今より少しばかり過去、死なない少年がいた

今より少しばかり過去、死ねない少女がいた

 

少年は世界に問う

「死は安らぎ、では生は?」

 

少女は世界に問う

「生は苦痛、では死は?」

 

双極であり類似、極端であり正常

世界は一つ、世界は三つ、世界は無限

二人の子供は世界を謳う

二人の人間は世界を呪う

二人の生と死は世界に謳われる

 

死なない少年と死ねない少女

全ての物語は開幕を迎える

 

 

 

 

しかし、その前に世界は二人に問う

「死なない、死ねない―――何故人間は"死"を謳うのか」

 

 

 

 

ロードナイツ

 

外伝

「藤間麻衣子と相沢祐一の遭遇」

 

 

 

 

あっ、死んだな―――っと思った刹那……予想通り俺は死んだ。

注意を怠っていた気はないが確かに少しばかり緊張が足りなかったみたいだ。

まあでも目の前にゴールがあれば人間誰しも少しは気が緩むってもんだ、そう俺ばかりを責められても困る。

責任が俺にあるかっていえばあるかもしれないがそこは考慮してくれてもいい所だと思う。

……なんて、馬鹿な事を走馬灯のように思考しながら俺は倒れた。

そして俺から滴る血が清潔さが輝いていた床に広がっていく。

あぁ……なんて勿体無い、今の時代魔法や儀式に使われる人間の血液は貴重品なんだぞ?

そんな事をボーっと考えながら急激に意識が遠のいていった。

 

「―――あ」

 

短く響く声、俺ではない澄んだ鳥のような人の声。

薄れゆく意識の中で何故かはっきりと、相手が啼いている事に気がついた。

まるで、そんなつもりはなかった……とでも言うように。

殺されたのは俺の方なんだけどなぁ……これじゃあ立場が逆じゃないか。

まるで―――俺が虐めたような気分になって、正直気に入らない。

 

「あ―――あぁ」

 

段々とこちらの意識は沈んでいく。

―――だというのに俺はそんな自分の体の変化には気を止めず残る意識を目の前に集中していた。

……だって、気に入らないから。

今まで殺す殺されるという境遇の中にいた俺でさえ、殺された瞬間相手に涙を流された事など今までなかった。

後悔するぐらいなら殺すなよ……まったく。

俺は絶対に殺した相手に同情なんてしない、涙を流すくらいなら血を流す。

だって、死者に対して同情しても意味がないだろ?

死者とは既にただの欠片、つまり死者に対しての同情とはただの自己防衛だ。

自己を守る為の行為、……そんなの死者に対しての冒涜だと思うんだけどな。

 

「あ―――ああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

そして壊れた、こんなに脆い人間は今まで生きてきた中で初めて見た。

見た目子供で実は中身まで子供な人類破壊兵器だって人を殺す事なんて生まれた時から躊躇しなかった。

罪を嫌って罪を憎み罪ある者ならば全てを切り裂く男だって人を殺す事なんて何の感傷もないだろう。

だが目の前の人間は違う、俺なんて言う存在を殺した瞬間に自己が崩壊したようだ。

流石は聖女、人を殺したのは俺が始めてらしいな。

まあ静寂の間なんて物騒な所に隔離されていた皇女様には当然の事か。

―――しかし最初に殺したのが俺かよ、運がいいのか悪いのか。

なんて思いながら、傍観者である俺はゆっくりと意識を闇に預けた。

この後の事は知らない、文字通り俺は死んでいたから。

多分あの後、"人類破壊兵器"と"罪人殺し"がどうにかしたんだろな……どうでもいいけど。

そして数日後、俺がやっと目を覚ました……いや――生き返った時まで物語は進む。

 

 

 

 

「………何処だここは?」

 

俺は取りあえず見慣れない天井を見上げながらそう呟いた。

どうやらまた死んでいたらしい、そのせいか体が結構だるい。

記憶の受け渡しに失敗したらしく死ぬまでの記憶がよくわからない。

仕方がないから初期情報のみで行動を再開するしかない、まあいつもの事だ。

―――俺の名前は相沢祐一、傍観者と呼ばれるただの人形。

えっと……アスラン王国に実家があって両親は健在。

確か今現在は"人類破壊兵器"と"罪人殺し"と共に旅……というか二人に連れられている途中のはずだ。

 

「それから……駄目だ、思い出せない」

 

何かしていたような記憶もうっすらと引き継がれているようだが靄がかかっている。

うーん、まあ思い出せないって事は大した事じゃないんだろ。

それよりここは何処だ? 部屋の中みたいだけど……宿屋か?

―――部屋の中を見渡す、見た感じは普通の宿屋だな。

少しばかり高級そうだけど……それ以外に不審な点はない。

 

「ん? 何だー、ユーイチ起きてたのかー」

「―――――うおっ!?」

 

―――っと、いきなり聞こえてきた声に俺は驚き振り返る。

するとそこには背の小さい白銀の髪色をした少年が満面の笑みで立っていた。

いちいち気配を消して近づいてくるあたり、こいつの性質の悪さを改めて感じる。

 

「……何だ、あんたかよ」

「何だとは酷いなー、折角ユーイチの事心配になって見に来たのにー」

 

そういいながら白銀の少年は俺の背中に抱きついてくる。

相変わらず馴れ馴れしい、というより男が男に抱きついて何が嬉しいってんだ。

取りあえず俺は抱きついてきた少年を軽く振り払うとベットから起き上がる。

 

「あー、ユーイチ酷いー横暴ー!」

「五月蝿い黙れこの野郎、"人類破壊兵器"が人間に抱きつくなっ!」

「何をー! 殺さない程度にちゃんと力は抑えるよー!!」

「信用できるかっ! 誤って殺されでもしたらいくら俺でも生き返れないんだからなっ!!」

「う〜、ユーイチは意地悪だぁー!」

 

俺の怒鳴り声を聞いて泣きながらヘコたれる"人類破壊兵器"

しかしそんな泣き真似なんかで俺の良心は傷つかない。

人類に対しての最終兵器であるこの"破壊者"は人間という種族にのみ働く力を持ち合わせている。

人間の宿敵、人間という種族の死神的存在であるこいつの前では一応人間である俺さえも標的の対象になる。

まあ簡単に言うとこいつの能力はその名の通り破壊、万物のどんな力に守られている人間ですら破壊できる力を持っている。

つまり、もし神という存在がいるとして……そいつの種族がもしも人間であった場合こいつは神ですら殺せる。

………まあここら辺の意味はよくわからないがそういう事らしい。

何しろ本人でさえ自分の力の正体を知らないんだからこれ以上の事はわからない。

そんなとんでもない能力を有しながらもこいつはその能力を滅多に使おうとはしない。

それもそのはず、この能力には反作用が存在する。

 

―――まず第一に、この能力を使用するとこいつは歳が一年若返る。

―――そして第二に、こいつの成長は十五までで止まってしまった。

―――第三に、その絶大なる能力を使うと……必ず"何か"を失う。

 

つまり、能力を十五回使えば人類破壊兵器は自動的にこの世から消滅する。

そして……現在人類破壊兵器の年齢は約十歳程度、つまりもう五回使ってしまっているのだ。

その為体は縮み現在では俺より年上な筈のこいつは俺より身長が低い子供になってしまっている。

だが……この能力の恐ろしい所はそれだけではない。

それは第三の代償、何かを失うという事が最大の反作用なのだ。

その代償とは……一回使うたびに一つ、人間として大切な機能が失われていく。

そして彼は痛覚の減少に味覚の低下、そして右目の失明に血液の半分の消失――さらには左耳の聴覚の喪失までしていた。

つまりこの能力は……確実なる"死"へのカウントダウンという事だ。

 

「ん? ユーイチどうしたの?」

「いや……何でもない、世界はどうしてこんなに非情なのかな…って思ってただけ」

「それは違うよ、世界は非情なんじゃなくて親切なんだよ」

 

―――その言葉を聞き、俺は耳を疑った。

俺の能力の事もそうだけどこいつの場合はもっと酷いと思っている。

ある朝目覚めたら変わっていた自分、ある時を境に外れてしまった者。

そんな非情なる世界の現実に対して、彼は親切だと言ったのだ。

……ありえない、正常なる思考をしているやつなら必ず絶望する。

絶対に世界に対し親切だなんていうはずがない、いや……言える筈がない。

 

「……親切? 俺にこんな体を寄越して、あんたにそんな能力を与えた世界が?」

 

俺はそう聞き返す、無論彼の真意を問いたくて。

すると俺の問いに少年は迷うことなく笑いかけて一言だけ、俺に教えてくれた。

その一言は、俺の疑問を全て終わらせてくれた一言だった。

その一言は、俺の全てとなった……俺の生きる目標となった。

 

―――そして……数年後、彼はこの世界から消える事になった。

 

だがそれは未来のお話、今の相沢祐一には関係ないまだ先の話だった。

 

 

 

 

そして俺は、少年を残して部屋を出た。

手で顔を拭いながら宿屋を出る、今は何も考えたくなかった。

俺は……何をしていたんだろうか、今まで。

 

「ちく……しょ…う、馬鹿…野郎が……!」

 

止まらない何かを拭いながら俺はただ街中を走った。

最早歩いている余裕はなかった、最早考えている余裕はなかった。

ただその一言が嬉しくて、ただその一言が哀しくて。

俺は―――子供だった、過酷な運命に晒されて大人になった気で精一杯背伸びをしていた……ただの餓鬼だった。

悔しくて嬉しくて切なくて哀しくて、全ての感情を浮かべながら俺はただ泣くことしか出来なかった。

 

 

―――そして、俺は丘にいる。

涙は枯れつき、空を夕闇に染める僅かな時間……俺は丘の上で一人考え事をしていた。

すると……そこに現れた一人の少女。

俺を殺した少女、俺を殺してしまった少女。

彼女ははにかみながらそこに立っていた。

 

 

「ねえ、何で祐一は死なないの?」

「は? ……いきなりなんだよ」

 

 

そして物語の幕はゆっくりと開いた。

全てが完結するまでにかかる時間は長く、そして果てしなく遠いハジマリの物語。

彼等はここから歩き始める、遙か彼方にある未来へと。

これは相沢祐一は秋桜麻衣子に会い、秋桜麻衣子は相沢祐一に出会ったお話の一部。

そう、全ては―――世界の結末だけが"それ"を知っている。

 

だがその前に、人類の天敵たる存在にされた少年は一言だけ呟いた。

泣く様な声で、しかししっかりとした諦めでも達観でもない……ただ真実のみを語る口調で。

その言葉を全てから否定させられた傍観者へと告げた。

相沢祐一はその一言にどれだけ救われたのかはわからない。

相沢祐一がその後この言葉をどう受け取ったのかはわからない。

だが確実に、一つの少年の心には届いた。

そして……彼等は"それ"を得るのだ。

否定でもなく拒絶でもない、ただそこにある事を許してもらえる『許可』を。

 

 

「だってさ……ユーイチに会えたもん」

 

 

End

 

 

 

 

 

 

あとがき

祐一と麻衣子の短編。

だけど主役は多分"人類破壊兵器"、彼は大人だと自分ながら思うんですけどどうでしょう?

人間は大人になったと自分で感じている内はまだまだ子供です。

体は大人でも心は子供のままですので気をつけてください、最近多いですよね。

管理人は自称永遠の子供です(ぇ

大人になりたくないピーターパンですので、自分。

正直そういうやつが一番性質悪いです、これも気をつけましょう(苦笑)

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