ある国に仲の良い姉妹がいました

だけど妹は生まれながら病弱で、いつも寝てばかりでした

そんな妹を見て不憫に思った姉は将来は偉いお医者様になろうと思いました

だけど……そんな決意をしたのも束の間、妹の病状は急に悪化してしまったのです

 

翌日、偉いお医者様達に次々に見せましたが誰一人として原因はわかりませんでした

そんなお医者様を見て不安に思った姉は自ら妹を助ける手段を模索し始めました

だけどまだ小さかった姉には妹の病気の原因はわからずただ時間だけが過ぎていったのです

 

姉が頑張っている間、妹の体は刻一刻と病魔に蝕まれていきました

そして姉が決意してから百日、妹の病状が悪化して九十五日……ついに妹の病気は最悪の結果を引き起こしてしまいました

偉いお医者様達は何とか妹を助けようと手を尽くしましたが妹は一向によくなる気配がありませんでした

そんな妹が苦しんでいる最中、姉はただ祈る事しか出来ませんでした

 

「神様……妹の病気をどうか治してください」

 

そう、それこそ……物語に出てくるような魔法のように……

 

 

 

 

ロードナイツ

 

外伝

「美坂栞の魔法使い試験」

 

 

 

 

「ねぇ……お姉ちゃん、カノン学園ってどんなところ?」

 

とある日の深夜、私はお風呂上りの姉である美坂香里にそう聞いた。

いつもは寝ておかないと両親に怒られる時間だ……。

でも今日は何故か布団に包まりながら何度も寝ようとしたが寝付けず結局今に至る。

それは久しぶりに家に帰ってきたお姉ちゃんと少しばかり話してみたいと思っていたからだった。

今はカノン学園の短い冬休み、年がら年中雪が降るこのカノンでも特に冬の間一時的に大量の雪が積もる事がある。

その間カノン生徒は登下校が困難なため自宅学習という名の一時的な休校になるのだ。

休校期間中は流石のお姉ちゃんも一般生徒と同じように大人しいもので勉強も少し怠けている。

………まあ怠けているといっても午前中はずっと勉強机に向かっていて午後には少しだけ休み、そして夜中また勉強する。

それでもカノン学園が始まると一日中勉強机に向かっているからこれでも美坂香里としては怠けている方だった。

特に美坂香里は序列生徒、競争が激しい位にいる彼女は登下校の時間さえも無駄に思い学園の近くに寮を借りている。

そんな姉が半年振りに帰ってきたのだ、やはり妹としては久しぶりに帰ってきた姉と会話をしたかった。

 

「何? 栞ってばまだ起きてたの?」

「うん、それでカノン学園ってどんなところなの?」

「カノン学園? ……そうね、知識の宝庫とまではいかないけど便利な図書館って感じかしら?」

「………図書館、それじゃあカノン学園って面白いの?」

 

私が前々から疑問に思っていた事をお姉ちゃんにぶつけてみた。

すると私の言葉が可笑しかったのかお姉ちゃんはくすりと軽く笑った。

 

「あのね栞、魔法使いに面白いも楽しいもないのよ」

「えー、じゃあどうしてお姉ちゃんは魔法使いなの?」

「正しくは魔法使いのタマゴ……ね、まだ称号もらってないし」

 

カノンでは魔法を使えるだけでは魔法使いを名乗れない。

外来の魔法使いなら別だがカノンで生まれ、育ったものには資格が必要だった。

そしてその魔法使いの資格を取るために一番の近道が現在美坂香里が通っているカノン学園だった。

本来厳しい審査基準をパスしなければいけないところを学園に三年間在籍するだけで簡単に取れる。

つまりカノンの魔法使いになりたければまずは学園に入学する事から始める事が既にカノンでの常識になっていた。

ちなみにこの学園は貴族が贔屓される仕組みが存在しているが基本的に平民でも入学できる。

しかし平民がこの学園に入学するには貴族が入学する場合より数倍の実力を要する為殆どの平民は試験段階で落ちてしまう。

だがカノン学園は徹底的な実力主義の学園で力を持つ者が当然優遇される仕組みになっている。

つまりカノン学園に入学さえすれば平民が貴族以上に優遇されても可笑しくないのだ。

 

「でもどうして魔法使いなのか…ね、そうね……多分とても簡単な理由よ」

「え? 何々?」

 

私は期待を込めてお姉ちゃんの顔を見る。

学園内でも珍しい"女魔法使い"の序列生徒、それが私の姉である美坂香里。

その姉が、自ら魔法使いになった理由を……私は知りたかった。

尊敬する姉だからこそ、どんな答えを持っているのかが知りたかったのだ。

お姉ちゃんは少し焦らすように一瞬顔を伏せ、そして少しはにかみながら自らの答えを口にした。

 

「叶えたい願いがあるから……かしらね」

 

―――お風呂上りのお姉ちゃんの笑顔は何処となくお母さんに似ていてとても綺麗だった。

 

 

 

 

「おねぇちゃん、あそぼうよ」

「駄目よ、栞は病気なんだから大人しく寝てないと」

「えー、つまんないよー」

「だーめ、お医者さまが治るまで栞はベットを出ちゃいけませんっていわれてるんだから」

「………でも……つまらないよ」

「もう少し我慢してね、栞……私が大きくなったら必ず栞を治してあげるからね?」

「………ほんとう?」

「うんっ、絶対の約束……元気になったら一緒に外で遊ぼうねっ!」

「うん! 約束だよっ!」

 

 

 

 

そして、季節は移り変わり短い休みを終えたお姉ちゃんは学園寮へと帰っていった。

―――まるで本来の家が学園であるようにとてもとても短いお休みだった。

これが魔法使い、知識を学ぶためなら自らのかけがえのないはずの時間を費やし研究する探求者。

私は確かに自分の姉を尊敬しているし羨ましいとさえ思っている。

何か一つの事に自分の人生を賭けられる、それはとても美しい事だと子供ながらに感じた。

……そんな私も今年、カノン学園に入学しなくはならない。

本当は魔法使いになんてなりたくなかった、だけど両親が是非にと進めてくるので仕方なく入学する事になったのだ。

私は美坂家の次女、それだけの肩書きがあるため本来行われるはずの試験の内4つほど免除になった。

私が受けなくてはいけない試験は後3つ、魔力測定と簡易魔法試験……それと契約というものらしい。

正直、美坂栞に魔法使いとしての才能があるとは自分でも思えない。

暗記は苦手だし勉強なんてもっと駄目、お姉ちゃんが持ってた魔道書に書かれてある事なんて何一つ理解できない。

それに、やはり既に自分の姉があれだけ優秀だと……少しだけ憂鬱な気分になってしまう。

 

現在カノン学園1年の部序列5位、魔法経験3B・魔力測定2B

既に1年にしてこの成績、この成績がどれだけ凄いかというとそれはもう言葉では言い表せない。

少なくとも、美坂香里は1年の女子の中でも一番凄い魔法使いだ。

 

そんな姉に近づきたいとは思うが既に諦めてしまっている部分もある。

……お姉ちゃんに敵うはずがない、昔からそうだった。

全てにおいて優秀な姉、完璧とさえいえる非の打ち所が存在しない姉。

―――本当はそんな事ない、お姉ちゃんも普通の人間だ……という事もわかっているのだが。

子供の頃から思っていたそんな考えは払拭される事はなく、小さな棘となって私を苛む。

なんて――愚かで恥知らずな私、全てをお姉ちゃんのせいにするのか。

 

「はぁ……入学したくないなぁ……」

 

そもそも私が魔法使いになってもあまり意味がないのだ。

……まったく意味がないという事はないのだが私があえて無理にでも魔法使いになるほどではない。

美坂家は長女であるお姉ちゃんが後を継ぐ事を自他共に明言しているし、既に書類上もそうなっている。

つまり私はある意味お姉ちゃんの予備、替え玉といっても過言じゃない。

"何かしらの理由で美坂香里が使えなくなった場合の代用品"として見られているらしいのだ。

まあそれが貴族といえばそれまでなんだろうけど……やはり結構内心は複雑だ。

―――それに私がお姉ちゃんの代わり? 務まるわけない、絶対に。

 

「はぁ〜、やだな……」

 

でもここでカノン学園に無理にでも入学しないと……待っているのは貴族間の政略結婚。

会った事もない相手といきなり結婚させられるなんて嫌だ。

そういう点で魔法使いならば暫くの間結婚など考えなくてもいい。

子孫を残す事に重要性を感じるようになったら魔法使いは自ずと結婚する。

だが、自分一代で"自らが目標とする結果"に辿り着ければ子孫を残すという考えさえなくなる。

つまり魔法使いは自由意志で結婚が出来る、政略結婚なんてしなくて済むのだ。

 

「そう考えると魔法使いになったらお得ですよね……」

 

こんな事聞かれたら魔法使いに怒られそうだが本音をいえばそれだけだ。

損得勘定で魔法使いという職業になってもいいかな?なんて考えてしまう。

この頃は本当にその程度しか私は魔法使いという職業について何の理解もしていなかったといっていい。

 

「さてと……明日も早いのでもう寝ちゃいましょう」

 

暖かい布団に潜り私は目を閉じる……。

近頃考え事をしていて深夜まで起きていて朝寝坊するという習慣がちょっとだけついてしまっている。

カノン学園に入学したらこの生活習慣も改善しておかないと色々大変な事になるだろう。

私はそう思いながらも少しの間だけまだ見ぬ学園生活に期待と不安を寄せていた……。

 

 

 

 

「ねぇ、おねえちゃん」

「え? どうしたの栞?」

「わたしの病気はどうしたら治るの?」

「………大丈夫、栞は絶対治るから」

「いつ治るの?」

「………ちょっとそれはまだわからないけど、絶対栞は治るから大丈夫だよ」

「……うん、約束だもんね」

「うんっ! 栞はお姉ちゃんが絶対治してあげる!」

 

 

 

 

―――そして、ついに私の入学の時が来た。

慣れない真新しいカノンの制服を着て手には鞄、肩には昔お姉ちゃんが織ってくれたストールを羽織る。

そして暫くは帰ることのない自宅にお別れをいい、一人学園へと目指した。

両親は馬車で送るといっていたが、久しぶりに外を歩いてみたかった私はそれを遠慮した。

やっぱり自分の一歩で踏み出したかったからだ。

カノン市街を歩くこと数刻、ようやくカノン学園が見えてきた。

 

「わー、大きいです……」

 

見ようによってはカノン学園はお城のような建物だった。

汚れ一つ存在しないような純白の校舎に何やらよくわからない文字がびっしりと目立たない程度に書き込まれている。

……あれって魔法陣の一種なのかな?

よくわからないけどお姉ちゃんが持ってた魔道書にも同じような文字が書いてあった気がする。

これだけ大きいお城みたいな学園を守る魔法陣なら凄いものなんだろうなぁ。

 

「でもここまで来るとまるで巨大な要塞ですね」

「―――そうだね、要塞という表現は実に的を得てると思うよ」

「……えぅ!?」

 

私の独り言に答える声が一つ。

私が慌てて振り向くとそこには一人の男の子が立っていた。

亜麻色の特徴的な髪色をした中性的……というかまんま女の子のような顔の男の子。

カノン学園の制服を着ているから多分同じ新入生なのだろう。

……あっ、そういえばこの男の子何処かで見たような気がします。

何処でしたっけ? ……う〜ん、確か……あれは……そうですっ!

両親に連れて行ってもらった貴族パーティーで何度か会った事がある男の子です。

確か名前は……、

 

「えっと、倉田……一弥君でしたよね」

「覚えててくれたんですか、……美坂栞さんですよね? お久しぶりです」

 

そういって微笑む倉田一弥君、そっか……一弥君も同じ新入生なんですね。

そういえば歳も同じでしたよね、……よかったです…知り合いが一人でもいて。

一人だとちょっと心細かったので知り合いに会えて嬉しいです。

 

「お邪魔でないなら一緒に入学試験を受けに行きません? 僕まだ学園内に友達いないので」

 

えぅ、一弥君も私と同じ境遇みたいです……仲間意識仲間意識。

でも一弥君ならその笑顔で微笑めばそこら辺の女の子、もしくは一部の男子には強烈な人気を誇りそうです。

中性的な部分が好きな女の子は沢山いますからね、一部の男の子の含めて。

一弥君はこれから多分色々な意味での不敗神話を作っていくんだろうなぁ……なんてちょっと思ったり。

 

「いいですよ、一緒に行きましょう」

 

私達は一緒に試験会場となるらしい教室への道案内表を見ながら校舎内に入る。

……外から見ても思ったけど、今中を見てはっきり確信できる事が一つ。

この校舎、地図がないと迷子になりそうです。

玄関口から異様なまでの圧迫感を感じる校舎内は正直迷路だった。

―――暫くして地図を頼りに放浪していた私と一弥君は迷いながらもようやく試験会場である教室へと辿り着く事が出来た。

 

「ようやく……辿り着きました」

「ははは、何か冒険してるみたいで面白かったね」

「私は…とっても、疲れ……ました……」

 

肩で息をしながら自分の体力のなさを呪う。

歩くのはまだ平気だが上ったり降りたりするのは慣れていなかった。

流石に足がふらつき暫く歩けそうになかった。

だが隣を歩く一弥君は平気そうな顔をして苦笑している。

えぅ、一弥君は結構体力があるみたいですね……凄いです。

これから学園生活を送るには私ももう少し体力をつけないと駄目みたいですね。

 

 

 

 

「香里……」

「お母さん? 栞は……栞は大丈夫だよね!?」

「熱が引かないの……お医者さんがいうには今夜が峠だろうって……」

「うそ……そんな……栞は助かるよね!?」

「………もう打てる手はうったそうよ、後は――そう祈るしかないって」

「そん……な……、そんなのいやぁっ!!」

「ごめんね、香里……お母さん達の魔法でも…お医者さんの医療でも……どうにもならないって……」

「栞と……約束したっ! お姉ちゃんが絶対助けるって!! 約束したんだからぁ!!!!!」

 

 

 

 

「新期入学者ですね? 人数も集まったのでこれから魔力測定を開始します」

 

教室の中にいた試験官と思われる先生は私達が入るやいなやいきなりグラスを渡してきた。

見ると私達の先にも何人かの生徒がいるようで一緒に飲み物を渡されていた。

……こんなところで乾杯ってわけじゃないでしょうから、これが多分"噂"の測定器ですね。

私が渡されたグラスの中にはドロッとしたオレンジ色の液体が入っている。

美味しさの"お"の字さえもでてこないような液体だ、えぅ……今まで飲んだ薬の中でも最上級にまずそうです。

 

「それでは飲んでください、ググッとどうぞ」

 

……随分軽く試験官はそういった。

流石に学園が用意するものだし危険なものじゃないとは思うけど……。

えぅ〜、学園生活最悪のスタートが幕を開けてしまいそうです!

できれば甘いクリームでも添えてくれればまだ飲む気もするんですが……。

 

「―――うっ!」

 

っと、その時隣で誰かがうめくような声がした。

誰と確認するまでもないが、何となく隣を向く事に抵抗を覚えた私は横目で少しだけ見る。

するとそこには先程までの余裕の笑みは何処にいったのか苦痛に満ちている一弥君がいた。

苦いんですね不味いんですねやばいんですねっ!?

あぁ、女の子みたいな顔から脂汗がにじみ出ている。

それに何でそんなに「殺すならいっそ一思いに」みたいな顔をしてるんですかー!?

どうやら想像を絶するような味らしい、全然まったく飲む気が無くなったのは確かですね。

 

「うぐっ!」

「ちょ……おま……っ!!!」

「あーっ!」

 

私達の他の生徒も次々に不調を訴える。

恐ろしいのが誰一人として最後には立ち上がれないほどの不快感に襲われているということだけ。

―――どんな劇薬ですかこれは!?

そして……ついにこの謎の液体を飲んでいないのは私だけになってしまった。

そんな私を見て試験官は苦笑いしながらも飲んでくださいと催促をするだけだった。

 

「えぅぅ……………」

「どうしました? 早く飲んでください」

「え、えぅ……!」

「さ、どうぞどうぞ……死にはしませんから大丈夫ですよ……多分」

「えぅ……えぅ……えぅ………………えぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!!!!!!

 

―――その後、地獄のような魔力測定は何とか無事終わり……次は魔法試験に向かう。

どうやら結果は後で纏めて発表されるらしく今は自分の魔力量がどれくらいか分からなかった。

……ちなみにあのオレンジ色の物体の味は想像を絶していた。

もう思い出したくもないので深くは考えないようにするが……一言で現すとあれはへヴンでありゲヘナだった。

混沌といってもいいし無といってもいい、甘いし苦いし辛いし酸っぱいし不味いし……色々な要素が詰まっていた。

何故その中に一つだけ忘れたように"美味しさ"が含まれていなかったのかは永遠の謎だ。

 

「えぅ、酷い目に遭いました……」

「あ、あははは……流石にあれは堪えましたね」

 

隣で苦笑いする一弥君も先程までの元気は既になかった。

……一つの試験を受けるだけでこんなにも疲れるなら他の試験はどんなに辛いんだろうか。

えぅ、早速魔法使いへの道を諦めてしまいそうです。

 

「次の教室はどうやら地下みたいですね、魔法修練所という場所で行われるらしいです」

「今度はまともな試験であることを私は心の底から望みます……」

「いや、僕もそう思います」

 

お姉ちゃんも入学時にはあの液体を飲んだんだろうか?

……今度学園内で会った時に聞いてみるのもいいかもしれない。

あの飲み物……すらわからない物体の味は試した者にしかわからない辛さがある。

この世のものとは思えない味だった、思い出しても寒気がします……。

―――余談だがあの試験薬、一昔前までは白い粉薬のようなものだったらしい。

だが、その粉薬も大層不味かったらしく生徒間で不評だったらしい。

しかしある時、とある魔法使いがそれならばと提供してきたのが現在の試験薬だった。

それ以来、薬に対し文句をいうものはなくなり学校側としても薬を提供した魔法使いとしても大満足だった……らしい。

ちなみに、とある某傍観者が魔法経験は測ったが魔力測定を測らなかった理由が検査薬の不味さだったとか何とか。

以上―――蛇足でした。

 

「あっ、あの教室でしょうか?」

「えーっと? 第7魔法修練所……うん、合ってるみたいだ」

 

そこはまるで広場のような大きさのある教室だった。

どうやら魔法を行使する為の教室らしく先に試験を受けている生徒達や試験官がちらほら見える。

しかしみんなが魔法を行使している為か炎やら水やら雷やら氷やらがそこら中に舞っていた。

えぅ、なんだか大変そうな試験みたいです。

………あ、あれ? そういえば疑問に思いましたけど何でみんな当たり前の如く魔法が使えてるんでしょう?

私なんて魔法の"ま"の字すら知らないのにみんな既に魔法が使えるという事なんでしょうか?

 

「えぅ、一弥君は魔法が使えますか?」

「え? あぁ……一応基礎魔法程度ならね」

「えぇっ!? 私なんて何も使えませんよっ!?」

 

私は仲間外れにされた気分でうな垂れた……。

うぅ、こんな事ならお姉ちゃんに簡単な魔法ぐらい習っておけばよかった。

でも今更悔やんだって仕方ない、どうにか私もこの試験をクリアしなくては!

 

「一弥君! 初心者にも優しい魔法を一つ教えてくれませんか!?」

「え、いや……僕が教えてすぐに使えるような魔法なんてないと思うよ? ちゃんと勉強しなきゃ」

「えぅ、……でもこの試験に落ちないためには覚えるしかないんです!」

「あぁ、それなら大丈夫……この試験は単なる確認作業だから」

「確認作業?」

 

一弥君に詳しく聞くとどうもこの試験は貴族には関係ないらしい。

この試験はいうなれば平民を落とす試験でそれなりの実力がある平民以外を落とす役割をしているという。

貴族である私には"判定不可"という記録が残るだけでもうこの試験はパスしたといってもいい。

まあ魔法が出来る貴族は自分から率先して今自分が持ってる力を誇示する為に試験を受ける生徒も大勢いるらしいが。

―――でも貴族であるだけでこんなに優遇されると少しずるい気もする……が正直助かった気もします。

 

「それじゃあ一弥君も受けるんですか?」

「うん、一応ね……自分の力がどれくらいか見てみたいし」

「じゃあ見学しててもいいですか?」

「構わないよ、まだ隠さなきゃいけないような実力はないからね」

 

面白いものでもないけどねっといいながら一弥君は手の空いている試験官へと歩いていく。

……実は知り合いが魔法を使う場面をちゃんと見るのはこれで初めてだった。

お姉ちゃんは魔法を家では一切使いたがらないし両親も普段は使わない。

たまに使うとしても緊急時だけなのでちゃんと見た事はないのだ。

 

「それじゃあ自分が使える魔法の中で一番強力な魔法を全力で撃ってください」

「攻撃魔法限定ですか?」

「いえ、防御魔法でも治癒魔法でも何でもいいです……兎に角全力でお願いします」

「わかりました……まあでも一応攻撃魔法にしておきます」

 

一弥君はそういうと静かに集中し始めた。

目を瞑り手を前に突き出すような仕草をしながらゆっくりと口を開く。

 

「―――"水を凍らせ穿て氷の濁流、フリーズッ!!"

 

一弥君がそう唱えると足元から大量の氷がまるで波の如く出現した。

そしてそのまま氷の数はどんどん増えていき、ついには一弥君本人すらも覆い隠してしまった。

―――これが、魔法。

先人達を虜にしてその人生すらも捨てて挑む神秘の科学。

法則の世界で理を読みきり異常を正常として世界に送り出す奇跡の技。

 

「はい、もう結構です……しかし見事なものだ……」

 

試験官がそういうと一弥君は自らが発言した魔法同士を相殺させてその存在を消し去っていく。

どうやら彼は魔法を完全に操っているらしくその姿はまるで仙人のようでもあった。

私はそんな幻想的な光景を目の当たりにして少し感激していた。

―――私も勉強すればあんな魔法を使えるようになるのだろうか?

あの一弥君のように……そして、もしかしたあのお姉ちゃんのように……。

 

 

 

 

「香里、栞に何か声をかけてあげて……」

「……………」

「お姉ちゃんとして、栞に……最後に……っ!」

「―――え? どういうこと?」

「………く、うぅ」

「お母さんっ!? 何で泣くの!? 栞は―――栞は―――っ!?」

 

 

 

 

そして、二つの試験が終わり……私達は結果を見にそれぞれの担当員の先生の下に向かった。

どうやら最後の"契約"と呼ばれる試験はこの後行われるらしいがどうもそれは合格か不合格かを調べる試験ではないらしい。

つまり実質この時点で私が合格かどうか決まるという事で……既に不安と期待で埋め尽くされていた。

落ちたらどうしよう、試験薬の試験で何の不備もなかっただろうか……?

 

「えぅ……あ、あの……美坂栞、試験結果を聞きに来ました」

 

少し怖い感じのする担当員に私がそういうとその担当員は名簿を取り出し何やら調べ始めた。

どうやらあの名簿に私の合否がかかっているらしい。

……うぅ、魔法も使えなかったしもしかしたら落ちてるのかも。

自分が侵した失敗を一つずつ心の中で確認してくが……本当はそんな作業も身が入らなかった。

私が見ているのは担当員が持つ名簿だけ、あれに私の合否がかかっているのだ。

 

「……あぁ、これか…美坂栞さんですね?」

「は、はいっ!」

「それでは結果を読み上げます」

「………え?」

 

―――結果を読み上げる?

それって……結構嫌な感じがするんですけど。

もし落ちてたりしたら周りにいる他の生徒さん達に笑われちゃいますよ!?

 

「美坂栞―――魔力測定……1S」

「………えぅ? 1S?」

 

……瞬間、辺りが静まり返った。

えっと、よくわからないんですけど……それっていいんですか悪いんですか?

えぅ、お姉ちゃんにちゃんと聞いとけばよかったです。

といいますかそれより合格か否かが聞きたいんですけど。

何故か皆さんこちらを見て固まってますし、そんなに悪い評価だったんでしょうか。

うぅ、針のムシロとはこの事をいうんですね。

 

「お、おい……聞いたか?」

「あぁ、確かあいつの名前……美坂とかいったな」

「1Sって……マジかよ、どうなってんだ?」

「美坂ってもしかして美坂家の事かなぁ?」

「そうじゃない? ほら、結構有名な貴族の」

 

えぅ〜〜〜〜! 何かみんなが私の話をしてますよ!?

悪口は本人がいる前で言ってはいけません、そんな事する人嫌いですっ!

えぇい、もう落ちるなら落ちるではっきりさせてください!

こうなればもうヤケクソです、どんな結果だろうと胸を張って家に帰るまでです!

 

「魔法経験は判定不可――か、懸命な判断だ」

「………えぅ!?」

 

何か先生にまで馬鹿にされてしまいました。

………うぅ、そんなこと言う人嫌いですぅ!!!

どうせ私なんて魔法を使う前に失格者ですよーだっ!

もういいですからお家に帰してください、こうなったら三日間ぐらい布団から出ない事に決めました。

政略結婚だろうと何だろうとしてやろうじゃないですかー!

もうこうなれば全てがヤケクソです、やってられません。

 

「判定不可だってよ……流石だな」

「用心深いな……こりゃ強敵だ」

「正体は見せない…か、まあ単純計算で軽く3B程度には見ておく必要があるだろうな」

「同じ同級生かー、魔法の事教えてもらえるかなぁ?」

「あっ、ずるい……私も私もー!」

 

ほら、また私の悪口を……ってあれ?

……どこか風向きが可笑しくないですか?

流石とか強敵とか正体は見せないとか……何を言ってるんでしょう?

…………あれ? もしかして私はとんでもない勘違いをしてるんじゃ。

 

「……おめでとう、美坂栞――君は文句なく今年で最高の新入生だ」

「え………えぇぇぇぇぇぇぇ!?

 

 

 

 

「―――これで一時的には大丈夫でしょう」

「ほ、本当ですか!? 栞は――栞は助かるのですか!?」

「いえ、完全には……多分そう長くはもたないでしょう」

「そ、それでも……今は助かるんですよね?」

「はい、しかし次に再発する前に何とか治療薬を開発しないといけません…まあ何とかそれまでには間に合わせるように調整しましょう」

「ありがとうございます! ありがとうございます!」

「いえいえ、兎に角間に合ってよかった」

「………あの」

「ん? 君は……あぁ、栞ちゃんのお姉ちゃんかい?」

「は、はい……えっと、栞を助けてくれてありがとうございました」

「いや、礼には及ばないよ……彼女は罪無き者だ、ならば僕が助ける理由と成る」

「あの……えっと、あなたの名前は?」

「―――僕に名前はないよ、あるとすれば一つだけ……"断罪者"とだけ覚えてくれればいい」

 

 

 

 

カノン学園の試験が終わったその後、詳しい事を一弥君に聞いてみると大変な事がわかった。

私はカノン王国の中でも一万人に一人いるかいないかの天才らしい。

あのお姉ちゃんすらも軽く凌駕する最高純度に近い、まさに魔法を使う為に生まれてきた子供。

まさに天才児、数多の魔法使いが欲してやまない才能を私は保持していた。

―――この才能、生まれながらにして約束された能力はとてつもないものだった。

この才能さえあれば……お姉ちゃんに近づけるかもしれない。

……いや、近づく事が可能なはずだ、絶対に。

これほどの資質があれば私なんかでもお姉ちゃんに追いつける。

ならば目指そう、魔法使いとしての高みを目指せるなら……姉を目指せるなら目指そう。

多分これが私がお姉ちゃんに追いつける最後のチャンスだ。

憧れていた姉、尊敬していた姉、いつも……優しかった姉。

ようやく追いつける、ようやく同じモノを見れる、ようやく対等になれる。

 

 

―――お姉ちゃん、私……頑張ってお姉ちゃんに追いつくからね。

 

 

End

 

 

 

 

 

 

あとがき

美坂栞の入学までを描いた短編。

お話を区切っているのは全部書いてると軽く数話は取りそうな話だったから(汗)

何とか短く短く纏めようとした結果こうなりました。

栞の思考、香里の考え、一弥爆誕(爆)

全ては書ききっていませんがそういうことです。

栞の間違え、香里の目的、一弥の存在感(死)

まあ喰われてしまった一弥君ですけど優しい目で見守ってあげてください(汗)

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