「だ、駄目……じゃ」

 

目の前の出来事に困惑しながらも八雲豊は川澄舞に近づく。

最早両者の衝突は必至、止める事など出来るはずがない。

………しかしだからこそ、川澄舞の行動を止めなくてはいけない。

"勝てないと分かっている勝負"に彼女という最高戦力を向かわせるわけにはいかないのだ。

 

「………大丈夫、下がって」

「違う、アレには勝てないんじゃ……勝てない理由がある」

「…………」

「単純な"戦闘能力なら我らの方が上"じゃ、でも勝てはしない」

 

そう、いくらなんでも幻想神種とはいえど人間の体を媒介にしている為……最強ではない。

寧ろ幻想神種という大海を人間などという器に収めろという方が無理だ。

―――そう、普通ならば……単純な戦闘能力ならばここにいる八雲豊に沢渡真琴、そして川澄舞の方が上だろう。

だが、それでも勝てない…勝てるはずがないと八雲豊は訴える。

 

「奴の起源は"死"……どうして死んでいる者を倒せよう」

 

生物には形あるものしか殺せない。

ならば目の前のものは絶対に殺せはしないのだ。

目の前のものは蜃気楼、幻想、一方的にこちらを打倒する事が出来る神なのだ。

既に形を持たぬ幻想神種、蜃気楼を消し去る事などできるはずがない。

つまり、奴に触れる事さえ出来ずに我らは圧倒されてしまったのだ。

 

「あぁ? 何だ何だ何だぁっ!? 脅えたか竦んだか勝てぬと屈したか!!! 仕方ない仕方ない仕方ない……だからいっただろうよ、俺の敵を早く連れて来いってなぁっっっ!!!!」

 

大蛇は高笑いをしながら川澄舞を見下ろした。

そう、既に死んでいる者を殺す……否、"死んでいる者を否定する"存在……それが相沢祐一だった。

つまり死の天敵、死の死神、死の神、死の悪魔。

―――死を否定する者が死の天敵でなくて何という。

 

「………大丈夫、私は"負けない"」

 

しかし川澄舞は退かない、退くはずがない。

目の前のものと相対して川澄舞がどうして退けようか。

魔を討つ者が魔を目の前にして、それも極上の魔を敵に回してどうして退く事が出来る。

 

「何だぁ? やるってのか戦うってのか無様に負けるってのか? 仕方ねぇ、前哨戦ぐらいはやってやるよ」

「………幻想神種、敵にとって不足はない」

 

そうして―――川澄舞は地を蹴った。

手に持つは無名の剣、その剣を振りかぶりまるでコマのように大蛇へと"跳びかかった"

しかし大蛇はそんな川澄舞を見ても何もしない、構えない。

それもそのはず、大蛇は絶対防御以上の干渉不可領域に存在する神たる存在。

そんなものは大蛇にはただの戯言、遊戯にしか見えなかった。

―――しかし、だからこそ……川澄舞は何の考えもなく斬りつけた。

 

「――――――あ?」

 

間の抜けたような声、それが自分が発したものだと思い当たったのは随分時間が経ってからだった。

まるで遊戯だ、まるで幼稚だ、まるで無駄でまるで意味のない行動。

それなのに何故、―――この体に深く剣などというものが刺さっているのだろうか?

 

「………はっ、"外れてる"と思ったがそういう事か魔討ちよ」

「―――ふっ!」

 

大蛇はその一瞬で何を理解したのかは不明だが―――大蛇にはその瞬間全てが分かった。

しかし川澄舞は答えずそのまま剣を振り上げるように大蛇の体を切り裂く。

だが……その剣はまるで蜃気楼に吸い込まれるように空気だけを切り裂いただけだった。

 

「無駄だ、しかし一撃に賭けたその思想には素直に敬意を示そう……そうかお前の起源は"存在"か」

「………そう」

「なるほどなるほど、つまり貴様は魔の天敵たる存在か……面白い」

 

その戦闘、一瞬の攻防を見ていた者達は何が起こったのか誰一人として理解出来なかった。

何故川澄舞の攻撃が当たり前の如く命中したのか、そして何故その後の攻撃は外れたのか。

全ては想像の範囲外、あれだけ自分達が苦戦し――否、"苦戦さえも出来なかった相手"にどうして当然の如く斬りかかれたのか。

その場にいた三人には何一つ、理解は出来なかった。

唯一分かるのは二人だけ、それぞれが敵と認識した川澄舞と大蛇だけだった。

 

「しかし"存在の肯定"か、前哨戦にしては少々難易度が低いが……そうか―――最初に貴様が言ったのだったな、"自分は負けない"と」

「……………」

「はっ、甘い温い弱い……こんな事なら相沢祐一が出るまで"草薙"に任せておくんだったなっ!!!」

 

大蛇は詰まらなそうに川澄舞を見下す。

体を貫かれた傷すらも地を這う虫が如く気にはしていない様子でただ目の前の敵を見下す。

その眼に映るのは最早川澄舞ではなく、ただの詰まらぬ敵。

 

 

 

 

「肯定など俺には必要ない、俺に必要なのは否定―――いくら貴様が俺の存在を肯定しようと所詮は戯言……輪廻の輪に囚われた者を救おうなどど、生ぬるい気軽い馴れ馴れしいわっ!!! 俺を完膚なきまでに完全にこの世から―――――否定しろ」

 

 

 

 

ロードナイツ

 

第二十九話

「天使」

 

 

 

 

「時間ですね、これ以上交渉の時間を延ばしても意味がないでしょう」

 

そういって魔族である彼は私、水瀬秋子に決断を迫った。

その顔は不敵に笑っていてまるでこちらが完全に相手の手の平の腕で踊っているような感覚に襲われる。

 

「そうですね、確かにこれ以上の時間の遅延は何の意味もありません」

 

私に示された道は二つ、相手の策略に乗るか即座に戦闘を開始するか。

"準備"なら整っている、次元使いとしての能力は今なら100%の確立で行使可能だ。

―――凡そ彼が気づく前にその存在を消し去る事が可能だろう。

だが……それで正しいのかと自分に自答する。

カノン王国から離れて彼らについていった私と引き換えに民を蘇生させる。

さほど悪い条件ではない、寧ろある意味破格の条件だろう。

その上私は王宮魔術師、王宮から離れた時点で"次元使い"としての能力がなくなる。

つまり、相手には殆ど利を与えずに国を救う事が出来る。

……しかし、問題は"彼女"だ。

 

「私だけ……という条件なら考えない事もありませんよ?」

「それは出来ませんよ、何せ組織としては彼女も欲しがっています」

 

そう、つまりここが両者共譲れぬ領域。

彼等が与えられている条件は"出来る事なら私と彼女の確保"、つまり確保が不可能なら……倒すしかない。

危険な存在を野放しには出来ないという理屈はわかりますがやはり少々強引ですね。

まあ魔族にそんな言葉は嫌味にすらなりませんけど。

 

「それでは次元使い殿、ご決断を」

「……………」

「イマイチ乗りませんね、いいでしょう……ならば少々情報をあげます」

「―――情報?」

 

一体何をいいだすのか、目の前の魔族は静かに笑った。

全てを見透かしたような瞳……何か重要な情報を持っているのだろうか。

それにしてもここで出してくる情報、彼の切り札……といったところですかね。

しかし、どんな情報にしろ……このタイミングでどんな情報を……。

 

 

 

 

「槇村剛毅、久瀬英貴、光守司、築地玲二、ティンクル・レイバー、アーレン・ディラバール……以上が"現在学園内での死者"です」

「―――――なっ!?」

 

 

 

 

それは―――既に"死者蘇生のリストに入っている学園内で起こった悲劇"の情報だった。

しかし、学園を纏める最高責任者であるティンクル学園長が……既に?

彼女は魔法学園の学園長だけあって実力はカノンの中でもトップクラスだ、そう簡単にやられる人ではない。

 

「ちなみに美坂栞は確保済み、人柱候補をようやく一人だけですが確保出来ましたよ」

「………そんな、事があるわけ……ありません」

「えぇ、でも事実ですよ……これも僕の優秀なる部下達のお陰ですね」

 

…………まさか、本当にこの短時間に彼女達を?

相手は魔族といえどあれだけの実力者達をそこまで簡単に?

 

「どうやって彼女達を……」

「何、簡単な事ですよ―――仲間内にちょっと"変装が得意な魔族"がいましてね……彼女にお願いしました」

 

その瞬間―――私は全てを理解した。

彼の言っている事は"本当だ"、そうか……それならば説明がつく。

そうですか、そうなるとこちらも考えなくはいけませんね。

しかし変装が得意な魔族ですか、また珍しい"魔物"を呼んだみたいですね。

 

「理解しました、あなたの言っている事は本当でしょう」

「理解してもらえて嬉しいですね、意外に素直に納得されて光栄ですよ」

「起きてしまったものは仕方ありませんよ、私に責任はありません」

 

―――そう、私に責任は一切ない。

酷いようだがその通りだから仕方ない、あちらが悪い。

 

「しかし案外レベルが低いですね、もう少してこずると思ってましたよ」

「私も意外です、こうもあっさりやられるなんて……」

「意外に冷たいですね、あぁ……あなたは意外と魔族側に近いんでしたね」

「……その意見は了承しませんが、別に私は冷たくありませんよ……"関係ない"んですから」

 

私のその言葉を聞くと彼は可笑しそうに笑う。

……愉快ではありませんね、さっきといい今といい。

そんなにも今起こった事態が嬉しいのでしょうか?

 

「―――ははは、流石は"人間外"と呼ばれる二つ名持ちに一番近いだけありますね……断言しましょう、あなたは既に人間じゃない」

「あなたに断言されるいわれはありませんが、取り敢えずお話を進めましょう」

 

 

 

 

その時、牙紗の腕は爆発したように吹き飛ばされた。

 

「―――がっ! ちぃ、この化け物がっ!!!」

 

魔族の自分が、それも吸血鬼である自分が漏らすとは思わなかった台詞を吐きながら後退する。

この後退は"次に繋げる為の後退ではなくただ消滅の危機を避ける為の後退"だった。

 

「……牙紗、一旦距離を置け! いくら"ゲヘナゲートがあるとはいえ"お前はもう死ねないのだからな!」

「そんなの言われなくともわかってらぁ! 糞っ、やりづれぇ……」

 

鬼仙の言葉を聞き、愚痴を漏らしながら牙紗は目の前の敵を睨みつける。

―――そこに存在するのはまさに"片翼の天使"だった。

この戦闘が開始されてから既に五回、五回もの回数牙紗は体のいたる部分を破壊されてしまった。

いくら吸血鬼の不死性があるといえども限度がある、川澄舞ほどの異常ではないが目の前のものは化け物だった。

 

「おいっ! お得意の魔法で何とかできねーのかよ!?」

「……無理をいうな、俺の魔力は今現在も"カノン障壁"と"魔物軍団"のせいでゲヘナゲートに全て奪われてるわ」

「―――くっ、使えねぇなぁ!!」

 

―――牙紗は何回目になるかわからない衝撃を直接体に喰らいながらも何とか耐えた。

本来牙紗は戦闘用、こんな"相手を捕獲する戦い"になど慣れてはいなかった。

 

『――――――』

 

片翼の天使が言葉にならない"何か"を発する。

そしてその瞬間、牙紗はまた体の一部分を完膚無きまでに破壊された。

苦痛に満ちる牙紗は、それでも何とか再生能力をフル活用しながら凌ぎきる。

何せ相手は一言言葉を発するだけでこちらを攻撃してくる。

―――殺す気で挑むならまだしも防戦一方だと勝てるはずもなかった。

 

「あぁもう無理だ、おれっちに戦わせろってんだ! こんな獲物を前にして防戦のみか!?」

「……我慢しろ! 交渉が終わるまで"この天使の動き"は我々で抑えねばならん」

「ちくしょう……早くしろってんだ、こんな無駄な事させんなよ!!」

 

牙紗は愚痴りながらも思考回路は狂喜していた。

―――水瀬秋子への挑戦、川澄舞へのリベンジ……全てお預けされたけど目の前のモノも上質な獲物だったからだ。

牙紗は戦闘狂、相手など正直誰でもいい。

ただ相手が自らの欲望を満たす事が出来れば敵だろうが味方だろうか関係ない。

 

「―――まだかっ! おれっちはアイツとは違って"万能たる盾"じゃねぇんだ!! 向き不向きがあるだろうがぁ!」

「……交渉なんて繊細な事はお前には不向きだろうが、黙って"壊れにくい盾"を演じてろ」

「ぐ―――っ!? 一度敵に負けたからって扱い酷くねぇか?」

 

軽く苦笑しながらも次々に飛んでくる衝撃を最小限の動きでかわしながら牙紗は敵へと攻め寄る。

何も出来ないのは口惜しいが今のうちに相手の力量を全て量っておくのも悪くない。

おれっちは戦闘狂だがそういう計算だけは得意だからな、相手の全てを知り尽くして最後に倒すのも悪くない。

しかしそうなると"天使"たるやつの攻撃に変化をつけさせないとな。

―――だがどうでもいいが何処が片翼の天使なんだ? ちゃんと"両翼に翼"がついてるじゃねぇか。

牙紗は疑問に思いながらも更に接近してついには手を伸ばせば届く距離まで詰め寄った。

さぁ―――来いよっ!

 

『――――――、―――――ッ!!』

 

節を区切ったように一度止めてまた言葉を発する天使。

どうやら近接防御用の"言霊"を発動させたようだ。

牙紗は自らの企みが成功した事による達成感を感じ―――次の瞬間体半分が吹き飛んだ。

 

「―――ま、ずぃ」

「牙紗っ! ちぃ……何をしている!」

 

これは予定外だ――と崩れ落ちそうになる体を残った体のみで支える吸血鬼。

無様にも程があるぜ……っと呟きながら再生能力を最大に上げて体の修復に当てる。

―――しかし修復個所が多いため外見は全て補修したが内面の補修まで手がまわらなかった。

 

「悪い、少し退くぜ……これ以上逝ったら流石にきつい」

「……馬鹿な事をするからだ、まったく面倒をかけさせるな」

 

呆れたように鬼仙は呟きそのまま牙紗を通りすぎ目の前の天使と向き合った。

魔力を失った魔法使いに出来る事などそう多くない。

しかし、鬼仙はそれでも杖を片手に天使へと向かっていく。

 

『――――――』

 

天使は鬼仙の接近を許さぬとばかりに言霊を発する。

だが不可視の衝撃波は鬼仙に当たることなく自らその軌道を変えてしまった。

……いや、軌道を変えたというよりは二つに割れたといったほうがいいだろう。

 

「甘い、俺の杖は"魔裂き"の呪いがかかっている……不死者殺しや魔法破壊には及ばないがこれでも限定装備だからな」

 

魔裂きの呪い、その名の通りに"魔を裂く呪い"

杖の先端部分に当たった魔法ならばその場で切り裂く限定武装。

切り裂くだけなので魔法破壊のように強力なものではない。

エクスプロージョン、ハイメテオなどの範囲魔法には何の効果も現れない本当の意味での限定武装。

障壁などの防御魔法も壊せないこの杖はただ唯一"単発の攻撃魔法"のみに作用する。

本当ならば"次元使い"対策に用意していたものだったがここで役に立った。

 

 

「……さあどうする"片翼の天使"、現在のカノン――いや、我が故郷を蝕む元凶よ……っ!」

 

 

to be continue……

 

 

                                            

 

 

 

あとがき

冷たいなー秋子さん(笑)

……でもそんな秋子さんも結構好き(ぇ

ちなみに次はちょっとお休みで外伝に行こうと思ってます。

外伝の内容は"本編の抜けてる話の補完"と"キャラの経由"について細々と付け加えたいと思います。

本編で抜けている話とは例えば物語の大筋には関係ないが存在した空白の時間の事です。

簡単に言うと何時の間にか終わってた戦闘とかその頃あちらでは何が起こってたのかとか。

キャラの経由とはつまりキャラの存在意義といいますか簡単にいうと過去話。

栞の学園入学初日とか祐一君の昔話とか麻衣子の草薙手に入れるまでの経由とか色々。

といいますか「書いて」というお便りが来たので書くだけですけどね(笑)

一気に出来るとは思わないので次回はちまちまと更新してまたすぐに本編に戻ります。

そして暇が出来たらまた外伝みたいな感じで。

何か先に書いて欲しい外伝があったらメールかweb拍手かBBSでどうぞ、なければ勝手に書きます(´・ω・`)

 

ちなみに蛇足ですが『最強』とはもっとも強いという事。

ならば神は『不死』ではないし『無敵』でもないですね。

もっとも強いという事はつまり『比べる対象』が存在するという事でその時点で可能性は放棄されます。

とある聖書では『神を傷つけてはならない』と書いてありますがそういう意味では神は『無敵』でも『不死』でもありません。

つまり神は『絶対』ではなく『最強』、起源がなんであろうと『世界に存在する時点で無敵は存在しません』

『無敵』とは敵がいない、つまり存在しないという意味に取れます。

神は『無限』ではないし『無敵』でもない、『有限』でその上『最強』という証を持っているだけです。

以上、本編とは関係……しているようなしていないような蛇足でした(ぇ

 

まあ頭の回転がいい人には解るような解らないような理屈です。

ちなみにこの理屈の半分はとある偉い人の理論らしいけどそれはまた別の話って事で。

 

 

 

 

―――第二十五話★用語辞典―――

 

製作中

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