剣戟が交差する、大蛇は草薙を……川澄舞は無名の業物を持って剣舞を演じる。

舞が斬りかかれば大蛇は草薙で切り払うように防ぎきり、大蛇が斬りかかれば舞は避けながら柳のように剣戟を受け流す。

ある者はその姿をただ呆然と見つめ、またある者はその姿に惹かれ……受け入れていた。

 

「それ―――受けてみろっ!」

「くっ―――はぁぁぁ!!!」

 

大蛇の一撃を舞は全身を使いいなすように防ぎきる。

まるで雷鳴が如く一撃は舞が持つ無名の業物を軋ませ、一歩一歩と追い詰めていく。

舞が完全に防ぎきっている攻撃も段々と手数を増していき、舞の額から脂汗がにじみ出ていた。

確かに総合戦闘能力という点に置いては舞の方が上だったが腕力や速さでは大蛇が勝っているようだ。

対して大蛇の方は疲れをまったく見せずに剣を振り下ろす作業のみに没頭している。

傍から見れば一進一退の攻防だが、着々と両者の立ち位置はズレていった。

 

「どうした魔討ちぃ!!! 前菜は前菜らしく優雅に俺を楽しませろ!」

「――――あっ――ぐ!?」

 

大蛇の切り払いが遂に川澄舞の体を剣ごと弾き飛ばした。

……大蛇の剣に込めている力は変わっていなかったが舞の受け流しが遂に限界を迎えたのだ。

退き跳ぶ舞を見て大蛇は追撃をせんと一歩踏み出し草薙を構え直す。

舞の体は宙に舞い、そしてそのまま―――舞は着地と同時に大蛇へと向かって地を蹴った。

 

「――――せぃ!!!」

「―――温いっ!!!」

 

川澄舞の全身の力を込めた斬撃は、しかし大蛇が持つ草薙によってその威力を相殺される。

だが攻撃を阻止された瞬間、舞は一度手から剣を放しそのまま思いっきり大蛇へと拳を突き出した。

それを見た大蛇は小さく舌打ちすると大蛇も草薙を手放して舞の拳を受け止めんが如く片腕を防御へと回した。

 

「―――はぁっ!!!!」

「――――させるかっ!!!」

 

鈍く衝撃音が当たりに響き渡る、舞の拳は大蛇の腕により完璧に防がれていた。

だが、完璧に防御したはずの大蛇の腕はだらしなく垂れ下がり決して曲がらないはずの方向へと腕が曲がっていた。

一瞬の刹那、舞と大蛇はお互いにそのままの姿勢で両者共睨み合う。

そしてフッと大蛇が渇いたような顔で舞へと笑いかけた。

舞はその笑みをいつもの無表情で受け流し、そして一歩だけ大蛇から身を離した。

 

「流石は存在の肯定、我が死さえもこの世に現界させるか」

「……当然、この世に存在している限りその存在は消え去りはしない」

「はっ、前菜にしては上出来だ……だがこんな子供遊び如きでこの俺が殺せるとでも?」

「―――言ったはず、私は……負けない」

 

そうして、舞は自分の足元に落ちていた自分の得物を拾い上げる。

そしてそのまま手にした剣を正眼に構え―――舞はもう一歩大蛇から身を離した。

 

「負けない……か、前菜風情が良く言った……」

 

大蛇も自らの足元に転がっていた草薙を拾い上げると軽く振り回した。

どうやら折れた腕は利き腕だったらしく折れていない腕の性能を確かめたようだった。

何回か振り回した大蛇は突然ピタリと行動を停止して軽く苦笑する。

 

「まったく便利な我が主だ、両手利きとはな」

「……………」

「さて―――魔討ちよ、そろそろ仕舞いにしてもらうおうか?」

「…………何?」

「―――術式開放、対象"秋桜麻衣子"」

 

そう言って、大蛇は草薙を舞へと向けて睨みつける。

そして次の瞬間、大蛇の体がブレた。

 

「――――――っ!」

「遅い……、仕舞いだ」

 

そうして川澄舞の体に一本の剣が突き出された。

大蛇の姿は最早目の前にはなく、声だけが舞の背中から聞こえてくる。

完璧に後ろを取られた舞は身動きすら出来ずにただ驚愕だけが脳裏に巡っていた。

いつ大蛇は真後ろに陣取ったのか、いつ大蛇はその場から動き出したのか。

全てを知る暇もなく、ただ舞が感じ取れたのは漠然とした自らの逃れられぬ敗北のみであった。

そして、舞の目視でさえ捕らえる事が出来ないほど速く、大蛇の剣は舞を背中から貫いていた。

 

 

 

 

 

 

―――否、貫いているはずだった。

 

 

 

 

 

 

「誰だか知りませんけど、佐祐理の親友に何をしてるんですか?」

「―――なっ……に?」

「佐……祐理? 何で……ここに?」

 

その少女は竹箒に乗りながら現れていた。

舞と大蛇の丁度真ん中、まさに大蛇の剣が舞の体を貫通する直前に―――まるで当たり前のように"存在"していた。

その顔には何処か暖かく、そして何処か冷たいような笑顔が浮かんでいる。

手には大蛇が突き出さんとしていた剣を防いだ銀色の杖が鈍くそして青白く光り輝いていた。

大蛇は突然現れた闖入者に対し流石に困惑の意を隠しきれずただ呆然と目の前の出来事を傍観していた。

 

「瞬間……移動だと? いや違うな、これは……転移魔法か?」

「あはは〜、ご名答ですよ―――それじゃあご褒美です♪」

 

そして、突然現れた少女は身を捩るように杖で突き出されたままだった剣を弾き飛ばすとそのまま乗っていた箒で舞を掴み空へと上昇した。

突然の事に大蛇は即座に反応出来ず剣を拾う間もなく高く舞い上がった少女達を目で追った。

すると……、そこには銀色の杖を構えながら大蛇を見下ろしている少女が一人……一人?

 

「――――舞っ、今ですっ!」

「ありがとう―――佐祐理」

 

その声は―――すぐ"下"から聞こえてきていた。

大蛇はそして、今度こそ最高に驚愕の表情を浮かべた。

見下ろすとそこには先程少女と一緒に空へと舞い上がっていった川澄舞が剣を構えてそこにいた。

何がどうなっているまるで悪い夢だ―――っと、そこまで考えて大蛇は心臓を一突きにされていた。

 

 

 

 

ロードナイツ

 

第三十話

「敗北の勝利」

 

 

 

 

―――何かがおかしい、そう思った。

目の前にいる"異常"はおかしすぎる、これでは現象として成立しない。

 

「おい、魔法使い」

「何だ……吸血鬼」

「流石にもう無理だ、再生すら危うくなってきてやがる……」

「……わかっている、こちらも限定武装が許容量を越えてしまっている」

「万事休すってか? はっ、笑えねぇ」

 

おれっちはそう愚痴をたれながら目の前の"異常"を睨みつける。

そこには一体の銀色の翼を両翼から生やしている紛れもない天使がいた。

今回の標的、片翼の天使と呼ばれるカノン王国の要ともいえる幻想種が一人。

捕らえる為と牙紗達は戦いに挑んだが流石に無傷で捕らえられるとは思っていなかった。

なので幾分か攻撃を織り交ぜながら天使へと迫ったのだが……。

 

「傷一つねぇと……、どんな出鱈目だありゃ?」

「確かに可笑しい、不死者でも攻撃されたら傷は一時的にでもつく……あれは異常だ」

「つまりカラクリがある……って事か」

 

まったく、カノンには化け物しかいないのかね……っと愚痴りながらも牙紗は再び立ち上がった。

……しかし吸血鬼である牙紗の体は先程からの完治が遅れている、それは牙紗への警告でもあった。

いくら不死者といえど何連続も肉体が傷つけば再生能力は減少し回復までには時間がかかる。

最終的にはこのままいけば牙紗の体は修復する事をやめ、摂理に従い崩壊していくだけだろう。

そんな身の破滅を知りながらも、牙紗は笑いながら天使へと歩き始める。

元より死など牙紗にはどうでもいい事だった。

不死者である牙紗は戦闘以外に生きている意味を見出せない、それほど長く生き過ぎた。

牙紗にとっては死とは負けること、そして生とは戦う事に相違ない。

負けることは正直ムカつくが、正々堂々と死闘を演じられた相手ならそれでもいいと思う。

その程度にしか牙紗は死というものを考えていないのだ。

そして、今牙紗の目の前にいる天使は極上の獲物……牙紗に退く理由はない。

 

「まだおれっちは生きてるぜ、天使さんよ……」

「――――」

 

天使は答えない、ただ侵入者である牙紗達を無機質な瞳で見つめてくるだけだった。

流石は幻想種、吸血鬼なんてもんには興味がないっていうのか。

牙紗は内心面白くないが、ここまでの戦力差を見せられた後ではそれは認める。

だが……、このまま遅れを取るただの間抜けと同じにされる事は我慢ならない。

 

「おい魔法使い、殲滅に移るぞ」

「……致し方ない、だが殺すな」

「殲滅は殺す事だっつーの、まあ……手加減はする」

 

―――瞬間、牙紗の目の前が金色の平原と化した。

吸血鬼の瞳は本体金色の瞳だ、しかしそれは過ぎた力の象徴でもある。

不死者としての吸血鬼の眼は灼眼だが"戦闘時"には金色と化す、不死者としての能力を戦闘に回す力。

莫大なる力が牙紗の体を駆け巡る、だが――過ぎた力は身を滅ぼす事と同義だった。

本来、吸血鬼とは魔族の中でも飛び抜けて再生能力を保持している種族だ。

その力の全てを戦闘というカテゴリーに限定して使うと、一時的に能力を向上させる事が出来る。

再生能力は最早時間跳躍と同じぐらいの速度で復元し、腕力や硬度……さらには反射神経等まで飛躍的に上がる。

しかし……その代償として、吸血鬼は反比例して寿命を縮める。

吸血鬼は不死者だ、だが"不老不死者"ではない……つまり吸血鬼は老いる。

千年単位ではあるが確実に年々力は衰えていき、最後にはただの灰と化す運命にあった。

だから吸血鬼はその身に莫大なる力を保有していながらも、戦わない。

そういった意味でも、牙紗は吸血鬼の中では異質な存在だった。

 

「来いよ、天使」

「―――――っ!!!」

 

だが牙紗は自分の行動を後悔しない、否――するはずがない。

命は無くなるもの、その命は短くても長くてもそう変わりは無い……だって命は無くなるものなのだから。

それに―――この身は元は……。

 

「さあ――第二ラウンド、始めるぜっ!!」

 

 

 

 

「―――さて、これはどういうことかご説明頂きたいですね」

 

そういいながら僕は目の前に立つ"一人の魔術師"に問いかける。

透き通るような蒼天の瞳に海のような深みを見せる蒼い髪の魔術師は先ほどとはまるで違う殺気を浴びせかけてくる。

―――これが……二つ名と呼ばれるに相応しい次元使い、水瀬秋子の正体といったところですか。

 

「どうもこうもありませんよ、これは警告ではない……ただの"宣戦布告"です」

 

そういいながら次元使いは笑いかける。

だが……その笑顔は何処か無機質なそれでいて鋭い表情をしている。

確か情報では次元使いと呼ばれるこの女性は"実戦経験皆無"と聞いていたんですが……僕の情報も当てになりませんね。

いやはや驚きだ、あれは狩る眼……圧倒的な力を持ったものが相応の覚悟をしている眼だ。

魔法使いなんてものは探求者の集まりで、戦争になったらただの砲台でしかないと思ってましたが……認識不足ですね。

―――これはただの破壊者だ、魔法使いなんて言葉では言い表せない純粋なる"殺し屋"といってもいい。

 

「それにしても可笑しいですね、僕の体には元来対物理、対魔法、対衝撃、対環境、対毒性などが備わっているんですが……」

 

そういいながら僕は無くなった両腕を確認する。

これは可笑しい、何故なら僕には次元使いが扱ったであろう魔法が何の抵抗も見せずに貫通されている。

万能たる盾、ありとあらゆる戦闘を想定して作られた人造のこの体には魔法なんて効かないはずなんですけどね。

流石は次元使い……想定を遙かに超えた実力、化け物と呼ぶに相応しい怪物。

だけど―――まあそれらは何とか理解出来る、でもこの僕でも全く理解出来ない事柄が存在した。

 

「―――あなた、本当に魔法使いですか?」

「……どういうことですか?」

「だってあなた……"詠唱どころか発動宣言"も唱えていないじゃないですか」

 

魔法使いが詠唱を破棄出来る事は周知の事実だ。

本来世界への働きを自己完結する事により高速詠唱を可能にした魔法使いの戦闘技術の一つ。

しかし、絶対に排除出来ない部分は存在する。

それが発動宣言と呼ばれる魔法そのものをこの世に呼び起こす絶対なる必要部分。

これが無くては魔法など完成するはずもないのだ。

 

「あら、そんな事は私よりあなたの方が詳しいと思いますけど?」

「…………すみませんが思い当たる節がありませんね」

「あらあら、困った魔族ですね」

 

次元使いはそういいながら片手を頬に当てて今まで以上に微笑んだ。

まるで出来の悪い子供を見守る母親のような態度だった。

これは……舐められているというよりは天然なんでしょうね。

 

「だったら何故私が次元使いと呼ばれてると思いますか?」

「…………重力か物体切断かそれとも空間削除を行える魔法を扱えるからじゃないですか?」

「それでは0点ですね、初めに言っておきますが―――これは魔法ではありません」

 

魔法では、ない……?

どういうことだ、ならば次元使いは何を行ったというのだ?

如何にしてこの僕の両腕を何の動作もなく切断するなんて真似が出来るというのだ?

しかもそれは魔族である僕の方が知っている力だという。

……そんな反則、幻想種でもない僕が知るわけないでしょうに。

 

「……そういえば何処かの小さい島国が独自の方法で扱う法術や方術と呼ばれる方法があると聞きましたが」

「それもハズレです、第一法術などは媒介となる物が必要ですから……私は持ってませんよ」

 

……だとしたら何だというのだ?

極地にある秘術の類……というわけでもないでしょうし、まさか次元使いが"聖痕者"だというのではないでしょうね?

いや、聖痕者ならば一国家が抱えられるはずが無い……第一次元使いがそうだとしたら僕らなんて敵じゃない。

幻想神種でさえ打倒可能な聖痕者なんてこう簡単に存在していい筈が無いですからね。

人間という生物の中で唯一の聖痕者であると言われる"剣の支配者"が次元使いというわけでもないでしょうし……。

 

「わかりませんか?」

「全く理解できませんね、僕の思慮が足りないせいでしょう」

「ならばヒントです、―――どうして"私が二つ名に最も近い"とされているのでしょうか?」

「―――どういうことですか?」

 

二つ名持ちと呼ばれる所以の事を言っているのか?

……確かそういう事は全て人類の叡智と呼ばれる"法王卿"に住む長老達が厳選して決めていると何処かで聞きましたね。

どういう基準で決めているという事なら――やはり実力ではないのだろうか?

 

「二つ名持ちは別に特別な魔法を扱えるから付けられるのではありませんよ、魔法なんてものが使えても命名されません」

「確かに断罪者は魔法使いというカテゴリーではありませんからね、でもそれが何か?」

「わかりませんか? ならどうして二つ名なんてものが必要となったのでしょう?」

「それは……やはり実力が飛びぬけているからじゃないんですか?」

「―――そう、答えはそこにあるんですよ」

 

実力が飛びぬけているという事か……、どういう意味だ?

それがどうして僕の万能たる盾を無効化出来るというのだ?

僕の混乱を見て次元使いはクスリと笑いながら――当たり前のようにその言葉を口にした。

 

「私は厳密に言うと魔法使いではなく、―――"起源者"と呼ばれる外れた者です」

 

 

 

 

「く……、は………はは」

 

舞の剣は大蛇、いや……秋桜麻衣子の体を容赦なく貫き停止していた。

大蛇はそれを見ながら可笑しそうに顔を歪めるが、声は掠れていて何をいっているのかはわからない。

―――その様子を見て、ようやくその場にいた沢渡真琴と天野美汐と八雲豊は現実に戻された気がした。

 

「何が起きたのか――いえ、そんな事より倒したのでしょうか?」

「流石に幻想神種でも人間に憑依している場合は心臓を突かれれば終わりじゃろうて」

「あぅ、何だか真琴達のいる意味がわからなくなったわよぉ」

 

……まったくだ、っと八雲は軽く笑いながら川澄舞を見ていた。

―――人間という器の中でも最高純度の"起源"に達した唯一の成功体、ロードと呼ぶに相応しき存在……川澄舞。

だが、そんな彼女も幻想神種という存在の前では一歩劣っていた……寧ろ気になるのは突然現れたもう一人。

 

「彼女は―――誰じゃ?」

 

カノンに着てから数年、川澄舞に並びうる存在など八雲は知らない。

いや、そもそも戦場にいきなり現れて……まるで全てを見ていたかのような立ち振る舞いが出来たのは何故だ?

そして何故、あれほどの腕を持ちながらも今までそれほどカノンで話題に上がらなかったのだ?

八雲の疑問は、しかし声に出すことなく静かに内に仕舞った。

―――今はそんな事はどうでもいいか、我らが手も足もでなかった化け物を退治出来たのだ……素直に感謝しよう。

しかし今回は危なかった、いくら"力がセーブされていた"としても少しも敵わなかったのは問題だ。

これじゃあ何のためにカノンの守り手などという立場に立っているのかわからんではないか。

……まあ相手が悪かった…という事もあるんだろうが―――これでは怒られてしまうではないか。

八雲は苦笑しながらもう一度だけ、功労者である彼女達へと視線を向けた。

 

「あはは〜、舞お疲れ様〜」

「……佐祐理、どうしてここに?」

「うん、魔力の強い波動を感じてちょっと前から様子を探ってたら舞が危ないって事がわかって飛んできたの」

「…………そう、ありがとう」

「ううん、どういたしまして〜♪」

 

少女はそう笑いながら箒から降りる。

舞も大蛇の体から剣を引き抜くと付いていた血を払うと鞘に仕舞う。

その顔には少しばかりの安堵と、そして駆けつけてくれた友人に対しての感謝が浮かんでいた。

少女もそんな舞の顔を見ながらいっそう笑みを浮かべる。

―――そして、川澄舞は一瞬にして仕舞った剣を引き抜いた。

 

 

 

「佐祐理―――まだ終わってないっ!!!」

 

 

 

……そう叫び剣を再び構える舞の顔に険しさが戻ってきていた。

川澄舞が見ていた視線の先、心臓を突いたはずの大蛇はしかしこちらを見て笑っていた。

その姿を見て、舞は少女を庇うように押しのけるとそのまま剣を振り下ろす。

だが……舞の剣は空を切るばかりで大蛇の体には当たらない。

 

「ははは……は……はーっはっはははははは!!!!!!」

 

―――瞬間、大蛇の周りから黒い瘴気のような煙が立ち込めた。

その瘴気はまるで意思があるように大蛇の体を包み込むと一気に大蛇の体へと吸い込まれていった。

するとたちまち体に出来ていたはずの傷跡は消え去り、完治していく。

 

「―――舞っ!」

「……佐祐理は下がってて!」

 

少女に舞はそう告げるとそのまま大蛇へと向かって走り出した。

これ以上完治されたら流石に成す術がない、舞は焦りながらも冷静に状況を把握する。

相手は幻想神種――あれほどの回復力を持っていても不思議じゃなかった!

何故あそこで追撃しなかったのか、舞は自らの失態を恥じる。

そんな舞の姿を見て大蛇は可笑しそうに笑いながらもただ突進してくる舞を何もせずに眺めていた。

 

「―――はぁぁぁぁ! せぃ!!!」

 

そして―――舞の剣が大蛇の体へと突き刺さり、大蛇はその瞬間舞の体を両手で掴んだ。

舞の顔が驚愕に染まり、そして何とか体を捩ろうとするが腕力の勝る大蛇の腕は抜けない。

大蛇の狙いは―――肉を切らせて骨を断つ、自らの体を犠牲にして舞の体を捕らえたのだ。

 

「―――駄目じゃっ!」

 

正気に戻った八雲は駆けつけようと扇子を構えながら舞へと走り出そうとするが―――この場にいる誰もが最早間に合わなかった。

大蛇は―――笑う、体を突かれながらも何事もなかったようにただ笑っていた。

 

「―――愚かなる前菜、死を前に自らの存在すら見失ったか?」

「―――――――舞ぃ!!!!!!!」

 

―――次の瞬間―――鮮血が舞っていた。

雪を染めるように血吹雪がまるで暴雨のように白き地を紅き血で埋め尽くす。

それを見ていたその場にいる四人は、ただその瞬間を黙って見ている事しか出来なかった。

体からは夥しいほどの血液が噴出していて、その体からは手が生えていた。

そして、八雲は目の前の状況にただ困惑を覚えるしかなかった。

 

「………え?」

 

その声は誰から出たものなのか、それは誰にもわからなかった。

何が起きて何が終わったのか、何故こうなったのか―――その瞬間は誰にも理解出来なかった。

そして数秒後、永遠とも思えた時間の中で……体を貫いた大蛇が静かに呟いた。

 

「なるほどな―――転移魔法か、小賢しい」

 

わからない、大蛇以外誰もわからなかった。

目の前の光景が異常過ぎて……理解するという行為を忘れさせていた。

いや、もう一人だけ―――転移魔法を使った彼女だけはその事態を理解していた。

 

「ごめんなさい―――舞のピンチだったので」

「佐――祐理?」

 

彼女は悪びれる様子もなく、いつも通り笑いながら目の前の出来事を眺めていた。

彼女は何をしたのか、そして彼女は何を行ったのか。

周りにいた彼女らにも、ようやくその事態が読み込めてきた。

―――この女、仲間である川澄舞を助ける為に"誰かを代わり"に転移させやがった。

開いた口が塞がらなかった、犠牲者はこの場面を見ている自分ではないが……一歩間違えれば自分がああなっていたのか。

 

 

 

 

 

 

だが―――大蛇に貫かれている人物を見るに、先ほどまでここにいた中にはない顔だった。

 

 

 

 

 

 

「―――いきなり殺されたのは久しぶりだなこの野郎」

 

 

 

 

 

 

そう呟きながら恨めしそうにこちらを見ているのは茶い髪の少年だった。

体を貫かれて、重症なはずの少年はしかし何処か達観したように何事もなく辺りを見渡し始めた。

その様子を見て、幻想神種を相対した時よりも―――彼女らの心中は混乱していた。

 

―――自分の死を目の前にして凄い余裕だな。    八雲はそう思った。

―――あぅ、体を貫かれてピンピンしてる。       真琴はそう思った。

―――本当に人間でしょうか……彼は?        美汐はそう思った。

 

少年はあらから見回すと、沈黙している大蛇へと向き直る。

―――そこで初めて大蛇は目の前の存在の正体に気づいた。

いや、薄々は気づいていたが――流石の大蛇もいきなりの事で後一歩が信じられなかったのだ。

 

「……お、お前は…………」

「麻衣子? ―――いや、違うか……お前誰だ?」

「お前は―――お前は―――お前は―――お前は―――っ!!!!!!!!」

 

貫いている少年の顔を見ながら大蛇は一気に狂喜した。

まさかまさかまさかまさか、目の前にいる人間は―――――っ!!!

そんな大蛇の狂喜の顔にも気づかず少年はただ呆れたように見下ろしていた。

まるで自分の体に突き刺さっている腕の事なんて忘れたかのように普段どおりに。

 

「何だよ、幼馴染の顔も忘れたのか? 俺だよ俺―――相沢祐一様だぞ」

 

既に明らかなる敗北を決している、しかし勝利という名の希望を持った"死なない少年"がそこにいた。

 

 

to be continue……

 

 

                                            

 

 

 

あとがき

はいあとがきー、結局祐一君デットの方向で(笑)

結構引き伸ばしましたねー、次回は結構バトルバトルバトルバトルバt(ry

今回は説明ばっか、まあ理解してくれとは言わないさ(ぇ

香水の匂いで元気倍増頑張りますOTZ

 

 

 

 

―――第二十五話★用語辞典―――

 

製作中

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