……どうしてこんな事になったんだろう?

カノンは防衛に関して非常に優れた国家だったはず、それなのにもうここまで追い詰められている。

いくら私達が序列生徒っていっても戦争なんて……出来るはずがないじゃないですか。

学園の廊下を歩きながら私、美坂栞はボーっとそう考えていた。

確かに私は貴族、戦争になったら自らの命を賭して前線に立つ事を命じられる立場。

貴族とは国の一部の土地を治めるもの、それ故平民より豪華な暮らしが約束された人達の事を指す。

しかし、一度戦争が始まれば貴族は強制的に戦争へと赴かなくてはいけない。

それが貴族としての義務でありまた誇りである。

何しろ貴族は国に支えてもらいながら生きている、その国の為に戦う事は当然の事なのだ。

国が無くなったら困るのは平民だけではなく、今まで豪華な暮らしを約束されてきた貴族にまで害が及ぶ。

それ故貴族は必死に国を守る、だからカノン貴族達は防衛手段の一つとして子供達を魔法学校へと通わせる。

―――そう、魔法学校に来ている貴族の生徒達の大半はそれが理由で魔法を覚えようとしているのだ。

その典型ともいえるのが美坂家次女である私、本来なら魔法使いになどなりたくはなかったが家柄上仕方なかった。

長女であるお姉ちゃんは自分から率先して魔法使いになりたがっていたが私は違う。

魔法使いになどなりたくはなかった、私は豪華な暮らしなど棄てて平民になってもよかったのだ。

 

だが、あれはカノン学園に入学して始めに受けた魔力診断での事だ……。

―――あの出来事は今でも昨日の様に思い出される。

期待と不安が満ち溢れた初めての計測、私は担当官の言葉を聞いて自分の耳を疑った。

『美坂栞、魔力測定……1S』

別に嫌だったわけじゃない、寧ろ周りから騒ぎ立てられて少し浮かれてもいた。

魔力容量とは魔法使いにとって一番重要な"才能"を表すものだ。

お姉ちゃんより格段に高い数値……つまり私はお姉ちゃんより才能があるという事だと浮かれていた。

先に魔法学園に入学した自分の自慢の姉は妹の目から見ても格好良かった。

自分から率先して魔法使いにはなりたくなかったが魔法の勉強をしている自分の姉の姿を見て憧れたのも確かなのだ。

何かに一生懸命取り組む姉、そしてその姉以上の使い手になれる才能を持った自分。

姉が大好きだからこそ、その姉に近づきたかった妹。

 

―――だけど現実は辛くて、そしてそんなに甘くないって事を知った。

 

生まれながらの才能を持った自分と、努力する事で上を目指した姉。

自らの才能に押しつぶされた妹、自らの才能のなさを怨まずに努力し続けた姉。

才能と努力、天才と凡才、しかし……いつも勝つのが天才だとは限らない。

 

そんな、当たり前であり……だけどついつい見落としてしまう現実を幼き頃の私はわからなかったのだ。

 

 

 

 

ロードナイツ

 

第二十五話

「膠着」

 

 

 

 

「どちらが敵……ですか、あまり穏やかではないですね」

 

私はそう言いながら不敵に笑っている女性を睨みつける。

私達の目の前いる彼でさえ不思議そうな顔をしながら紅い髪の女性を見つめている。

しかしいきなり「あんた達のどちらが私の敵?」ですか、どうやらとても好戦的な人物のようですね。

相手が魔族とわかっても挑んでくるぐらいですからそれは筋金入りでしょう。

余程に自分の腕に自信があるのか……それともただの"戦争病"にでも侵されたのか。

どうやら敵が増える事がありそうでも減る事はなさそうですね。

―――真琴は確かに魔族の血を引く子、およそ人間である彼女が見たら立派な敵だろう。

しかし相手も魔族、下手したら三つ巴……それは何とか避けたい所ですね。

三つ巴になれば一番被害が大きいのは"二人いる"私達なのですから。

人数が多いといえばそれだけで最大戦力として数えられる、いちいち単一の敵を倒してから二対一を挑んでくる馬鹿はいないでしょう。

つまり三つ巴になれば実質私達対あの二人と見るのが正しいですね。

 

魔族と聞いても怯まない女性。

先程からこちらの攻撃全てを無効化させてきた男の子。

 

これらを私達が一人一人相手をすれば被害が出るのは必死。

本来ならばこういう事態になったら撤退……というのが正しいんでしょうが、もう駄目でしょうね。

―――何故なら真琴の周囲の空気が今までに無く上昇している。

これは真琴が本当に怒った時になる現象で真琴の魔族としての"力"である。

……この状態になった真琴を止めようものなら私も最大戦力で止めなくてはいけません。

ならばここは被害を少なくするために私は黙ってもう一方の相手をするしかありませんね。

結論としては……多分私が剣を持っている女性の方で真琴が扇子を持った男の子の方という事ですか。

あの女性相手に草月のみで足りるでしょうか?

相手は見るからに剣士、でもカノンの住民だろうから……多分魔法剣士なんだろう。

そうなると"どちら"かという事が大きな問題になってきますね。

魔法剣士とは二通りあり"魔法を扱うもの"と"魔法を操るもの"に分かれる。

―――両者とも根元は一緒だが利用する意味合いが違うのだ。

"扱うもの"は剣と魔法を別々に使う、剣の使い手でありながら魔法使いでもあるのだ。

それに比べ"操るもの"は剣と魔法を一緒に使う、例えば剣に属性魔法を付属させたりするのだ。

これらから導き出される答え、つまり戦術は相手の種類によって大きく異なる。

……まあ、どちらにしても私にとっては手強い事には変わりないんですけどね。

 

「三つ巴……ね、いいじゃない……久しぶりに燃えてきたわよ」

 

そういいながら女性は手に持った剣を軽く振りながら静かに歩きだす。

その姿に隙はなく、最早いつ死場に突入しても構わないとい気迫が滲み出ている。

 

「本来なら戦いたくはないが……仕方ないのぉ」

 

扇子を持つ男の子もため息をつきながら歩を進める。

その姿はまるで静かな水面を現すが如く、ゆったりとしていて尚且つ底の知れない気迫をかもし出す。

 

―――だが、甘いですね。

そんな悠長な事をしている暇があったらすぐにかかってこないと……いらぬ不幸が舞い込みますよ?

本来ならばここは"歩く"ではなく"跳ぶ"べきだ、魔法でも何でも使い奇襲をかけるべきだった。

それは卑怯、姑息などと言う前に自らが犯した最大の過ちを知る事になる。

 

「―――ゴチャゴチャ五月蝿いわね、真琴は今怒ってるんだからね」

 

雪が溶ける、それはまるで聖域が如く真琴の周りの雪だけが綺麗に溶け始めたのだ。

真琴の長い髪は炎のように揺らめき降り続く雪さえも一瞬にして蒸発させてしまった。

そして……真琴の後ろから現れるのは陽炎のような幻の尾。

まるで火炎地獄のように踊り狂う尻尾は幻想的な存在感を真琴に与えていた。

―――流石に驚いたのか二人とも歩を止めて真琴の姿に見入ってしまう。

だけどもう遅い、真琴がこの姿になる時間は十分稼ぎました……これで状況は互角以上になったと思いたいですね。

しかし……この状態の真琴は長い時間は戦えない、先手必勝が得策ですね。

 

「行きますよ、真琴」

「わかった、美汐は援護を――私が二人を仕留めるから」

「……わかりました」

 

二人のうろたえぶりを無視して私達は共に自らの役割を確認しあう。

―――敵が目の前にいる、私達にはそれだけで十分だ。

この勝負……悪いですけど貰いましたっ!

 

「―――真琴っ!」

「うん! ―――ふッ!!!

「―――しまっ!?」

 

まずは真琴が先制を仕掛ける。

呆然とこちらを見ていた女性に信じられない速度で駆け寄ると真琴はそのまま思いっきり振りかぶった。

―――女性の方は剣を盾にしながらその一撃を避けようと後ろに退こうとする。

なるほど、今の体勢でかわしきれないと悟りダメージの軽減を図りましたか。

だけど……真琴の一撃がそんな小細工で敗れ去るほど軽くはありませんよ?

 

「えぇぇぇぇぇぇいっ!!!」

 

子供のようなかけ声で真琴は女性が構える剣事全速力で殴りつける。

あまりの早業に隣にいた男の子も動きを見切るのがやっとなようだった。

 

 

―――瞬間、女性の身体は遙か高く打ち上げられる。

 

 

「―――なっ!? この……馬鹿力っ!!!」

 

 

女性は舌打ちしながらも無理矢理な体勢で着地する。

しかしやりますね、真琴の一撃を受けきるとは……中々の名刀をお持ちのようですね。

真琴の拳は軽そうに見えてその実一般的な強度の剣ならば真っ二つに折る程度の破壊力を秘めている。

 

「これは……油断せずにかかった方がいいみたいじゃな」

 

そういいながら今まで真琴の動きを目で追っていた男の子が扇子を構える。

―――あちらは間違えなく魔族、一筋縄ではいきませんね。

流石に真琴の力を見た後だから二人とも真琴を最優先目標として捕らえたんでしょうね。

……でもあまり私の存在を忘れられても困りますからね。

 

「―――"我の呼び声に応えし者、契約に従い今その姿をここに現したまえ、朱螺、羅仙"」

 

踊り狂うように風が私の周囲で巻き起こり二体の使い魔が出現する。

―――燃えるような紅き眼をした銀色の剣のような鋼鉄の身体を持つ、大蜘蛛……朱螺。

―――漆黒の毛並みに覆われている一見は何の変哲も無い黒猫、魔猫……羅仙。

この二匹は私が使役する使い魔の中でも草月とは違い"実戦用"の使い魔だ。

これで私達は実質1対1対5、戦闘は必ずしも数で決まるわけではないがやはり多い方が優位に運ぶ事が出来る。

 

「……また増えた、こりゃ四の五の言ってられないわね」

 

私の召喚を目の当たりにして剣を持つ女性はため息をつきながらゆっくりと歩いてくる。

……余裕があるわけではなさそうですが使い魔を見ても怯みませんか。

あちらにもまだ隠し玉がありそうですね、注意しないと。

 

「真琴、短期決戦に持ち込みます……いいですか?」

「わかった、それじゃあ朱螺と羅仙と一緒に前に出るから」

 

そういいながら真琴は二人に向き直った。

二人はお互いに協力こそはしないものの積極的に戦う事はしないみたいだ。

……まあ当然ですね、ここで先に私達を止めないと大変な事になるでしょうし。

本当に面倒な事になってしまいましたね、こちらとしては早々にお城に行きたいんですけど。

 

「……行くわよ、用意しなさい」

 

……っと、女性は何か覚悟を決めたように静かに一人呟いた。

どういう事でしょう、独り言……というにはあまりに命令的だった。

まさか私のように使い魔を召喚するんでしょうか。

相手は魔法剣士、慎重深く行かないと追い込まれますね。

だけど……いつまでも硬直状態を続けていいほど私達には時間が残されていないのも確か。

 

「真琴っ! こちらから先に仕掛けます、朱螺と羅仙も真琴の援護に回ってください!」

「了解、朱螺に羅仙……行くわよっ!」

 

真琴は気合一閃、凄い速度で二人に突っ込んでいく。

男の子の方は向かってくる真琴に対し体術の構えを取りながら扇を広げる。

剣を持った女性は……特に何をするでもなくただその場に突っ立っていた。

―――どういうつもりか知りませんが、容赦はしません。

真琴は先程吹き飛ばした女性ではなく、まずは近くにいる男の子へと駆け出していった。

 

「たぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「―――くっ! 何て重い……攻撃じゃ!」

 

真琴の一撃を何とか扇で防いだようですが、その様子では残りの二人の攻撃はかわしきれませんよ?

重い一撃は足を止めさせ一瞬の隙を作り出す、どんな実力者でも隙をつかれると脆いものだ。

 

「シャァァァァッ!!!」

「………ニャウ」

 

朱螺はその鋭い足を突き出し、羅仙は体全体に魔力を巡らせながら全力で体当たりする。

だが男の子は驚愕に顔を染めるわけではなく、静かに真琴の攻撃を抑えながら二匹の行動を黙って見ていた。

 

「……あまり我を舐めてもらっても困る……のっ!」

 

―――刹那、まるで春の暴風が吹き荒れたように真琴、朱螺、羅仙がそれぞれ男の子の傍から離れてしまう。

……あれは純粋な体術、それもかなりの熟練。

まるで柳のように体が撓ったと思ったら周りを囲んでいた真琴達は吹き飛ばされた。

何の魔法行使もなく……あれほどの技を扱うとは、やりますね。

あのように見えても朱螺の一撃はレンガを裂き、羅仙の一撃は岩をも砕く。

それをまるで赤子のいなすが如くあしらう実力、やはりただの魔族ではないようですね。

 

「あぅ〜! な、なんなのよぉ……今のはっ!」

 

真琴はすぐに起き上がり男の子を睨みつける、まずいですね。

完全に頭に血が上っているようです。

真琴は戦闘能力は高いですが精神面ではまだ幼い、良くない兆候です。

こうなったら朱螺と羅仙で相手の動きを捉えてそれから真琴に止めを……っ!?

 

「―――ふっ!」

「……草月っ!!!」

 

……間一髪、私の呼び声に草月の翼が相手の剣を受け止める。

そうでしたね、これは乱戦……敵は一人ではありませんでした。

 

「……速いですね、先程まであちらにいましたのに」

「悪いけど素早さには自信あるの、私」

 

草月に剣を受け止められていても平然と笑っている女性、まるで瞬間移動をしてきたかのような速度で攻めてきた。

―――僅かに洩れていた殺気のお陰で防げましたが、今の反応をもう一度やれといわれても出来そうにありませんね。

私の額から冷や汗が滲み、一歩間違えていたらやられていた事実を噛み締める。

……まったく、私達はとんだ敵を相手にしてるみたいですね。

 

「―――美汐!?」

「大丈夫です、真琴は自分の相手に集中してください」

 

私は心配そうな真琴にそう言葉をかける。

……今此処で真琴に持ち場を離れられたら均衡が崩れる、それだけは避けたいですからね。

しかし、朱螺と羅仙を出している今……私の手駒は草月だけだ。

草月はワイバーン、普通に戦う分には構わないが……正直この女性の相手は無理だろう。

だけど朱螺と羅仙は真琴を援護に当てていた方が効率がいい。

それならばどうするか、相手の実力がわからない以上正面きっての戦いは望ましくありませんね。

 

「召喚士は術者を倒すのが手っ取り早いからね、悪いけど眠ってもらうわ」

「……あまり私自体を過小評価されても困りますね、それと……」

 

それならば……正面きって戦わなければいい、それだけの事です!

本来使い魔は私の本分ではなく、補助的な役割しか担っていない。

術者を倒すという発想はいいですが……自らが使役する使い魔に負ける程度の実力ではありませんよ。

 

 

「―――私は召喚士ではなく、法術士ですっ!」

 

 

to be continue……

 

 

 

 

 

 

あとがき

第二十五話いかがでしたでしょうか?

あー、すっかり忘れてますよ(汗)

こんな感じでよかったんだっけか?

まあいいや、移転作業は順調とはいえず停滞中。

大学が……PCが……OTZ

というかしまった、鬼仙と羅仙ってかなり名前が似てる(´Д`;)

 

 

 

 

―――第二十五話★用語辞典―――

 

製作中

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