「夜……か、こりゃ持久戦になりそうだな」

 

とある住宅街の路地裏を通りながら学園へと目指している相沢祐一はそう誰に言うわけでもなく呟いた。

……言葉の通り、空は漆黒が覆い尽くそうとしている。

夜、それは万人が恐れる暗闇でありながらも世界には欠かせない存在。

 

「はぁ……、これからどうなるんだか……」

 

あちらこちらで衝突が続いている所を見るとまだ決着はついていないようだ。

……今回はカノン側に位置する俺はどちらかといえばカノンに勝ってほしい。

それは偽りのない事実だ、だけど……戦争とは悲しいもので……結局は力がある方が勝つ。

今のところカノン側が劣勢、結構押され気味のようだ。

 

「………それにしてもおかしいな」

 

さっきから魔物の進行が減らない。

カノン側が押されるのも当然だ、カノン側は数が順調に減っていくのに対し……魔物側は刻一刻とその数が増えていく。

麻衣子が元凶を止めに行った事は確かだからそろそろ何か動きがあってもいい頃だと思うんだが。

……まさかとは思うが、あいつ……やられたのか?

 

「はっ、まさかなぁ……」

 

俺より戦闘能力で勝るあいつが勝てないわけがない。

俺が倒した幹部級だってそんなに強くはなかった、まああれはただの雑魚だったんだろうけど。

それにあいつには草薙がある、その部分で言えばあいつは幻想種にだって挑めるぐらいの力はある。

"第三段階"の力さえ発揮すれば敵はいないだろ、多分。

 

「お? やっと見えてきた」

 

路地裏を抜け、大通りに入った祐一の目に先ほど出て行った学園の門が見えた。

………学園まで後少し、そういえば栞達はどうなったんだろうか?

取り敢えず周りにいた魔物達は粗方片付けたけど……討ちもらしがあったかもしれないし。

無事だといいけどな、まあ……魔法使いの学校だし大丈夫か。

 

「―――っと、着いたか」

 

俺は一旦足を止め、学園を見上げる……。

すると……学園内のいたるところで魔力の衝突、発動を感じた。

……どうやら学園内も立派な戦場と化しているらしいな。

俺は軽く舌打ちしながら学園の校舎に向かい走り出す。

 

 

―――その後ろに着いてきていた一つの人影の存在を知らずに。

 

 

 

 

ロードナイツ

 

第二十話

「崩落」

 

 

 

 

「夜……ですね」

 

水瀬秋子は誰に言うわけでもなく、そう呟いた。

戦況は芳しくない、このままいけばこの城内までも戦場になるだろう。

しかも悪い事に日は落ち暗闇が空を染め上げる……これでは兵士達の士気も下がるだろう。

私が出るべきか……水瀬秋子は城内のテラスから見える戦場を目の当たりにしてそう思っていた。

しかし、それは現実問題として……出来ないのだ。

水瀬秋子は王宮魔術師、"王宮の中でのみ魔法行使を認められた"限定魔法使いだ。

いくら大層に『次元使い』を名乗っていても結局は王宮の中でしか『魔法使い』を続けられない。

カノン城の莫大なる権利を与えられ、それと引き換えに得た束縛。

本来『二つ名持ち確定』とまで呼ばれる『次元使い』は今ではカノンの守護者となっていた。

 

「しかし、厄介な時に攻め込まれたものですね……」

 

よりによってこの時期に攻め込んでくるとは……相手も考えてますね。

戦力バランスでは相手が格段上、しかも……"王が不在"では指揮も半減という所ですしね。

中々の策士、だけど負けるわけにはいきません。

幸いまだ城内で気づいてる者は少ない、士気が下がる事はないでしょう。

だけど……何れは分かる事、早めに手を打たないとあちらの思う壺になる。

まったく、難しい問題を次々と起こしてくれますね……。

 

「さてと、お城から動けない身ですがそろそろ私も動きましょうかね」

 

私が出来る事は少ないけれど……みんな多かれ少なかれ戦っています。

私だけ戦わないのはおかしいですからね。

 

「神崎さん、いらっしゃいますか?」

「………ここに」

 

私の言葉に反応するように微弱だった気配がくっきりと後ろに現れる。

……流石は神崎さんですね、ここまで接近してあれだけ気配を隠せる才能は一流の弓兵である証。

姿は相変わらず見えないがこの部屋の中にいるのは確実だろう。

 

「少し動いてもらいたい事があるんですがよろしいかしら?」

「………それは下に居る魔族達の事ですか?」

 

……驚きました、まさかもう気づいていたとは。

兵士達でさえまだ気づいていないほどの距離なので既に察知していましたか。

 

「そうです、どうにかなりますか?」

「………私が出来るのは多分、足止め程度に留まりますが」

「それで構いません、決して無理はしないように足止めをお願いします」

「了解しました」

 

神崎さんはそう言うとまた気配を消した。

多分今度はこの部屋から遠ざかっていったのでしょうね。

……さて、これで当面の時間は稼げますね。

 

「私は私の出来る事をしましょう」

 

あまり時間はない、神崎さんが足止めしてくれる時間内には済ませなくてはならない。

神崎さんがいくら凄腕でも……相手は魔族、最悪足止めが成功しない場合さえも考えなくてはいけない。

これからはもう後手に回らない、元々カノンは防壁が出来る前は自力で応戦していたのだ。

カノンの力の全てが防壁によるものだと思われているのは心外です。

ならばここが力の見せ所、学園にも通達した事ですし……皆さんも動いてくれる事でしょう。

特に……川澄さんや祐一さんには頑張ってもらいましょう。

それに北川さんに倉田さん、秋桜さんも居る事ですし……学園は安全でしょう。

 

「さて……、それじゃあそろそろ始めましょうか」

 

次元使い、その名前がただのお飾りではない事を教えてあげなくてはいけませんからね。

私が"王宮の中でしか使えない魔法使い"ではなく"王宮内を守護する権限を持った魔法使い"という事を……。

 

 

 

 

「………おや? 鬼仙さん、ちょっと止まってください」

「……どうした?」

「どうやら前方に障害発生です、中々の実力者のようですよ?」

 

鬼仙はその言葉を聞き手に持っていた杖を構える。

……前方に障害だと?

まだ誰も我々の存在に気づいてもいないような兵士達の中にもそれなりの実力者はいるものなのか。

 

「気配はないが……いるのか?」

「えぇ、間違いなく……ほんの僅かな気配ですが確実にいますね」

 

こいつがそういうのならばいるのだろう。

気配を読む力にかけてはこいつの嗅覚は異常だ、どんな小さな気配さえ決して見逃さない。

しかし……障害か、面倒な事にならなければいいがな。

 

「……どうする? 一気に仕掛けるか?」

「………そうですね、場所さえわかればそれもいいんですが」

「何? お前がわからないのか?」

「気配の消し方が巧妙でして……二重三重と防壁があるみたいに中々場所が割れません」

 

……なるほど、そうなると……足止めといった所か?

いや、ここまでの見事な気配断ち……足止めのつもりではないな。

一気に殲滅する気だな、ふっ……面白い。

 

「しかしどうする? ここで騒げば他の兵士達も気づくぞ?」

「そうですね……気配遮断を使っているからあまり騒げませんからね」

 

気配遮断、既に廃れた魔法の一種で古代魔法の派生魔法だ。

大抵は何処の家庭にも使われている簡易魔方陣程度の防壁で破られてしまう弱い魔法だ。

だが……今カノン城にはそんな簡易魔法陣さえ発動していなかった。

何故ならばカノンの外側に発動していた魔法防壁とカノン城に張られていた魔法は同じものだ。

その為防壁が破壊されてしまった際にカノン城の防壁さえも発動しなくなっているのだ。

そんな事を知らない兵士達は隣を素通りしている鬼仙達の存在を気づかずにここまで通してしまった。

王座の間のすぐ近く、豪華な装飾を施された王座の間へと続く王の階段の間。

ここを上がれば王座の間まで遮るものは何もない。

だが……鬼仙達はそんなものには興味がなかった……。

重要なのは王座の間の隣にある部屋、別名『守護者の部屋』

そこに今回の標的である『水瀬秋子』がいる、鬼仙達の目的はそこにあった。

 

「その為にはここの階段を上りたいんですけどね〜」

「……せめて何処にいるかはわからないか?」

「流石に僕も万能ではないので……」

 

そういって少し苦笑する。

……万能ではない…か、こいつからそんな言葉を聞くとはな。

 

「それならば持久戦……という事か」

「それしかありませんね、相手が痺れを切らすか……僕らがヘマをするか……ですね」

 

ちぃ、時間がないというのに……すんなりとはいかないものだな。

 

 

 

 

現れたのは思ったより手強そうな刺客だった。

初歩的でもう見なくなった魔法の気配遮断を使いここまで潜入してくる発想。

そして私の気配をいち早く感知して警戒する姿勢……流石は魔族。

可能ならば足止めではなく殲滅に移ろうと思ったが……勝ち目はあるだろうか?

―――本当に足止め程度の事しか出来ないかもしれない。

それは秋子様の命令を最低限守る事にはなるが最高の結果ではない。

 

「…………」

 

だが、今は『待ち』しかない。

こちらから仕掛けるのは無謀でしかない。

あちらも気配を完全には読めていないらしく目立った動きはない。

……長い足止めになりそうだ、私は心の中でため息をついた。

しかし……あの二人、大きい方は魔法使いのような格好をしている。

手には杖を持っているようだし間違いないだろう。

だが……問題は隣の子供の方だ、子供……というより子供ではないが見た目は大体17〜20程度だろう。

魔族に歳など関係ないだろうがやはり見た目的には子供っぽい男だ。

しかし、気を抜けば……一瞬でこちらが消滅させられる……そんな気がする。

それほど気味悪い気配を感じさせるあの男は何者なのだろうか。

 

「…………くっ」

 

思わず必要以上に歯を噛み締める。

……凄いプレッシャーだ、ここまでの緊張感など今までのどんな戦場でもなかった。

まるで喉元に常にナイフを押し当てられているような圧迫感。

これはもう集中力の勝負、だがこちらが根負けするわけにはいかない。

足止めというのは最大にして最後の防御方法だと私は考えている。

これを簡単に抜かれたら大変な事になる。

足止めは時間制限はない、稼げれば稼げるほどいい。

 

「まだ出てきませんね」

「………ちぃ、構わずこの部屋事爆破するか?」

「それは得策ではありませんね、足止め目的ならばどんな罠が仕掛けられているかわからないですから」

 

下でそんな会話が聞こえた、……そこまで考えているとは正直驚いた。

確かに階下などに魔法反射を施してある結界が仕掛けてある。

もしあのまま魔法を発動していれば爆破のエネルギーは彼らに降り注いでいただろう。

それに何の策もなく階段に足を踏み入れれば起動魔法の『エクスプロージョン』が発動される。

私が足止めに使う常套手段の組み合わせの一つだ。

まさかそれを初対面の相手に看破されるとは……初めてのことだった。

 

「ならばどうする? このままだったら一進一退だぞ?」

「そうですね……僕の威圧もあまり効いていないみたいですしね」

「………少しの被害には眼を瞑るか?」

「水瀬秋子とは無傷で会いたかったんですけどね、それも致し方ないかと……」

 

やはり強行突破か……魔族は人間よりも耐久力が高い。

人間対策である起動魔法などは魔族にとっては少々の邪魔にぐらいしかならないだろう。

だが……そんな事は相手が魔族だとわかった瞬間に分かっていた事だ。

これからが……私の弓兵としての本領発揮する場面だ。

 

「"―――矢は天を貫き地を砕く"」

 

階下にいる魔族には聞こえない程度の声で"詠唱"を開始する。

私は弓兵、本来弓を持ち矢を放つ者。

しかし、魔法使いには魔法防壁があるし剣士には頑丈な鎧がある。

その為現在ではただの矢では既に無力となってしまっている。

そこで考え出された方法、それがこの魔法の付属された矢だ。

それは魔法使いでもない弓兵が簡易詠唱のみで発動出来る特別な魔法の矢。

これならば魔法障壁だろうが頑丈な鎧だろうが貫通させる事が出来る。

 

「…………」

 

詠唱が完了し魔法の矢が青白く光を帯びる。

これで準備は完了した、後は……魔族が階段を一歩踏んだ時点で勝負が決まる。

足止めが成功するか……彼らに抜かれるか……。

この作戦にかかっている、これがもし失敗したら……後はこの身一つで出来る限り足を止めるしかない。

分の悪い賭けだ、だけど賭けるだけの価値はある。

弓を引き矢を引き絞る……、これで後はこの指を離せば矢は彼らを襲うだろう。

……これが上手く効けばいいんだけど。

 

「それでは行きましょうか……?」

「あぁ……そうだな」

 

二人はそういいながら軽く笑みを浮かべる。

……これは余裕の表れといった所なのだろうか?

私は二人の行動を注意深く監視しながら狙いを定める。

気配はまだばれていないはずだ、ならばまだ勝ち目は……ある。

 

「さて……いい加減終わらせましょう、"牙紗さん?"」

「あぁ、しょうがねぇな……」

「―――なっ!?」

 

いきなり後ろから聞こえた声に階下にいた二人から眼を離し振り返る。

するとそこには……金髪の少年がそこに立っていた。

黒い漆黒のマントに身を包みながらもその中から漏れ出す強烈な殺気……。

ここまでの接近を許すとは……まさか……この私がっ!?

 

「流石にこの展開は予想してませんでしたね?」

「………ちぃ、しまったっ!」

 

突然に現れた少年に気を取られて階下にいたはずの二人の存在を感じ取れなかった。

二人は既に階段を跳躍により上りきり漆黒のマントに身を包んだ少年と私を挟み撃ちにする形で包囲した。

……くそっ、まさかこんな展開になるなんて……!

 

「どういうことだ? 牙紗はさっき死んだと……」

「死んでますよ、一度はね……でも生き返ったんです」

「………ゲヘナゲートか、なるほど」

 

二人は意味のわからない事をいいながら距離を詰めてくる。

後ろにいる少年はただ私の行動に眼を光らせ撤退に備えているようだ。

 

 

……これは……まんまと詰まれたな。

すみません、秋子様……足止めが出来そうに……ありません。

 

 

to be continue……

 

 

 

 

 

 

あとがき

第二十話いかがでしたでしょうか?

え? 何が崩落かって?

自信、戦況、状況など色々ですよ〜(ぉ

新キャラ、『神崎さん』は果たしてどうなるのでしょう。

そして……何故か生きてた牙紗君、よかったね……麻衣子。

でもそのお陰で大変な事になりそうですよ?

 

 

 

 

―――第二十話★用語辞典―――

 

製作中

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