「これで後は水瀬秋子のみですね」

 

僕は床に横たわる女性を見下ろしながら誰にいうでもなくそう呟いた。

……弓兵にしては腕がよかったですが、まあこの程度でしたか。

いや、人間にしてはよく持った方か……僕達三人を相手取りここまで均衡した事は少しは敬意に値するかな?

水瀬秋子の前にはいい準備運動になりました。

 

「………ちっ、三対一なんて胸糞悪い」

 

そう舌打ちしながら僕と同じように見下ろしている牙紗さんが呟く。

……流石に戦闘狂の牙紗さんには少し後味が悪い結果になってしまったようですね。

まあそういいながらも僕等の指示には従っている、敗北が彼を抑制しているようですね……いい事です。

牙紗さんが早速やられたのは計算外でしたが今回はいい方へと転がったようです。

不死者である牙紗さんを打倒するほどの実力……多分川澄舞辺りでしょう。

流石は"最高傑作"なだけはあります……下手したら僕さえも倒してしまえそうなぐらいの化け物。

相手にしなくて正解でしたね、正面から向かってはリスクが大きすぎました。

 

「……仕方ないだろう、こんな所で足止めを喰っている暇はないんだ」

 

僕等とは別に一人だけ王座の間を睨みつけている鬼仙さん。

―――今回は"王"には用がないんですけど彼は気になるみたいですね。

やはり過去の記憶が蘇っているんでしょうかね?

 

「さあ、皆さん行きましょう……後少しです」

「……あぁ、本命が残ってたな」

 

僕の言葉に牙紗さんが嬉しそうに笑みを浮かべる。

……確か牙紗さんは最初水瀬秋子と戦いたいと言ってましたね。

川澄舞に惨敗した事がそんなに悔しかったんですかね?

―――正直川澄舞にも勝てなかった牙紗さんが水瀬秋子に勝てる可能性はないと思いますけどね。

確かに川澄舞は規定外だ、だけど水瀬秋子は"想像外"だ。

人間ならば誰もが認める"二つ名持ち"の称号に一番近い位置にいる魔法使い。

……"二つ名持ち"は僕等魔族の間でもタブーとなっている。

人間最強の証、人類最強の英知、神に最も近いとされる人間……それが"二つ名持ち"という存在だ。

そんな幻想種以上の化け物達に近い位置に存在する水瀬秋子、まともにやり合えば勝てるわけがない。

……余談だがカノン国を最強に至らしめている直接的な要因は確かに強力な"魔法障壁"だ。

だが……本当はそんなものは後付の"理由"でしかない。

最強国家カノン、それは元はある一つの女性の存在によりつけられた称号でもあったのだ。

―――何という素晴らしき"兵器"、そうだ……僕達は"それ"が欲しい。

何故なら今回の戦闘の全てはそこが重要なのだから。

 

「次元使い水瀬秋子……さて、彼女との交渉を始めましょうか?」

 

 

 

 

ロードナイツ

 

第二十二話

「自分との戦い(後編)」

 

 

 

 

「アーレン先生! 久瀬君はっ!?」

「……駄目ですね、身体を貫かれた際の衝撃が余程強かったのか……ほぼ即死状態です」

 

久瀬君の傷口を診ながらも意識は前方にいる"敵"に集中する。

―――はっきりいって久瀬君の状況は最低だ。

息はしていない、心臓さえも止まりかけている。

更に彼の自己治癒機能は働いていない、その上この傷を治せるぐらいの治癒魔法を使えるものはここにはいない。

……まさか学園内で生徒にここまで重症を負わせてしまうとは……教師失格ですね。

しかし、相手は予想以上の力量の持ち主……このままでは他の生徒まで危険です。

 

「美坂さん、倉田君……ここは久瀬君を連れて退いてください」

「―――なっ! アーレン先生、それは……」

「教師は生徒を守る為にいます、……これ以上危険にあわせるわけにはいきません」

 

……王宮からのお達しですがここは聞かぬ振りをしましょう。

元々生徒を戦争に参加させる事自体間違えてる、本来こういう事は大人の役割だ。

学園長には後で謝りましょう、だけど……ここは譲れない。

大事な生徒をこれ以上危険にあわせたくない、自分勝手で結構……これが自分の信じた教師の取る道だ。

 

「わかりました……、それじゃあ久瀬さんは僕が運びます」

「……そうしてください、美坂さん…すみませんが了解してくださいね」

「―――わかりました、後をお願いします」

 

二人はそういうと久瀬君を連れて駆け出していく。

それを横目で見ながら杖をゆっくりとドッペルゲンガーに向けながら立ち上がる。

―――さて、こちらはこちらでやるべき事をやるとしましょう。

 

「……いいんですか? 三対一でさえ危ういのに二人を逃がしてしまって」

「舐めないでください、教師は生徒を守る為にいます……それに教師は生徒に教える立場……負けませんよ」

「僕も甘く見られたものですね、……いいでしょう、お相手しますよ」

 

そういってドッペルゲンガーは3体のアヴェンジャーを従えながら杖をこちらに向ける。

先ほどの久瀬君を刺したアヴェンジャーは……いませんね。

という事は本当に久瀬君自身のアヴェンジャーが刺したのだろうか?

だけどそれはありえない、自らの魔法が自らを攻撃する事など普通ない。

何かカラクリがあるのか……注意だけはした方がよさそうですね。

 

「―――それではカノン学園教師、アーレン・ディラバール……全力で行かせていただきますっ!!」

 

 

 

 

「あー、頭痛い……」

『ほう、余裕だな我が主人』

「……余裕なんてあるわけないでしょうが、あんただってわかってんでしょ」

『いやいや、まだ喋れるだけの力があるんだから大したもんさ』

 

全然嬉しくない、それに喋れなくなるほど体力を消耗していたらこの先戦えるはずがない。

草薙の止血も流石に限界だ、その上血液を一度大量に失った為に身体の芯から冷え切っている。

―――まったく、もう黄泉の世界が目の前に見えそうな気がする。

……このまま果てるぐらいなら草薙一本道連れにして閻魔でも倒しに行こうかしら?

 

『……なんかすげぇ寒気がする』

「あんた剣でしょうが、我慢しなさい」

『いや、なんか殺気見たいのを感じた気がする』

 

剣のくせに意外と鋭い、こういう所だけは異常に敏感だ。

……まあそんな戦闘狂の事は置いておいて、問題はこの後の事だ。

私は今カノン学園に傷ついた身体を引きずりながら一歩一歩向かっている。

先ほど出会った吸血鬼、牙紗との決着をつけるためだ。

まあ、牙紗が本当に学園にいるかはわからないのだけど取り敢えずの目的地だ。

魔法使いのタマゴ達が集まっている学園は恐らく相手にとっても脅威になる。

―――だからそんな魔法使い達を倒すために牙紗が学園に向かっているかもしれない。

 

「それにしても……目的地はまだなの?」

『遠回りっぽい上に歩みが遅いんだよ、こんなんだったら朝になっちまうぜ?』

「……街灯もついてない見知らぬ町の中で迷わず学園につけるわけないじゃない」

『方向音痴だな、我が主人』

 

……なんでこいつは私を怒らせる事ばかりいうのかなぁ?

本気でこいつをお仕置きする算段を立てた方がいいかもしれない。

でもこいつ剣だし、並大抵な事じゃ堪えないんだろうな……。

やっぱり真っ二つに折ってみようかしら?

そしたら流石の草薙といえど耐えられるはずがないと思うけど。

いやいや、それより海底にでも沈めてやろうかしら……そうすれば永遠に海の藻屑へと……、

 

『おいこら、我が主人っ!』

「何よ……あんたいい所で……」

『はぁ? 何言ってんだ! 上だ、上!!』

「上? 何もないじゃな……って何よあれ?」

 

草薙に言われて見上げるとそこには異常な光景が繰り広げられていた。

幾つもの黒い粒のような飛空物達が縦横無尽に飛んでいるようだ。

高すぎて判断しにくいがあれは……戦闘?

空中戦……といった所かしらね、魔族も空中に戦力を投入してきたという事か。

それだけ魔法使い達の消耗が激しいのか、それとも何かの作戦なのか。

だけどかなりの数だ、これでは……カノン軍の空中戦力に勝ち目はないかもしれない。

 

「といっても……どうしましょうかね、私は生憎と飛べやしないし」

『なら仕方ねぇ、無視しな』

「だけどあれ残しておいたら厄介よ? あの速さなら城までそう時間はかからない」

『けど手の出しようないだろ、悪いが俺様はあんな所まで届くよな技は持ってないからな』

「―――ちぃ、何でこうタイミング悪いのかしらね……せめて私が浮遊の魔法を習ってから攻めてくなさいよ」

『敵にはこっちの事情なんて知らんぷりさ』

 

……流石のカノンもここまで攻められれば時間の問題かしらね。

あの数で城を攻められたらもって一日、早ければ半日でカノンは大将を失う。

その上現在の指揮系統も既に混乱気味だし、こんな時に王様は何してるのかしら。

こういう時は自ら直接指揮を取って陣形を立て直しなさいよね。

―――国が滅びて困るのは王だけじゃなくてその国に住む住民達なんだから。

 

「……あいつら城に向かってるのよね?」

『おいおい、まさか目標転換かよ?』

「仕方ないでしょ? このままにはしておけないわよっ!」

『まあ我が主人がそういうなら止めはしないさ……だけど吸血鬼はいいのかい?』

 

そうだ、私は何のためにここまで来たのだ。

私に苦渋を舐めさせたあの憎き吸血鬼を今度こそ打倒する為じゃないのか。

……そうよ、私はこの国とは何の関係もない。

だから選択は自由、それに私はまだカノンの生徒にもなっていないんだ。

だったら……私が取る道はたった一つ、決まってるじゃないか。

 

 

 

 

「目標変更、目指すは上空の敵殲滅よ」

『……はっ、やっぱりな……お人好しの我が主人、命令了解だぜ』

 

 

 

 

お人好し……か、何とでも言うがいいさ。

自分の国を失う辛さ、自分の守るべき人を失う辛さは身にしみて私が知ってる。

―――そしてそれらを守る為に私は草薙を手にして名前を棄てたんだ。

私にとっては自分の信念も大事だけど自分の想いも大事だ。

……あのいけ好かない吸血鬼の餓鬼も許さないけどこのまま国が滅びるのをただ見ているだけなのも許せない。

国の為に人は生き、そして国の為に人は死ぬ。

そんな人々から国を奪うという行為、例え彼等が神でも私は許さない。

 

『だけどどうするんだ? 相手は上空……多分そう簡単には降りてこないぜ?』

「なら空から地上へ引きずり下ろしてやるわ」

『あのなぁ、さっきも言ったが俺様にはそんな力は……』

「あんた……忘れたの?」

『あ? ……忘れたって何をだよ?』

 

 

「―――私、これでも昔は不本意だけど"天を狩る聖女"って呼ばれてたんだけどね」

 

 

to be continue……

 

 

 

 

 

 

あとがき

第二十二話いかがでしたでしょうか?

……毎日更新初日からへたれそうですOTZ

うわーん、スランプだよー(TAT)

思ったとおりに文が書けないー(ノ#´A`)ノ

 

 

 

 

―――第二十話★用語辞典―――

 

製作中

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