「真琴、見えてきましたよ」

「うん、……あれがカノン城? 意外と大きいね」

「それはそうでしょう、スノーランス最強の国家と謳われているカノンのお城ですから」

「でもどうするの? このまま降りて行ったら多分真琴達も攻撃されちゃうよ?」

「……そうですね、どうしましょうか?」

 

使い魔を消して地上から行くべきか?

いや、でもこんな戦闘中だ……簡単に通してくれるとは思わない。

スパイと間違えられたら堪りませんからね、私はともかく真琴が大変な事になりそうです。

……この子は堪えるという事を知りませんから。

 

「ねぇねぇ、美汐」

「……なんですか? 真琴」

 

私が思考状態に入っていると真琴が私の服の裾を引っ張ってきました。

その顔は何処か緊張感にかけたような表情ですけど眼だけは真剣そのものです。

……何があったんでしょうか?

 

「―――何か来るよ」

「………え?」

 

私は真琴の言葉に驚いて辺りを見渡します。

浮遊魔法を使った魔法使いでも上がってきたんだろうか?

それならば事は重大です。

ただでさえ私達の周りには彼らの敵であるワイバーンの群れが飛んでいるのですから。

勘違いされる要素が多すぎる、これはまずいです。

 

「……何処ですか、真琴」

「―――来るよ、正面っ!」

「………っ!? 草月、避けてください!」

 

草月に向かって投げられた『それ』を目視で確認すると私は慌てて草月にそう指示を出す。

―――間一髪、草月は上体を器用に起こしながら『それ』をかわした。

 

「うわぁ! お、落ちるよー!」

「……危ないですね、問答無用ですか」

 

草月の急な動きに振り落とされそうになった真琴の腕を掴みながら『それ』の帰還場所を睨む。

そこには……一人の少年がこちらに向けて浮遊してくる姿があった。

何か着物のようなものを纏ったその少年の視線は私達だけを貫き威圧してくる。

―――魔族ですかね、見たところ浮遊の魔法は使っていないようですが。

敵の幹部……といったところでしょうかね、手強そうです。

 

「なんじゃ、避けたのか……中々やるのぉ」

「……褒められても何も嬉しくありません、まったく……危ないですよ」

「それはそうじゃろ、狙ったんだからな」

 

少年は薄く笑いながら手に持った『それ』をこちらに向ける。

……ブーメランの類というわけではないようですね、あれは……扇子ですかね?

なるほど、それを私達に向けて放ったわけですか……。

―――上手く当たれば草月の首程度は軽く斬り飛ばせるぐらいの切れ味ですね、多分。

だけど……今のは本気で当てようとしたものではないようです。

敵意は感じられましたが殺気は篭っていませんでした、様子見……それか腕試しといったところですか。

 

「一つ、聞いてもいいですか?」

「なんじゃ?」

「売られた喧嘩は買います、でも……あなたに死ぬ覚悟はありますか?」

「―――無論、殺生は嫌いじゃが……それが仕方ない場合も世の中にはあるからのぉ」

「そうですか……それなら遠慮はいりませんね、―――真琴、行きますよ」

「任せてよ、あんな危ない事をしてっ! 真琴怒ったんだからっ!!」

 

両者とも戦闘体勢に入る、少年は扇子を構え真琴は美汐の前に出て相手を睨みつける。

―――間合いは十分、相手が何者であろうと負けるわけにはいかない。

……まったく、カノン城を目の前にしてとても面倒な事になりましたね。

 

 

 

 

ロードナイツ

 

第二十一話

「自分との戦い(前編)」

 

 

 

 

「ドッペルゲンガーとはね、やられましたよ」

 

カノン学園の廊下の一角で僕は珍しい魔物と遭遇したようだ。

ドッペルゲンガー、本来は森深き魔力の満ち溢れた漆黒の闇に暮らす魔物だと聞いた事がある。

たまに人里に降りてきて悪さをするぐらいだそうだが……まさかカノンでそんな魔物が見れるとは。

 

「ふ、素晴らしい体ですね……とても頭が冴える気がしますよ」

「そうですか……僕はとっても不快な気持ちですよ」

 

僕はそういいながら目の前にいる『自分』を睨みつける。

寸分たりとも違わないもう一人の自分、過去の記憶などは投影されないようだが能力は本物だ。

まったく……魔法使いはよく『自己との戦い』だといいますが……本当みたいですね。

 

「久瀬君、退いてください」

 

っと、後ろから駆けてきてくれたアーレン先生はそういって僕の腕を掴む。

どうやら代わりに引き受けてくれるつもりだろうけど……それには及ばない。

何故なら僕は内心かなり焦っている、自分の能力のコピー……それは何と恐ろしい事か。

"自分が使える魔法"を相手は全て使えるとしたら……魔法使いにとってそれほどの恐怖はない。

秘密の暴露、魔法使いにとって最悪のパターンだ。

―――となるとここは僕がやるしかない、リスクは高いがそれ以外に方法はない。

 

「大丈夫です、僕がやりますよ」

「しかし……相手は自分ですよ? 勝てるんですか?」

「……勝ちますよ、絶対にね」

 

僕はそう宣言して杖を遙か高く持ち上げる。

―――出来れば一撃、相手に魔法を使われる前に終わらせたいものですね。

だけど相手は自分、裏の裏を読まなくては勝てそうにありませんね。

 

「―――"我が求めしは漆黒、我が与えしは侵食、復讐者はその身を食い尽くす、ダークアヴェンジャーッッッ!!!"

「またそれですか、ならばこちらも―――"ダークアヴェンジャーッッッ!!!"

 

二体の「アヴェンジャー」が両方の足元から出現した闇の中から出現した。

……ちぃ、これは完璧に真似されてますね。

もし、知識……能力……魔力量……魔法技術……全てコピーされていたら本当に厄介です。

しかも相手に応用力がある、こちらの詠唱と合わせるようにあちらは詠唱破棄……先手は取らせないということですかっ!

 

「「アヴェンジャーっ!! 敵を貫けっっっ!!!!!!」」

 

まったく同時のかけ声に同調し二体の「アヴェンジャー」は手に持つ銀槍を同時に相手に突き出した。

両者とも弾かれる銀槍、二体の「アヴェンジャー」は押し出されるように後退する。

その際特殊な魔力を秘めている彼等の最大の武器である「魔法破壊の銀槍」は火花を散らしながら上空を舞った。

本来は対魔法使い戦専用の「アヴェンジャー」達は合わせ鏡のように目の前にいる異質な敵を睨みつける。

中級魔法とはいえ彼らにも薄い思考というものが存在する、……目の前にいる敵を見て彼等は困惑していた。

力は同等、しかも同じ武器、同じ技量の相手など今まで会った事がない。

―――それは彼等が始めて体験する一種の未知への困惑であった。

このままでは勝負がつきませんね……、ならば……っ!!

 

「アヴェンジャー……術者を狙いなさい!」

「―――ふん、魔法では決着がつかないから僕のみに標的絞るつもりですか?」

 

何とでもいうがいい、これ以上戦闘を長引かせるわけにはいかない。

相手が他の魔法を使う前に術者だけでも倒す、そうすれば最悪の状態だけは避けられるっ!

「アヴェンジャー」は僕の言葉に従い漆黒の甲冑を軋ませながらドッペルに迫る!

敵の「アヴェンジャー」もその事に気づき主の下に駆けるが……遅い!

思考の速さでは僕の勝ちみたいですね……!

「アヴェンジャー」が銀槍を振りかぶった姿を見ながら僕は自らの勝利を確信した。

 

 

 

 

―――が、次の瞬間……全ての状況が一変する。

 

 

 

 

"ダークアヴェンジャー"

 

相手、ドッペルがそう聞こえないぐらいの声で呟く。

足元には漆黒の闇、そしてその中から4体もの人影が現れた。

だが僕の「アヴェンジャー」はそれに構わず銀槍を突き出すっ!

 

「―――貫け、アヴェンジャー達」

 

―――瞬間、勝負は決した。

肉が裂ける音がした、鎧が砕ける音がした、血が噴出す音がした。

その後上空に掲げられる黒い塊、それは最早動く事すら出来ない程に破壊された絶望的な姿だった。

体には4本の銀色の槍が生えていた、漆黒の鎧は自らの血で深く汚れていた。

……そう、僕の「アヴェンジャー」は彼が新たに召喚した4体もの「アヴェンジャー」達に串刺しにされていたのだ。

 

「………まさか……同時魔法発動で……その上詠唱破棄ですか、化け物ですか……あなたは」

 

僕は呆然と呟きながら目の前の光景をただただ見つめていた。

中級魔法といえ同時に4体も召喚する技術、その上詠唱を短縮した詠唱破棄。

馬鹿な……何故だ……?

こんな事、"僕ですら出来る筈がない"のに何故コピーに過ぎない相手が使えるんだ?

 

「これで一気に5対0ですね、どうします? ……あなたが5体のアヴェンジャーを召喚するぐらいの時間は待ちますよ?」

 

ドッペルはそういってアヴェンジャー達を全面に押し出しながらそう告げる。

……馬鹿な、僕が中級魔法を5回同時発動など出来る筈がない。

出来たとしても詠唱あり、しかも3体ぐらいまでが限界だ……それ以上は不可能だ。

ならば何故、真似しただけの相手が……ここまでの魔法を使いこなせる?

 

「―――くっ、ただのドッペルゲンガーではないという事ですか」

「さあね、僕がそんな問いかけに律儀に答えるわけないだろう?」

 

それもそうか、しかしこれでは勝ち目がありませんね。

自分より遙かにレベルが上がっている自分、つまり未来に辿り着くであろう格上の自分と戦っている気分だ。

……悔しいですがここは自分の命を優先したほうがよさそうですね。

僕は少しだけ視線をずらして後ろを見る。

自分だけでは敵わないが……作戦次第では十分勝機は見えてくる。

 

「アーレン先生、援護を頼みます」

「了解、美坂さんと倉田君はそこで待機……念の為魔法障壁は常に展開していてください」

「ふっ、生徒では敵わないから次は先生ですか? ……面白い、アヴェンジャー……相手をしてやりなさい」

 

ドッペルの声に応じ5体の「アヴェンジャー」が銀槍を持ちながら恐ろしい速さで一斉に駆けてくる!

―――こちらが召喚出来る最大量は3体、残り2体はアーレン先生に任せるしかない。

……頼みますよ、アーレン先生……流石に僕だって命は惜しいですからね。

 

「―――"我が求めしは漆黒、我が与えしは侵食、復讐者はその身を食い尽くす、ダークアヴェンジャーッッッ!!!"

「―――"天空より飛来する者、汝は絶対なる破壊の使者なり、ハイメテオッッッ!!!"

「小賢しいですよっ! アヴェンジャー、全てを貫けっ!!!」

 

黒き復讐者は黒き復讐者を襲い、天空より飛来せし灼熱の塊は辺りを巻き込みながら破壊する。

炎が舞い、槍が飛び、叫び声さえも聞こえぬ轟音が辺りを包み込む。

鼓膜が悲鳴をあげその上目の前さえを見ることさえも絶対的熱量のせいで許されなかった。

これは―――まずい、負傷や疲労する前に意識を失いかねないっ!

まったく……、アーレン先生は加減という言葉を知ったほうがよさそうですね。

いきなり中級魔法の中でも最強の範囲魔法である「ハイメテオ」なんて発動させるとは、僕も巻き込む気ですか。

だがこれで……いくらアヴェンジャーとはいえ葬りさった事でしょう。

残るは後三体の「アヴェンジャー」とドッペルのみ、勝てる!

 

「一気に畳み込みます! アーレン先生、援護を………っ!?」

 

その時、何か体に違和感があった。

―――喋っている途中なのに声が出ない。

変わりに何か得体のしれないものが口から吐き出された。

………ま…さか、どうして……?

 

「……く、久瀬君っ!?」

 

アーレン先生の焦った声が聞こえる。

しかし、そんな声に応える事も出来ず、僕の意識は急速に失われていった……。

 

 

目を閉じきる前に……僕の視界に映ったのは……僕に向けて銀槍を突き出している"僕の「アヴェンジャー」"の姿だった。

 

 

to be continue……

 

 

 

 

 

 

あとがき

第二十一話いかがでしたでしょうか?

……はっきりいって不完全燃焼。

もうちょっとわかりやすく出来ただろ、自分。

今回の事を猛省しながらアニメ見まs(銃声

 

 

 

 

―――第二十話★用語辞典―――

 

製作中

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