―――とある夕暮れ、町全体を見下ろせる丘に座りながら俺はボーっと考え事をしていた。

これからどうするのか、それと……これから俺は何をしなくちゃいけないのか。

そんな考え事に耽っていたからだろうか、すぐ後ろに近づいてきた気配に気づかなかった。

 

「ねえ、何で祐一は死なないの?」

「は? ……いきなりなんだよ」

 

俺はいきなり聞こえてきた声に少し驚きながらも努めて冷静に振り返った。

するとまるで夕陽のような紅い髪をした少女がそこには立っていた。

……こいつの名前は藤間麻衣子、確か"天を狩る聖女"とか言われているらしい。

何処かの偉い巫女らしいけど詳しくは知らないしどうでもいい。

こうして話すのは初めてだと思うけど、なんか馴れ馴れしいやつだな。

いきなり名前を呼び捨てか、……でも何故か悪い気はしない。

 

「だって祐一って"死ねない体"なんでしょ?」

「死ねない体……ね、意味は合ってるけど理屈は違うな……俺は死ねないんじゃなくて死なないんだ」

 

―――そう、俺は死なない。

不死者……というわけではないが"とりあえず"そう簡単には死なない。

こんな異常な体、俺が自ら望んで手に入れたわけじゃないけど便利なのは確かだ。

まあこの体のせいで何回他人に怨まれたかは忘れたが……結局そいつらでも俺を殺せなかった。

そのお陰で殺される事には慣れたけど、殺す事には未だ慣れない。

でも仕方ない、殺さないといつまでも相手は俺を殺しにくる。

一回で諦めるやつもいれば何回も挑戦してくるやつもいるのでそういうやつには例外なく殺さないとやってられない。

殺せない事がわかったならそのまま退いてくれればいいのに、俺なんか殺そうとして何の利があるってんだ?

だって、俺は死なないだけでそう特別な事は何も出来ない。

……出来ない…はずだ、でも自信は…ない。

 

「死なないんだ、じゃあ望めは死ねるの?」

「さあ? 死にたいって思った事ないし……知らん」

 

本当にそれは知らなかった、死ぬ事に慣れすぎた為だと思う。

別に本当に死んでも、そしてまた生き返っても俺には関係ない。

ただ目覚めるか目覚めないかの違いだ、だって……俺は死ぬ事に慣れているんだから。

 

「ふぅん、私はあるよ……死にたいって思ったの」

「じゃあ死ねよ、それが望みなら自害すればいい」

「あはは、はっきりいうね」

 

藤間麻衣子は本当に可笑しそうに笑った。

そういえばこいつ、よく見れば俺と似たような年頃なのかもしれない。

背が同じぐらいだし顔立ちもそれほど歳が離れていないように見える。

……何年振りだろうな、同い年の子供と話すのなんて。

 

「でもね、それは出来ないの」

「出来ない? んじゃ誰かに殺してもらえよ……死は自由で解放的だぜ?」

「嫌よ、私は殺されたくないもん」

 

……意味がわからん、こいつは一体何がいいたいんだか。

死にたいとか死にたくないとか……我侭だな、結構。

 

「じゃあどうすんだよ」

「死にたいよ、外的要因じゃなくて内的要因でね」

「内的要因? 病気とかか?」

「ううん、出来れば大往生がいいかな?」

「じゃあそうしろよ、好きにしな」

 

何が死にたいだ、それじゃあ死にたくないっていってんのと同じじゃねぇか。

死は冷たく鋭利だけどこの上なき安息でもある、まああの感覚は死ななきゃわかんないけどな。

しかし大往生ときたか、……俺はそんな長くは生きたくないな。

まあでも俺は多分そうなる、もう寿命以外に死ぬ要因が見当たらないからな。

死なない体だけど歳は確実にとっている。

いつまでもこのままではなくて髪も伸びれば背も伸びる。

だから、俺は多分歳をとって……やっと死ねるんだろうな。

 

「無理だよ、私は大往生は絶対に出来ない」

「何でだ? 誰かに殺される予定でもあるのか?」

「―――違うよ、私は殺されれば確かに死ねるけどそうじゃない……ただ単に私は大往生出来ないの」

「じゃあ病気かなんかか?」

 

もしかして二十歳までしか生きられないとか。

それならさっきの内的要因って意味もわかる気がする、でもそれなら何故"死にたい"なんて言ったんだ?

前後が合ってない、矛盾がある。

結局こいつは何がいいたいんだか……よくわからない。

俺は多分、大層困惑そうな顔をしていたのだろう、麻衣子は静かに……そして哀しげに笑いながら呟くように…しかしはっきり言った。

 

 

 

 

「―――違うよ、私はただ大往生が出来ないの……だってそういう意味では私も"死ねない"んだもの」

 

 

 

 

ロードナイツ

 

第二十八話

「舞い降りる少女」

 

 

 

 

「―――麻衣子?」

 

俺は誰かに呼ばれた気がして振り返った、だがそこには当然の如く誰もいない。

当たり前だ、俺の近くにいる気配は今目の前にいる北川のみでそれ以外にない。

それに何で俺は……麻衣子なんて言ったんだ?

 

「何だ? どうかしたのか?」

「い、いや……何でもない」

 

何でもない……はずだ、だけど何故こんなにも胸が痛いんだ?

何か大切な物がなくなったような気が……する。

でも何かはわからない、わかるはずが……ない。

 

「おーい、だからどうかしたのかよ?」

「五月蝿い黙れこの野郎」

「うわっ、何かさっきより機嫌悪くなってやがるし!」

 

北川は迷惑そうに俺から距離を置く、まったく……何か最初に会った時と大分雰囲気が違うな。

殺される事には慣れてるから別にいいんだけど、こいつの態度は少し可笑しい。

もう少し罪悪感とかそういうものを感じても可笑しくないと思うだけどな。

―――まあそれも所詮は戯言か。

 

「それで? これから相沢祐一はどうするんだ?」

「……いい加減フルネームはやめろよ北川潤」

 

…………沈黙。

 

「………………」

「………………」

 

何故かにらみ合う俺達、つーかお前は白旗あげてたんじゃないのか。

建前だけでも白旗上げたんなら少しは態度を示せ、舐めてんのか。

俺は微妙に魔力をちらつかせて威嚇しながら無言で北川を睨む。

相手も心得たもので同じ量程度の魔力をこれまた無言で発している。

どう考えても停戦協定を結んだ相手にする態度じゃないよな、両方とも。

 

「はぁ、仕方ねぇなぁ……んじゃ祐一」

「殺されたいか貴様」

「じょ、冗談だって、まったく文句の多いやつだ……なら相沢でいいか?」

「あぁ、それでいいぜ北川潤」

「……マテコラ」

 

繰り返しにらみ合いになる俺達、つーか馬鹿か俺達は。

でも何か気に入らないんだよな、こいつ。

何と言うか生理的に気に入らないっていうか……見てるだけでムカつく。

その癖何かさっきから行動とか似ているような気もする、うんムカつく。

 

「冗談は置いておいて相沢、これからどうすんだ?」

「さあな、特に決まってない…臨機応変ってやつでいいんじゃないか?」

「計画性のないやつだな」

「うるさい」

 

俺と北川は悪態をつきあいながら学園の廊下を歩く。

この先に何があるかは知らないけど……何故かもう戻れない道を歩いている気がする。

―――不安は小さな棘となり、少しずつ俺を蝕んでいるかの如く。

 

 

 

 

とある戦場は死場となり、中心には一人の"死"が立っていた。

血霞のような真紅の燃えるような長髪を靡かせながら"死"はただ悠然と……立っていた。

 

「弱い……」

 

"死"は呟く、まるで呪詛を奏でる死霊使いが如く恐ろしく淡白に。

その癖世界の全てを感じるように両腕を広げて目を閉じる。

何かを思考しているのか、または何かを感じているのか。

それは本人しか分からない邂逅なのだろう。

 

「………ぐ、貴様…何者じゃ」

 

地に伏し血に伏している少年、八雲豊は目の前にいる異常を睨みつける。

本来このような結果になるはずがなかった。

ただの人間が魔族である自分に敵うはずはない、人間とて例外はいるが目の前の者がそうであるとは思考出来なかった。

―――ついさっき、自分がこうして地に伏せるまでは。

それはまるで絵巻を読んでいるかのような……幻想的な一瞬だった。

何が起こったのかはよくわからない、しかし目の前の女が変異した事だけは確かだ。

きっかけが何かは知らないが、急に目の前のモノは覚醒したが如く襲い掛かってきた。

それで……このザマだ、まったく…こんな異常……魔族の名が廃る。

人間がここまで外れる事が出来るのなら、―――魔族なんて必要ないだろうに。

 

「………弱い弱い弱いっ! よえーんだよこの糞野郎ども!!! もっと俺を楽しませやがれってんだ魔族風情が舐めきって俺に中途半端に挑んでくんじゃねぇよ死ぬ気で来やがれってんだ不能者どもっ!!!」

 

目の前の者は全てに罵倒した、世界地上人間魔族空中空気に……全てに罵倒する。

それが当然の権利であるかのように世界への罵倒は続く。

 

「俺の相手をしろっ! 俺の敵を目の前に連れて来いっっ!! 俺と戦えっっっ!!!」

「あぅ……、美汐……真琴怖い」

「…………残念ながら私もです、何なんですかあれは」

 

倒れている美汐を抱きかかえるようにして"死"を震えながら見つめている真琴。

そして美汐も真琴の震えを感じながらもただボーっと目の前の光景に見入る。

世界を罵倒する様は無様で哀しく悔しく卑しく優しく羨ましく……全てが混沌としていた。

 

「異常を寄こせっ! 規定外を寄こせっ!! 規格外を寄こせっ!!! 神を悪魔を化け物を寄こしやがれっっっ!!!!!!! 俺を殺せ俺に殺されろ俺を死なせろ俺に死なされろ俺が殺す俺を殺せ俺の敵になれ俺の天敵となりやがれっ!!!」

 

死は求めていた、自らと並び自らと戦える存在を。

頂点などいらぬ、絶対などいらぬ、最強などいらぬ、最低などいらぬ、最悪などいらぬ、最高などいらぬ。

ただ自らと戦える存在が欲しかった、ただ全てをぶつける相手が欲しかった。

―――幻想神種、神と呼ばれる彼らには敵などいない。

否、万物が敵にすらなれないほどの絶対なる力を持つ規格外の異常。

そして理解する、八雲も美汐も真琴も……目の前のモノの敵にすらなりえなかったのだ。

全てを終わらせる存在、全てをなかった事にする存在。

否定も出来ず拒否も許されず逃亡など考えられずただ……黙って目の前のモノを見ているしか出来なかった。

 

「俺は知ってんだ俺は理解してんだ俺は思考してんだっ!!! 出て来いよっ! 見てたんだ視てたんだ観てたんだっっっ!!!!! 出て来い出て来い出て来いよっ!!! 全てを終わらせてやるよ全てを始めてやるよ全てを拒否してやる全てを受け入れてやるっ!!!」

 

"死"の独白は続く、"死"の罵倒は続く、"死"の願望は続く。

 

「―――出て来いよ相沢祐一っ!!!! お前こそが俺の敵に相応しいお前こそが俺の天敵に相応しいお前こそが俺の死に相応しいお前こそがお前こそがお前こそがお前こそがお前こそが――俺の相手だろうっ!?」

 

そう、それこそが"死"の望み。

自らの存在が"死"であるが故に求めるのは否定。

万象が起こりえない奇跡を体現している異常性質を持つ唯一の人間。

"魔族でさえ不死者と呼ばれる者達には無限に近い数であるが死は存在している"というのに。

相沢祐一はそれを否定した、人間が魔族が万象が全てが望むのは不変。

最早人間ではない、最早魔族でもない、最早存在すらしていない。

ありえてはいけない存在、―――それが相沢祐一。

幻想神種である大蛇でさえこのような異常の本質はわからない。

だから惹かれるだからこそ望むだから呼ぶ。

 

「どうした傍観者っ! お前だけだお前だけが俺の相手に相応しいお前だけが俺を否定するっ!!! お前が出てこなきゃ全てを終わらせる全てを破壊する全てを清算するっっっ!!!! それが契約者との誓いだ約束だ盟約だっ!!! それが嫌なら出てきやがれ俺の敵っ!!!!」

 

そうして―――八雲豊は立ち上がった。

独白を聞いていた彼はただ立ち上がった、自分で意識はしていない。

ただその"名前"を聞いたからには立ち上がらなくてはいけなかった。

 

「相沢―――――祐一じゃと?」

「あっ!? 聞いたのか知ってんのか記憶してんのかっ!? そうだそうだそうだ相沢祐一だっ!!! ずっと見てたずっと憧れてたずっと惹かれてたずっと相対したかったっ!!!! 在り方の気に入っただけの我が主人とはまるで違う本質からの異常っ!!! 奴が神! 奴が悪魔! 奴が天才! 奴が偉才! 奴が異才! だから俺は奴ではなく我が主人に従事した!! そうしなければ奴とは戦えない奴とは競えないっ!!!」

 

そう、大蛇が望んでいたのはそれだけだった。

相沢祐一に相対したい戦いたい敵と認識してもらいたい。

ただそれだけの為に草薙は秋桜麻衣子に仕えた、全てを捨ててまで大蛇は一つの望みを叶えたかった。

それが、この瞬間―――ついに叶う。

 

 

 

 

―――だが、その前に一人の少女が舞い降りた。

 

 

 

 

草薙、否……大蛇の前に舞い降りるように存在する少女。

髪は漆黒、手には剣、体には装飾された学園の制服。

彼女は降り立つ彼女は相対する彼女は理解する。

見つめる先には一人の紅き少女、紅き鬼、紅き蛇、紅き神。

……だが彼女は怯まない、ただ当然が如く目の前の"敵"を見据えた。

 

「なんだてめぇはなんだてめぇはなんだてめぇはっ! お前じゃねぇお前じゃねぇお前じゃねぇっ!! 呼べよ呼べよ呼べよ奴を呼べっ!!!! 俺が認めるのは相沢祐一だけだ奴と戦った後てめぇら雑魚屑共と相手になってやるだから呼べだから」

 

気に入らないと"死"は罵倒する、やってられないと"死"は罵倒する。

だが、少女は怯まず剣を構える。

―――そして蛇は理解する、目の前の異常に。

相沢祐一には敵わない、相沢祐一には及ばない、相沢祐一には届かない。

だけど……目の前のモノも異常だった。

 

「そういう事かそういう事かそういう事か、前哨戦ってわけだな? やってくれる相沢祐一……神である俺をまずはこいつで試そうってわけだな流石我が神、流石我が死神、流石我が否定、流石我が天敵」

 

―――そうして、蛇は初めて目の前のモノを"敵"と認めた。

 

「我が名はヤマタノオロチ、最早姿は保てないが意識は生きる幻想神種が一……識別名称は『蛇』だ、我が敵我が獲物我が前菜……問おう問おう問おう、矮小なる存在の貴様は何者か」

「―――私は川澄舞、魔物を討つ者」

「魔討ちか、魔殺しか、魔斬者か……いいだろういいだろういいだろう、前哨戦には相応しい」

 

ならば始めよう、異常の戦いを。

ならば終わろう、異常の戦いを。

 

 

ならばならばならば―――――――幻想の戦争を始めよう。

 

 

to be continue……

 

 

                                            

 

 

 

あとがき

特になし、ノーコメント。

言えるのは一言、これで理解してくれると嬉しいです。

 

 

 

 

―――第二十五話★用語辞典―――

 

製作中

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