「すまなかったね、どうも感傷的になってしまったようだ……」

 

アレイス卿はそう言うと一方的に話を打ち切り個室へと篭もってしまった。

……アレイス卿の話を振り返る、あれは明らかに相沢祐一の本質に迫るものだった。

彼女は……どれだけの事を知っているんだろうか……。

 

「―――しかし、不老不死ねぇ」

 

万物の物質にとってありえない永久機関、不老不死。

老いない死なない壊れない腐らない錆びない―――不変の極致、世界から"否定"された物質。

それが……不老不死、絶え間なく流れる時に逆らい留まることを選んだ愚かなる絶対者。

錬金術師は、そんなものになりたいといった……いや、正確には"なってみたい"といっていた。

恐らく、錬金術師はすでに知っている―――不老不死なんて……なれるはずがない。

なれるのだとしたら……俺のように"本質"から狂わないといけない、そんなの……"人間"には絶対不可能だ。

 

「だけど目指す、それが錬金術師……か」

 

確かに錬金術師は物を"変化"させ性質を"転換"させてしまう職業、だからこそ……最終的に不滅の物質を望む。

賢者の石、ありえない物質……絶対に壊れない石―――その石を持つ者は石と運命を共にする擬似的な不老不死になれる。

傷を負っても魂が生きている限り瞬間的に塞がり病魔さえも寄せ付けない世界最高純度の"癒す"魔道具だ。

霊薬エリクサー、生命の樹を理論解凍して作り出される命"そのもの"の液体。

この霊薬を飲んだものは"死んでいても生き返る"という矛盾した再生能力を一時的に得る。

……そんな夢物語な物質を作り出そうとする愚かなる者、錬金術師。

世界の法則を理論で無視をしようとする異端の能力者達の最終目標は……ありえない理想郷。

だが、この錬金術師達の凄いところは……理論は既に完成させている所だ。

しかし……"人間"という限りある時間の中でその理論を完成させられる者は一人もいない。

何故ならば―――賢者の石も霊薬エリクサーも、一つ作るのに"数千年"かかってしまう。

だから、矛盾したことに……賢者の石も霊薬も"不老不死"にならないと作れない。

錬金術師は一代のみの限定的な職業、なので子孫に伝えて研究を繋げる事は不可能なのだ。

なので……そんな馬鹿げた物質は今まで、"一人しか"作り上げた事がないので精製不可物質とされている。

 

「そんな錬金術師達の"叶わぬ夢"を否定したのが―――俺ってわけなのか……」

 

きっと、多くの錬金術師達はそんな物質は作れないと……わかっていた。

"だからこそ"錬金術師達はそんな実現不可能な夢に挑み―――破れても不可能な夢に挑戦した意義を胸に死んでいく事が出来る。

だが……もし本物の不老不死者が目の前に現れたらどう思うのだろうか?

生涯をかけて研究して、やっぱり無理だと諦めた彼らの元に……何の苦労もしないで中途半端な"不死"を持つ傍観者が現れる。

そう、それは―――彼らが今までやってきた研究を否定する行為に他ならない。

自分達の研究は何だったのか、自分達の苦労は何だったのか……、何故"錬金術師でもない"お前は不老不死に近づけているのか?

 

「……そんな事言われてもなぁ」

 

俺は、軽く苦笑しながら船の上から青い海を眺める。

傍観者には錬金術師の考えがわかるはずもない、だって……俺は別に"死にたくない"わけじゃない。

ただ"死なない"だけ、この世界ではまだやることが残っている―――そう言う意味では俺はまだ"存在"はしていたい。

だけど、俺は不老不死なんて望まない……望むことそのものが俺自体を"否定"することになる。

だが……次に出てきた言葉は無意識ながら―――的確に今の傍観者の心を現した言葉だった。

 

 

 

 

「はぁ……死にてぇなぁ……」

 

 

 

 

ロードナイツ

 

〜傍観者の旅路〜

「魔物が住める街」

 

 

 

 

「はぁ……出来ることなら早く死にたい」

 

そんな物騒な事をいいながら、リィタは一人酒場でご飯を食べていた。

メニューを選ぶのもめんどくさかったらしく、テーブルの上には節操のない料理が並んでいた。

これらはリィタが注文したわけではなく、酒場の店主に「適当に作ってくれ」と頼んだ結果がこれである。

何故かメインとなる肉料理しか出されていないのはご愛敬だろう、酒場で酒の次に一番高い料理だった。

そんな店側の思惑を知ってか知らずか、リィタは箸を止めることなくたいらげていく。

 

「大体世の中には面倒くさい事が多すぎる、もっと……こう簡単になりませんかね?」

 

誰に言うわけでもなくそう呟きながら、リィタはまた新たに追加で出てきた鶏の蒸し焼きに手を伸ばす。

そんな彼女の姿を見て、呆然としている青年が一人……リィタの食事姿を見ながら固まっている。

彼の名前はアレク・オーシャン、ロンバルディアの精鋭騎士だ。

アレクは遺跡を出てリィタにそのままこの酒場に連れてこられた、そして現在に至る。

 

「……そういえばアレクさん食べないの?」

 

リィタは興味なさそうにアレクに視線を移す、するとアレクは驚いたように顔を強張らせた。

 

「い、いや……あまり空腹ではない……」

 

アレクはそう言うと出された酒を一気に煽る。

いつもなら爽快感すら感じる酒が―――今日に限って何の味もしない。

それもそのはず、まず第一に……自分は何故ここにいるのだろうか?

先ほどまで自分が行っていた行為は国家反逆罪、捕まってしまった時は死刑を覚悟していた。

だが―――リィタは何故か自分を酒場に連れ込み一言、「奢ってください」だった。

何故年下の少女にそんな事しなくてはいけないのかと思ったが口には出さずに頷いてしまった。

何故なら相手は二つ名持ち……万が一機嫌でも損ねたら―――どうなるか何て考えたくない。

 

「そうですか、まあどうでもいいですけど……」

 

そう言ってリィタは酒場の店主に追加の注文を頼む、すると亭主は笑いながら了承する。

……まだ食べる気なのか、この少女は?

アレクはそう思いリィタの顔を伺う、だがリィタはいつも通りの無表情で追加の注文を黙って待っている。

流石に自分は精鋭騎士、給金は十分出ている為にこのぐらいの出費なら痛くない。

だが……流石に食べすぎだ、こんな小柄の少女の何処に入っているのだろうか?

 

「あいよ嬢ちゃん、沢山食べな!」

「………ども」

 

軽快そうに次なる料理を持ってきた店主に対し、リィタは無愛想に受け取った。

その姿に何を思ったのか……店主は苦笑しながらカウンターへと戻っていく。

……リィタは運ばれてきた牛の煮物を黙々と食べ始める。

アレクはそんなリィタを見て、小さくため息をついた。

 

 

 

 

そして数日後……船はようやく港へ到着した。

アレイス卿はあの出来事は無かったことにするらしく、何事もなく俺に話しかけてきた。

こちらとしても依頼人と不仲になるのは拙いので合わせるように普通に接した。

そんな微妙にチグハグな俺達を見て、麻衣子は不思議そうに首を傾げていた。

そんなこんなでようやく地上に降り立った俺達は、取りあえず港町での一泊を決め早々に宿屋へと向かった。

 

「いや、長い船旅だった……実にいい体験をしたよ」

 

アレイス卿は船から下り宿屋へ向かう最中同じような感想を何回も繰り返した。

……その姿はまるで新しい玩具を買って貰った子供に似ていて、祐一達は軽く苦笑しながら顔を見合わせた。

目立つ金髪に腰まで伸びた髪、そしてブカブカの白衣を着た……"小さな少女"―――それが俺達のエヴァン・マリィ・アレイスを見た第一印象だった。

しかしその実精神年齢的には十分大人らしく、会話内容も子供らしからぬ口調でかなりの知能を兼ね備えている。

見た目に騙されると痛い目をみる、それが祐一のアレイス卿を改めて見た感想だった。

 

「それでは明日、ロンバルディアに向けて出発します……十分体を休めておいてください」

 

到着した宿屋で、俺はそう言ってアレイス卿と麻衣子を先に宿屋に入るように促した。

そんな俺をアレイス卿は怪訝そうに見ていたが、結局何も言うことなく黙って宿屋へと入る。

麻衣子もアレイス卿の後を追い、宿屋へ入る直前……こちらに一瞥して一度だけ頷いてそのまま宿屋に入った。

……どうやら麻衣子は気づいてるようだな、段々とハンターとしての技術を会得し始めたようだ。

 

「さて……っと、行きますか」

 

俺は軽く自虐するように呟くと誘われるまま、港町に入った瞬間から感じていた"視線"の方角へと歩き始めた。

罠か囮か……どちらにしろふざけたやつだ、わざわざこんなに分かりやすい痕跡を残しておくなんて。

そんなに俺に見つけて欲しいのか、それとも俺を宿屋から引き離したいのか……どっちかは知らないが誘い乗ってやる。

視線が強く感じる方角へと歩き続けて町中からついには町の外にまで出て、小さな林まで俺は連れてこられた。

どうやらここに視線を送っていた張本人がいるらしい、林の中には明確な敵意が満ちていた。

 

「おーい、わざわざ来てやったんだ……そろそろ出てこいよ」

 

俺は姿が見えぬ相手にそう呼びかけると、何処からともなく声が聞こえはじめる。

 

『貴様、エヴァン・マリィ・アレイスの護衛の者だな?』

「あぁ、そうだけど?」

 

俺は聞こえてくる声の居所を探るべく意識を集中するが……何故か察知出来ない。

意図的に魔法や何かで妨害工作を行っているようだな、中々のやり手だ。

そんな俺の様子を見ているのか、声は微笑を含めながら辺りに響く。

 

『ならば手を退け、でなければ貴様らは死ぬ』

「随分直球だな、そんなに腕に自信があるなら出てきたらどうだ?」

『それは出来ぬ、如何なる理由があったとしてもこの身を晒すような馬鹿な真似はしない』

 

まあそりゃそうか、そんな安い挑発に乗るようじゃただの素人だろうからな。

それにしても、流石は王宮錬金術師……俺達に護衛を頼むだけのことはあるな。

目的に少し近づいただけでこれか、まったく……アレイス卿はどんな事をしにロンバルディアへ向かうんだか。

 

『答えを聞こう、護衛者よ』

「まあ結論から言うとだな……ふざけんなこの野郎」

 

何のための護衛だと思ってるんだこいつは、こんな簡単に依頼を放棄するぐらいなら最初から受けるかってんだ。

声の主も俺がそう言う事をわかっていたのか声の口調を変えずに続ける。

 

『そうか、まあいい……ならば貴様らには死しか残されていないな』

「あぁそうかい、そりゃよかったな」

『ふん、そら……土産だ―――苦痛なく死ぬがいい』

「………何? 何を言って……っ!?」

 

るんだ、そう続けようとして俺は自らの胸に刺さった"何か"を見下ろした。

胸からまるで生えたように血を一滴も流さず貫いている白銀の刀身、それは紛れもなく……"刀"の刃だった。

気配がまったくしなかった接近者は、俺に突き刺した刀を一息で抜き去ると―――俺の体は勝手に地面へと落ちた。

相変わらずおかしな事に、血は一滴も出なかったが……"中身"を貫いている事は感じる。

魔道具の類か、あれは……殺気もなければ殺意すら篭もっていない刀身に反応が遅れてしまった。

しかも、恐らくこれほど素早く背中を差した所を見ると……何か特別な歩法でも使っているのかもしれない。

 

「―――くそっ、何だってんだ……!」

 

俺は悪態をつきながら前のめりに倒れる。

出来ることなら、背中を差した暗殺者の姿を見ておいておきたかったが……体が動かなかった。

―――おいおい、こんな所で死ぬのかよ……俺は。

最近鈍ってるとは思っていたけど、これほどとは思わなかった。

 

『我ら"灼刃"の一族に逆らう者はこうなるのだ、冥土の土産によく噛み締めておけ』

「……灼刃の一族…だと?」

 

どっかで聞いた事があるような……駄目だ、思い出せん。

段々と沈む意識の中で俺はボンヤリと思考を巡らせる。

さて―――麻衣子だけでこいつらに勝てるね、滅茶苦茶不安だ……。

そう声に出さずに呟き……俺は静かに目を閉じた。

 

 

 

 

そんな倒れた祐一を見下ろしながら、祐一を背中から差した人影は刀を鞘に仕舞い込み用心深く周囲を見渡すと独り言のように呟き始める。

 

「目標死亡確認、"静寂の朱"の効果は実証されました」

 

そう事務的に呟く人影に表情は無く、ただ冷徹に倒れている祐一を見下ろしていた。

すると人影の呼びかけに応じて先ほど祐一に話しかけていた声が林に響き渡る。

 

『そうか、ご苦労……中々のやり手だったようだが流石に灼刃一族の宝具である"無刀"には気づかなかったか』

「そのようです、しかし最後の最後……彼は笑いながら倒れました、まだ油断は出来ません」

『彼以上に強い護衛がいるのかもしれんな、気をつけてかかれ』

「―――――はっ、彼の死体は如何なさいますか?」

『放っておけ、ここらに捨て置けば魔物の餌になろう』

 

声の主はそれだけ言うと沈黙した、人影の方も声に従い祐一を置いて林の出口へと歩き始める。

目標は―――後二人。

 

 

to be continue……

 

 

 

 

 

 

あとがき

いきなり死亡、弱いぞ相沢祐一。

まるで何処ぞのザコキャラ扱いの祐一君、神よ……彼に救いの手を……(ぇ

毎日更新第五弾……ロード外伝更新、どんどんぱふぱふ〜(やる気ねぇ〜orz

投票制を取って更新してみましたが、予想以上に票が集まったことに感謝!

本編は次回、明日更新なので……また主人公空気になりそうな悪寒。

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