騒ぎが治まった屋上……そこに北川潤と川澄舞は立ち尽くしていた。

川澄舞が葬った牙紗は倒れた後、復活する事はなく……ただ炭になって風に流されていった。

これが吸血鬼、牙紗の呆気ない最後……か。

北川潤はそう思いながら一つため息をついて川澄舞に向き直る。

 

「なぁ……川澄先輩」

「………?」

「どうやって不死者の牙紗を剣一本で倒せたんですか? もしかしてその剣に『不死者殺し』の魔法でもかかってるですか?」

 

不死者は本来殺せない。

『死がない者』、その異名は伊達ではなく本当に死という概念が存在しない。

人には物は殺せない、それと同じように当たり前の如く不死者は殺せないのだ。

だから不死者を倒すには消滅させるしかない、再生する前に存在そのものを消し去ればいい。

しかし、一瞬で消し去るような大魔法を扱えるものなどそうはいない。

つまり……基本的に不死者は殺せないのだ。

だが、その呪い染みた不死性も同じように呪いのかかった『不死者殺し』という限定武器があれば話は別だ。

不死者の不死性のみを殺す為に作られた剣、それが『不死者殺しの剣』だ。

その剣で斬りつければいくら不死者といえども一時的に不死性を失ってしまう。

大変貴重な物で数十個しか作られていないといわれている『不死者殺し』だが川澄舞の剣もその類なのだろうか?

 

「………そんな魔法はかかってない」

「……え? それじゃあなんかの魔法?」

「………似たようなもの、ただ単に私は吸血鬼の再生能力を止めただけだから」

「能力を……止める? そんな魔法が?」

 

『魔法破壊』の類だろうか?

いや、それは違うな……不死者の呪いは魔法の力ではなく"現象"だ。

いくら『魔法破壊』の魔法が使えたとしても今回の事には適応されるはずがない。

すると……俺の知らない魔法だろうか?

だけど学園にある大抵の魔術書は読破した俺がそんな便利な魔法を知らないはずがない。

……となると俺の家宝みたいに隠蔽された川澄家直伝の魔法だろうか?

―――ふむ、興味深い。

 

「……………これ以上は話せない」

 

舞はそういうと北川から顔をそむけた。

………これ以上は企業秘密って事か、まあそうだろうな。

しかし流石は川澄舞、あれだけ俺が苦戦した吸血鬼を傷一つ負わずに打倒しちまった……。

カノン学園一の実力者の名は伊達じゃないな。

つくづく思う……よかった、川澄先輩と同級生じゃなくって……。

 

「……そうですか、いえいえ……それだけ聞ければ十分です」

 

今回の騒動で収穫は多いにあった。

魔法使いとしても、一人の人間としても……俺がこれから進む道が開けたような気がする。

敵に向かってこんな言葉は変かもしれないけど、吸血鬼とやりあえてよかったかもな。

色々な教訓が出来た、これからは俺も……もう迷わず進めるだろうな。

 

「………そう」

「それじゃあ俺もそろそろ行きますかね」

「………? 何処に行くの?」

「ちょっと心配事が出来まして……、学園内を見回ってきます」

 

傍観者はこれで終わりだ。

まあ俺も少しは川口を見習ってボランティアにせいを出しますかね。

こんなんでも俺は2年の部では一番を取った男だ、少しは学園の役に立つだろうしな。

あ……でも基本的に学生は戦争の介入にはご法度なんだよな……どうしようか?

学園内に入り込んだ敵に対してはどうなんだろうか?

うーん、学園長にでも聞いてみるか?

 

「………そう、それじゃあ気をつけて」

「わかってますって、……あぁ、それと川澄先輩」

「………?」

「ありがとうございました、正直助かりました」

「………気にしないでいい」

「了解、それじゃあまた学園で!」

 

そして俺は後ろを振り返らずに走り出した。

あの吸血鬼が教えてくれたのも、それは単純なものだった。

自分らしく生きる、そして自らの力で道を切り開く。

 

―――すると後ろで川澄先輩が小さく「……頑張れ」って言ってくれていたような気がした。

 

 

 

 

ロードナイツ

 

第十九話

「天を駆る少女」

 

 

 

 

『なあ……我が主人よ』

「………何よ?」

『そろそろ血を止めるのも限界なんだけどな』

「………気合で持たせないさい」

『たく……剣使いの荒いマスターだぜ』

 

草薙はそう愚痴りながらもしっかりと止血をしてくれている。

しかし、刻一刻と私の体力は限りなくゼロに近づいていく。

………まずいなぁ、やっぱり止血してるだけじゃ基本的に体力なんて回復しないか。

早いとこあの腐れ吸血鬼を見つけないとこっちが先に参りそうだ。

まったく……何で負傷してまで私は吸血鬼なんて追ってるんだろうか?

まあこの際理由なんてどうでもいい、私はもう動き出した……それだけで十分だ。

 

『おい、正面に魔物4匹……何れも雑魚揃いだ』

「………ちぃ、ただでさえ体力を温存しときたいのにそんな無駄な戦闘はしたくないっつーの」

『でもどうやらあっちはやる気満々みたいだぜ?』

 

まあそりゃそうよね……魔物にとって負傷した人間に脅威など感じないだろう。

私があんな雑魚に舐められるなんてね、落ちたもんだわ。

これが遙か昔に聖女と呼ばれた私の末路……だったら笑うわね。

国のお偉いさん方にこの姿を見せてやりたいわ、「やっぱり聖女伝説は妄想でした」ってね。

 

『物思いに耽るものいいけどな、―――来たぜ?』

「………わかってるわよ、草薙」

『なら戦え、そして勝て……俺が望むのはそれだけだぜマスター?』

 

何がそれだけよ、ちゃっかり注文してんじゃないの。

まあまだこんな雑魚に負ける気はさらさらないけどね。

 

「4秒解放、草薙――同調開始」

『了解、4秒間だけ借りるぜ?』

「好きにしなさいよ、どうせまだあっても使えない魔力なんだから」

『んじゃ遠慮なく……っと、"同調完了――4秒間執行可能"』

 

草薙がそう告げると体が羽のように軽くなる、傷の痛みさえも感じなくなった。

4秒間だけの奇跡……同調状態の私はただ敵を討つのみに特化した戦闘兵器。

足りない所は補強して、足りる所は磨り減っていく。

それが同調、対価を払う事で自らの体をまるで盤上の駒のように扱える反則技だ。

 

「―――ふっ!」

 

舞う、一段階目の解放では10歩の所を2歩まで詰められる。

しかし……二段階目の同調状態ならばその2歩を1歩まで縮められる……!

 

「―――せぃっ!!!」

 

第一刀で戦闘を歩く魔物の首を跳ね飛ばす……!

残りは3体、奴等が気づく前に殺し尽くす!!

 

「―――はぁぁぁ!!!!」

 

切り裂き斬り付け次々に首を跳ね飛ばす。

生命力が高い魔物だって首を跳ね飛ばされれば一発お陀仏だ。

―――まさに疾風、風が当たり前のように体を通り過ぎるが如く……草薙の一刀は次々に魔物を斬り付けていく。

およそ魔物達も自分が斬られた事には気づいてはいないだろう。

それほどまでに速く、そしてそれほどまでに完璧に命を一刀で絶たれていた。

 

「―――っと、終わったわね」

 

通り過ぎた麻衣子はそう呟きながら後ろを振り向く。

………そこには見事に4体の魔物の死体が転がっていた。

時間にしておよそ3秒、魔物一体にかけた時間は1秒以下……まさに風が如し実力である。

 

「同調解除……っと、あんた止血まで解除すんじゃないわよ?」

『んな事したらおめぇがお陀仏だってーの』

「気合いれて止血しなさい、………っ!?」

『同調解除完了、どうだよ? 痛む体が舞い戻った気分は?』

「………最悪よ、この馬鹿」

 

幸い草薙が止血をしてくれているお陰で血は流れていないが体は既に限界だった。

同調状態への対価、それは魔力の譲渡と肉体の過剰運動だ。

人間の体の限界というリミッターを外し、一時的に限界破棄する事によって得る爆発的な運動量は体に害を及ぼす。

元々人間はリミッターがなければ生きてはいけない。

長い人生、人間は常にリミッターに縛られ……そして守られながら生きている。

元に戻らないという条件下の元リミッターを外せば一時的に魔物以上の運動能力を得る事が出来る。

しかし、反動は大きく……4秒間だけの執行であったが傷ついた麻衣子の体には負担として圧し掛かってくる。

 

「………たく、これ以上の戦闘は勘弁だわ」

『元々既に戦闘出来る状態じゃねぇしな』

「………でもあの吸血鬼を倒すまでは止まれないわよ、もう」

『そりゃわかってるが……おい、我が主人よ』

「………何よ?」

「あの吸血鬼……何処にいるのか知ってるのか?」

 

………それは盲点だった。

しまった……、あの後暫く気を失ってたから吸血鬼が何処に行ったかは知らない。

とりあえず宛てもなく彷徨っていたがどうやら既に近くにはいないようだ。

私はその後の事を本気で考えていなかった、血を流し過ぎて頭に血が行ってないかしらねー?

 

『どうやら何も考えてなかったみたいだな、マスター』

「う、うるさいわね」

『はぁ……そんなんで吸血鬼に戦いを挑もうってんだ、流石我が主人だぜ』

「………馬鹿にしてんの?」

『馬鹿にしてるさ』

 

この剣折ってやろうかしら?

こう……ポキッと綺麗に真っ二つに。

今なら多分この命と引き換えにするぐらいの覚悟があれば折れそうな予感がする。

 

『何物騒な事考えてんだ、………宛がないわけでもないだろ?』

「………む、どこよ?」

『あいつはどっかの馬鹿と同じ戦闘狂だ、なら戦闘が出来る場所だろ?』

 

そのどっかの馬鹿が私だったら覚えとけよ、草薙。

この怪我が治ったら絶対折ってやる、死んでも化けて出て呪ってやる。

しかし……なるほど、戦闘が出来る場所……か。

カノンで牙紗ほどの化け物が戦闘を仕掛けそうな場所だ、かなりの実力者がいる所だろう。

………このカノンで実力者が集まるところといえば、私の知ってる中では王宮か学園ね。

 

「―――ここから近いのは?」

『学園……だなぁ』

「………なら決まりじゃない、カノン学園に向かうわよ」

『舞い戻るのかい? 元凶はどうすんだ?』

「何言ってんのよ、私は一度確かに負けたの……敗者に何期待すんのよ」

『それで吸血鬼にリベンジってか? ………今度こそ本気で死ぬぜ?』

 

草薙の言葉は重みを得て私に真実のみを伝えていた。

まあこのままいても数時間ともたない命……だったら華やかに舞い散ろうじゃない。

それに……元凶の方は私が行かなくても何処かの馬鹿が勝手に終わらせるでしょうしね。

 

「構わないわ、行くわよ……草薙」

『へいへい、マスターの気の向くままに』

 

私は歩きだす、その先にあるものは勝利か敗亡か……それか他の結末か。

だけど、どの道に行こうが後悔はしない。

 

 

―――だってこれが私の選んだ歩む道なのだから。

 

 

to be continue……

 

 

 

 

 

 

あとがき

第十九話いかがでしたでしょうか?

もうリベンジ出来ねぇですよ?(ぁ

まあこんなすれ違いは戦場ではよくあることです。

学園に集まりつつあるメンバー達、果たしてどうなることやら……(´A`)

次回は秋子さん登場〜(ノ´∀`)ノ

 

 

 

 

―――第十八話★用語辞典―――

 

製作中

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