「つまりお前達が今回の護衛につくハンターだという事かい?」

「そうですね、一応そういう事になっているみたいです……」

「何だその気の抜けた返事は、こちらは金を支払って雇っているのだからしっかりしてくれよ」

 

そういいながら、俺の頭を"可能な限り背伸びして"ポンポンと依頼人は叩いた。

まるでその頭には脳みそが詰まっているのか確認したような、そんな行為だった。

……だけどそんな事は最早気にならない。

 

「……えっと、もう一度確認しますけど―――あなたがアレイス卿でよろしいのですよね?」

「だから何度もそういっている、頼むから一回で理解してくれ」

 

そう言って、アレイス卿は目を細めながら少し不機嫌そうに首を横に振った。

どうやら本気でこちらの対応に呆れているようだ。

そんな依頼人の姿を見ながらも、しかし謝るより先に俺は後ろにいる麻衣子に確認を取ろうと後ろを向いた。

 

「………………なぁ、麻衣子」

「何よ、言いたい事はわかるけど任務は任務でしょうが」

「だって……お前……"アレ"だぞ?」

「分かってるわよ、でもプロなら割り切れ―――それにあんたの方がハンターとしてはランク上でしょうが」

 

そう麻衣子に言われて仕方なく俺は現実を認める事となった。

―――よし、わかった、これが今回の依頼人……ひいては護衛対象だ。

そうだな、プロのハンターならこのぐらいのトラブルは簡単に乗り切るべきだ。

俺は心の中で呟きながら精一杯の笑顔で依頼主に振り返り、軽く頭を下げた。

 

「わかりました、それではエヴァン・マリィ・アレイス様―――ロンバルディアまでの護衛を務めさせて頂きます」

「うん、是非励んで護衛してくれ……これでも敵が多い職業柄でね、敵は魔物より人間の方が多いだろう」

 

アレイス卿、アヴァター王国の"王宮錬金術師"は視界を遮る長い黄金の髪を邪魔くさそうに払いながら言った。

 

 

 

 

ロードナイツ

 

〜傍観者の旅路〜

「傍観者と天を駆る少女」

 

 

 

 

「それにしてもあれだね、ハンターという職業は儲かるのかい?」

 

ロンバルディアに向かう船の上で、アレイス卿は購入したマナマティアのジュースを実に美味しそうに飲みながらそう聞いてきた。

実に"様"になっているその格好に笑いを堪えながら俺は自分が購入したヤマネコウのジュースを軽く振りながら答える。

 

「いえ、別に儲かるわけでもないですね……どちらかというと損の方がでかい場合もあります」

「ほう……それでは一番損をした場合の任務について聞いてもいいかな?」

「一番……損をした任務ですか……、あ〜…幻想種に近い魔物と戦った時かなぁ?」

 

それは俺がまだハンターに成り立ての頃で右も左もわからなかった時の事だ。

「薬草摘み」の依頼を受けて単身指定されたとある山中で薬草を採っていたのだが、任務とは別に戦闘が起こってしまった。

私闘なんてガラじゃない、しかも一銭にもならない戦闘だったのだが……相手が悪かった。

薬草摘みをしている場所がよりによって"狐"が多く棲む未開の地だったらしい。

依頼人が何度も「その地区にはいくな」と念を押されていたのだが、薬草を摘んでいる内に間違って彼らのテリトリーに入ってしまったのだ。

思い出したくもないが、あれは不幸な事故だった……。

乱れ散る森林に飛び散った俺の血、そして血走った目で威嚇してきた狐。

まあ何とかその後色々駆使して生き延びれたけど、正直死ぬかと思った戦いだった。

しかも摘んでいた薬草は狐の操っていた火球に全て燃やし尽くされてあえなく任務失敗……散々な結果だったな。

 

「……で、その結果報酬もパァで怪我だけして終わりですよ」

 

やってられませんっと俺は肩を竦めてヤマネコウのジュースを一気に口の中へ流し込んだ。

自分の失敗談何て話したくもないが相手は依頼人、無下に断るわけにもいかなかったので……今までで一番被害が"少なかった"話をした。

まあ俺が一度も"死んでない"時点で素敵な成果だったわけだが……そんなつまらない話を聞いて、しかしアレイス卿は可笑しそうに笑う。

 

「くっくっく……なるほど、ちなみにその狐……尾はいくつあった?」

「え? あー……確か四つかな?」

「四つか……いい数字だ、四尾の狐―――なるほど、色は何色だった?」

「色ですか……少し銀色だった気が……」

「ほぅ、銀狐か……四つの尾がある野狐の類―――確かに幻想種に近い魔物だな」

 

―――流石は王宮錬金術師、"妖狐"の事にも詳しいか。

それにしてもあの狐、元気にしてるかね……人を襲った代償として尾を2つばかし"否定"してやったけど――今も俺を恨んでるだろうか?

……まあそんな事今考えても仕方ないか、それよりこの人何考えてんだ?

まるでさっきからこっちを探るような質問ばかり、何か目的がありそうだが……。

 

「そういえばまだ聞いてませんでしたが……ロンバルディアには何をしに?」

「………ん? それは答えなければならない質問か?」

「いえ、ただちょっとした知的好奇心です」

「知的好奇心っ! 素晴らしい―――君の思考を満たすために是非話そうじゃないか!!!」

 

……錬金術師の考えている事ってよくわからないな。

何故か一瞬にして嬉しそうに顔をとろけさせる依頼人に俺は一つため息をつく。

そんなにいい言葉だったのか……知的好奇心。

俺は気を取り直し、何故か嬉しそうな顔をしている依頼人に聞いた。

 

「それで……ロンバルディアには何をしに?」

「―――まあ簡単に言うと混沌と秩序を並べて比較してみようかと思ってね」

「…………は?」

 

一瞬理解が出来なかった、いや―――理解する気も起きなかったと言った方が適切だろう。

いきなり何を言い出すんだ、混沌と秩序を並べて比較……って意味がまったくわからん。

そんな俺の反応に気づいたのかアレイス卿は苦笑いを浮かべながら補足説明を加えた。

 

「何―――少しばかり"不老不死"に興味があってね」

 

 

 

 

「―――暇ね」

 

一方、祐一達の話には加わらず一人船内の食堂でランチを平らげている秋桜麻衣子は誰にいうでもなくそう呟いた。

元々頭脳労働より肉体労働派の麻衣子はバリバリの頭脳派である錬金術師との相性は悪く……数分の会話で見切りをつけ祐一を残し撤退していた。

どうにも小手先で考える輩は好かない、まるで何処かの馬鹿みたいに理屈を並べて悦に入る異常者に思えて仕方ないのだ。

 

「あ〜あ、暇〜」

 

またも同じ台詞を吐きながら、通算5枚目になった空のランチの皿を先に平らげた4皿の上に重ねた。

いい感じにお腹も膨れた、まだ腹八分目といった所だが―――これ以上食べると流石に任務に支障が出ないとは限らない。

何事もほどほどにっと考えながら麻衣子は立ち上がり、そのまま娯楽ルームへと足を進めた。

錬金術師の計らいで結構豪華な船の旅となったのでこの船には様々な娯楽施設が設備されているらしい。

食後の一休みでも出来れば……っと麻衣子は辺りを見渡す。

 

「カジノにバーにプールか……大して面白いものはないわね」

 

そう呟きながらも、麻衣子は自分が持っていた所持金をチェックする。

……ふふふ、今あの馬鹿は依頼人と何処かで会話してるはず―――これはチャンスね。

自らの所持金を確認すると麻衣子は顔に笑みを浮かべて迷い無く歩き始める。

―――麻衣子が進む先には何人かの男達が集まってカードを使いギャンブルをしているテーブルがあった。

 

「―――ねぇ、私もまぜてくれない?」

 

麻衣子は微笑みながらギャンブルをしている男達へと話しかけた。

しかし……顔は笑っているが……瞳は笑っていなかった。

 

 

 

 

「不老不死……ねぇ」

 

俺はアレイス卿の言ったとても"馴染み"のある単語を復唱してみた。

不老不死、老いない死なない完全なる生命体―――不完全な、しかし完全なる個体。

そんなものに憧れる理由がよくはわからないが、アレイス卿はそれに興味があるらしい。

 

「―――ふふ、君にはまるで興味がないみたいだね」

 

俺の怪訝そうな顔を見て、アレイス卿は笑う。

まるで出来の悪い愛弟子を暖かく見守る先生のように。

 

「だがね、君達ハンターや頭の固い魔法使いにはわからないだろうけどね……錬金術師の最終的な目標は完璧なる"不老不死"なのだよ」

「完璧なる不老不死……か、一つ聞いていいですか?」

「……ん? 何だね?」

「―――あなたは不老不死になって何を得ようとしてるんですか?」

 

それは疑問、自分がそれに"近い位置"にいるからでる素朴な疑問だった。

だって不老不死なんてなったって何にもならない、老いない死なない―――では"意味"がない。

生の反対は死、だが不老不死はその理を壊し人間を"停止"させる事となる。

時間に逆らい、運命を拒絶して―――何を求めるというのか?

そんな俺の疑問に対し、錬金術師はただ一言だけ答える。

 

「―――何も」

 

何もない、錬金術師はそう答えた。

不老不死になり、永遠という時を過ごす理由は―――"何もない"

ならば何故不死を目指す、ならば何故不老を望む。

 

「何も……ってどういう事ですか?」

「言葉通りさ、不老不死になった後の事など"なった後"で決めればいいさ」

「―――え?」

「問題は過程、不老不死が不老不死へと至る過程に私は興味を惹かれている」

 

過程、それは……工程と言うことなのか?

"そんなもののために"不老不死になるというのか、この錬金術師は?

そんなもの―――「死に意味はないけど経過には意味があるんだよ、死ぬまでの経過にね」なんて言ってた"あいつ"と一緒じゃないか。

俺には……理解できない、世界が優しいと言ったあいつ―――根本的な所で俺と考えが違うあいつの思考など――俺には。

 

「……大丈夫かい? 顔色が悪いな―――ふむ、少し話しすぎたか」

「―――いえ、大丈夫です――続けてください」

「そんな顔を真っ青にしながら言われても何一つ信じられないが―――まあ君がそういうのならそれでいい」

 

では話を続けようっとアレイス卿は残っていたジュースを一気に飲み干す。

そして空になったコップを静かに机に置くと……ゆっくりと視線をこちらに投げかける。

その瞳は―――何かを探るようで、実に居心地が悪くなる視線だった。

 

「先ほども言った通り私は不老不死に興味がある、矛盾と混沌と秩序を内包した個体としての完璧性を兼ね備えたある意味侮辱的なそれにね」

 

錬金術師は話し続ける、だが―――その瞳は俺に向かっていて―――まるで何かを聞き出そうとしているかのように。

 

「"賢者の石"や"霊薬エリクサー"などの研究をしているのが錬金術師だ、そして延長線上には必ず"死にたくない"という意志が込められている叶わぬ夢を追い求めるのが世界中に存在する錬金術師なわけなのだが―――誰も彼も"死ななくなった"後の事なんて考えてないんだ」

 

それは、生物として必ず思い当たる事―――自らの生命活動を失いたくない、死にたくない。

 

「いいかい? 錬金術師は"死"を恐れるあまり"生"の概念を忘れた生き物だ、だから死を"否定"して―――しかし生を"肯定"し忘れた愚かなる職業だ」

 

"彼女"は、エヴァン・マリィ・アレイスは……知っている?

 

「魔法使いが"あの夢"を追い求める愚かなる職業だと同じように、錬金術師も不老不死なんて夢物語を信じている馬鹿な連中なんだよ」

 

そして、ついにアレイス卿は俺の襟元を掴み……鬼気迫る顔でこちらを見据える。

 

「そう―――不老不死が"叶わぬ夢"なら私達は安心して研究を続けられた、絶対に叶わない夢を追い求めて死ぬまで研究を続けて……でもやはり不老不死なんてものは夢物語だったと呟きながら幸せに死んで逝けたんだ」

 

その顔は、責めているようでもあり、許しているような顔だった。

 

「わかるか否定者、"お前達"が"私達"を壊したんだ」

 

そしてそれは間違いなく、ハンター相沢祐一に対して話しているわけではなく……傍観者である相沢祐一へと恨み言だった……。

 

 

to be continue……

 

 

 

 

 

 

あとがき

いきなりキレ気味アレイス卿、いきなりびっくり祐一君。

はい、毎日更新第三弾……ロード外伝更新です!

そろそろいい加減色々パンク気味ですが……まあ次回も頑張ります。

Ads by TOK2