気がする。

物腰っていうか、その目に宿る意志の強さというか……そういうものがとても強く感じられる。

なんていうか昔の天野を見ている感じだ、引き込まれそうな瞳が2つ俺を覗き込んでいた。

「あ…あぁ、まあ……そうなんだよ、そしてその居場所を取り戻す為にここにきたんだ」

もうありのまま俺は話してしまっているのということは頭ではわかっているのだが何故か7の嘘がつけない。

何故なら奥深くにある俺の本能が告げていたからだ、警告……といってもいいぐらいに。

――この子には嘘が通じない…と。

「……そうなんですか、私と同じですね」

……今気づいたがレナは俺を見ていなかった。

どこか遠くを見ているよな……そんな虚ろな瞳。

「レナと同じ……? どういうことだ?」

俺は何故か嫌な予感がしたがここまで聞いたのに退く事は出来ない。

「私も……居場所がないんです」

そういってこちらを見た瞳は……さっきまでのレナだった。

気のせい……だったか?

「なんだ? 学校でいじめられてるのか? それなら俺が悪餓鬼共にガツンといってやろうか?」

「あはは、そんなんじゃありませんよー、学校はとっても楽しいです」

放課後に部活とかやってるんですよーっと満面の笑みで話すレナにはやっぱりさっきまでの雰囲気はない。

俺の思い過ごしだったみたいだな……。

「ん? それじゃあなんで居場所がないんだ?」

「……家に私の居場所がないんです」

そう言って哀しそうにレナは続ける。

「私の両親、茨城にいた頃に離婚しちゃったんです、そしてお父さんと一緒に雛見沢に戻ってきたんです」

戻ってきた……?ということは昔レナは雛見沢に住んでたって事か?

「それからの日々、お父さんはまるで抜け殻のようだった……」

……よっぽどその様子が辛かったのかレナの顔は顔色が悪くなる。

「でも最近お父さんの笑顔が戻ってきたんです……」

普通ならここで「それはよかったな」っというべきなのかもしれないけど……その言葉はすぐに引っ込んだ。

……気づかぬうちにレナの顔が怒りに満ちていたからだ。

「その笑顔を取り戻したのはリナさんっていう人なんです」

レナの独白は続く。

「本当はお父さんが好きな人ならその人との仲を祝福してあげようと思ってた……あの人じゃなければ」

そしてレナは俺の方ではなく赤く染まりつつある雛見沢の夕焼けを見上げた。

「美人局って知ってますか?」

夕焼けをまだ見上げながらレナは俺にそう聞いてきた。

つつもたせ?……それって確かカモの男性とエサの女性をくっ付けて第三者がカモから金を巻き上げるってやつか?

凄い古典的な恐喝方法だったはずだ。

「まあ大体は……」

そう言ってから俺は気がついた、もしかしてレナのお父さんって……。

「もうわかってますよね? その美人局の獲物が今回私のお父さんなんですよ」

……そういう事…か。

だからレナは居場所がなくなってしまうと言ったんだ……彼女はその危機を今実感しているんだろう。

「……汚い真似しやがって」

離婚したショックから立ち直れていなかったレナの父親の心の弱みにつけこんで利用する本当に汚い手口だ。

人間の心を操り搾り取れるだけ搾り取って最後にはゴミのように捨てる、とても平常な人間のやる事じゃない。

「そうです、リナさんは"悪い人"なんです」

だろうな、誰が聞いても悪いのはリナって女のほうだ。

騙される方が悪いなんて事は絶対無い、騙す方が悪いに決まってる。

「だから……私ももう我慢しなくていいんです」

「…………え?」

レナの様子が……一変してる?

「えっと? レナ? どうしたんだよ、なんか雰囲気違うぞ?」

「そんな事ないですよ? レナは全然変わってません、祐一さんおかしなこといってますよ?」

ギロリ……そんな擬音が聞こえるような気がするほどに急にレナの瞳がこちらに向いた。

その目は……どこか見覚えがあるような…………そんな哀しい瞳だった。

「……それで、私はもう決意したんです! リナさんは悪い人! そして悪い人は敵なんです!!」

そうだ……この目は秋子さんが交通事故に会ってすぐの名雪の目に似ている。

すべてに絶望し、何もかも信じられなくて拒絶するような哀しい目。

この子をこのままにしちゃいけない、俺は直感的にそう感じた。

「レナ……話はわかった、それでさ、ちょっと頭をこう…下げてくれないか?」

「え……? あ、はい」

俺の言葉を聞いて何も疑わずに頭を下げるレナ、頭を下げると白い帽子が俺の目の前にくる。

ふっ、実に殴りやすそうな頭だ……、こんなに殴りやすそうな頭は真琴以来だな。

まあそれじゃあ遠慮せずに……抉り込むように打つべし!!

「はぅ!!!」

レナは痛そうに頭を抑える、それもそうだろう、俺の本気の拳骨をモロにくらったんだからな。

バタバタと数秒暴れていたレナはいきなりガバッと顔を上げた。

「とっても頭が痛い〜! 何するんですかー!! 祐一さん!!!」

涙目になりながらレナはこちらを睨んでくる。

しかしその瞳はさっきとは違い元の優しい目だ。

俺は一つ安堵のため息をつきながら笑顔でレナへと話しかける。

「目……覚めたか?」

「はぅ?」

レナは不思議そうな顔で俺を見てくる。

そんなレナの頭を出来るだけ優しく撫でてやりながら俺はまたゆっくり口を開く。

「いきなり殴ってごめんな? ……でもレナは今いけない事を考えてたろ? だからこれはお仕置きなのだ」

「……いけない事?」

「そうだ、レナは今何を考えてた?」

「…………」

レナは答えない、でもその沈黙は確かに俺に聞かれたくない内容だったと雄弁に語っていた。

だからレナをこのまま放って置いたら大変な事が起こる、俺はそんな気がする。

誰かが……レナを正しい道へと導く人が必要なのだ。

「でも……、それじゃあ祐一さんはどうすればいいっていうんですか?」

どうすればいい……か。

人間は誤解する生き物だ、些細な事ですれ違い孤独を感じる事がある。

レナは孤独だったのだろう、縋るように俺を見ていた。

俺は少し考えて出た考えをレナに伝える。

「まずは……レナのお父さんと……レナがしっかり話し合ったらどうだ?」

そう俺が言うとあからさまにレナの表情は落胆したように苦いものになった。

そしてまるで期待を裏切られた子供のように、レナは言う。

「そんな事無駄です、お父さんはもうあの女の操り人形……レナの言葉はもう届かない」

「試したのか?」

「試さなくてもわかります、どうせお父さんにはもうレナの言葉が届かないんです」

…………。

「試してないのにそんなこというなよ、どうせ……なんて言って諦めるんじゃない」

「…………もういいです」

「まだ間に合うかもしれないだろ?試せる事はすべて試せよ」

「………………もういい」

「レナ、これだけは言っておくけどな……」

「――――もういいっていってるでしょ!!!」

「……この出来事が解決しないのは平たく言えば――お前のせいでもあるかもしれないんだぞ?」

「――――ッ!?」

俺の言葉はレナの心を傷つけてしまうかもしれない、でも……これは誰かが言わなくちゃいけないんだ。

だから……俺はあえて心を"鬼"にしてレナを諭してみせる。

「今のレナにこんな事を言うのは酷かもしれないけどな、俺は竜宮レナを本当の意味で助けてやりたいから……言うぜ?」

……俺は無表情でレナを見据え、最後の言葉を紡ぎだす。

「現実から……"世界"から逃げるなよ、竜宮レナ」

それは……もしかしたら本当は俺自身に対しての言葉だったのかもしれない。

 

 

あとがき

今回はレナ中心のお話です、微妙に急展開なのでついてきてくれるかどうか反応が怖いです(゜Д゜;)

ゲームで言うと「罪滅ぼし編」の前半部分みたいな感じ。

このお話はIFの物語なので「ひぐらし」本編の物語とは大きく違っています。

名付けるなら「幕壊し編」といった所ですかね。

祐一君の本格的な活躍はまだ先になりそうです事になりそうです、もう少しお待ちください(´ω`)

それとweb拍手にて「連載終了まで付き合います!」といってくれた人、ありがとうございます!

その言葉だけで後1週間は頑張れます(⊃AT)

「どうせ」を嫌っているのはひぐらしの世界では校長先生の名台詞でしたがここに引用。

物語の設定上使わないとお話が狂ってしまうので使わせてもらいました(汗)

こういう事が嫌いな人はごめんなさい……m(__)m

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