―――つい数時間前に相沢祐一と秋桜麻衣子が立っていた丘の上に少女と青年は立っていた。

青年は魔物の大進行を受けて倒壊しつつある街並を見下ろしながら平然と少女の隣に立ち、

そして少女は同じく街を見下ろしながら口を尖らせてつまらなそうにしていた。

青年は黒いマントを靡かせ、少女は身の丈を遙かに超した巨大な剣を背中に抱えていた。

 

「ねぇ、どうするの?」

 

少女は紫色に輝く瞳で青年を不満そうに見上げながら呟いた。

すると青年も少女に視線を移すと高揚なく喋り始める。

 

「………どうもしないさ、ただ傍観してればいい」

 

ただ淡々と、まるでそれが作業のように青年は話す。

蒼白い瞳にも感情の変化はみられず、ただそこにある"物"のような存在感を現している。

だが少女はそんな青年の反応を予測していたのかさっきと同じように口を尖らせ頬を膨らますだけだった。

 

「つまんないよ〜……ルン達も遊びに行こうよ〜」

「駄目だ、あれは遊びじゃない……それに俺達が介入していい問題ではない」

 

そう、今眼前で起こっているものは普通の出来事ではない。

―――いうなればこれは戦争、魔物と人間が共存を拒みあい生み出された終わる事の無い歴史の縮図。

歩み寄りが出来ない愚かな種族間で行われる無用な筈の争いなのだ。

そんな意味の無い闘争に青年は何の理解も見出していない。

ただ……そこにあるものを傍観するだけのモノとして存在しているだけだった。

 

「う〜、シグがいれば大丈夫だよ〜」

 

しかし青年とは違い少女は乗り気で今にも丘を下り街へと走り出そうとうずうずしているらしい。

青年を引き合いにだして何とか街へ行く為の許可を取ろうと必至になっていた。

 

「俺は大丈夫でもお前が危険だ」

 

……しかし青年は頑として譲らない。

そんな青年を見ながら少女はさらに口を尖らせて両腕を振り回しながら駄々をこねる。

 

「あーもー! つまんないつまんないつまんなーい!!!」

 

流石にこれには青年も少し呆れたようにため息を漏らすと再び少女へと向きなおった。

 

「我慢しろ、これが終われば少しは遊べる」

 

そう、俺には概念がよくはわからないがこいつが退屈しそうではない事が待っている。

それが何なのかこいつはよく理解していないようだが……まあまだ子供だからな。

 

「魔法使いと戦ってもつまんないよぉ〜、魔族がいい〜」

「………俺にはやつらの違いがわからん」

 

魔法使いも魔族もようするにただの存在する物体。

青年の目には全てが並列で種族や職種の違いなど気にしていない。

故に、興味など皆無……人間だろうが魔族だろうがそれらはただの物体だ。

だがそんな青年の思考とは裏腹に少女は青年のマントを引っ張る。

 

「ワイバーンにヴァンパイア〜、ルンも戦う〜!」

「だから駄目だ、お前は暴れると手がつけられなくなる」

「"ベルセルク"なんだから当然でしょー!」

 

少女は背中に差した巨大な剣を引き抜くと今にも丘を駆け下ろうとする。

……が、そんな少女の襟をまるで猫を捕まえるように青年は掴み捕縛する。

 

「わかっているなら黙って終結を見届けろ……どうやら佳境らしいぞ」

「うぅ〜、カノン負けろ〜……魔族が勝て〜……」

「……………俺にはどちらでも構わないさ」

 

―――終局は、ただそこにある真実のみが知っている。

 

 

 

 

ロードナイツ

 

第三十三話

「暗闇に見る明日」

 

 

 

 

「ロンギヌスの槍だと……? 貴様―――まさか聖痕者だとでもいうのか!」

「うぐぅ、企業秘密だよ」

「ちぃ! 馬鹿な―――ありえん、断じてありえんっ!」

 

聖なる槍、ロンギヌスの槍、神殺しの聖典、最強なる矛、禁忌の具現。

神を貫く事を前提においた世界最強の宝物とされるロンギヌス。

そのレプリカが今目の前にある……だと?

否―――断じて、断じてありえるはずがない。

ロンギヌスとは本来はただの名称、"本物"など存在はしない。

いうなれば全てが贋者で全てが本物となりえる幻の存在しない槍。

全ての理を殺す神殺しとまでよばれた完全無比なる究極の最終決戦魔道兵装、それがロンギヌスだ。

 

「どうやって神殺しの槍を……」

「全部企業秘密、答えられる事は何もないよ」

 

本来その槍は聖痕者と呼ばれるような特別なる人間にしか扱えぬ聖典、"片翼の天使"では断じて扱えぬはずだ。

だとしたら……あの槍は贋者……だという事になる。

そうだ、やつが神を殺す禁忌者ならばこの世界にいれるはずがない。

ロンギヌスの槍は別名"仲間殺しの槍"……強すぎる力は闘争しか生まない。

ロンギヌスを持つ人間は例外なく最後には仲間に殺される。

 

「これが贋者だと思う?」

「――――っ!?」

「でもロンギヌスと偽る意味は無いはずだよ、偽るつもりなら神葬の槍にした方が現実的だしね」

「…………」

 

確かに、優位性を示すなら"ロースバル"の槍の方が可能性がある。

ロンギヌスの槍といって偽る事は逆に相手にとって優位を与えてしまう事になる場合の方が多い。

ならば―――まさかあれは本当にロンギヌスの槍?

だが何故今そんな意味のないものを持ち出してきたのだ?

確かにロンギヌスは最強の名を与えられている、だけど……それは神を殺せるという逸話があるからだ。

その為本来は対魔法使い用でも対人間用でもないのだ、あれは。

言うならば儀式用、それも……本当に効果があるのかさえわからない疑惑の槍だ。

神を殺した現場など誰も見た事がないし、そもそも神という存在が存在するのかさえ不明だ。

まだ幻想神種を殺せるような天津宰の槍や草薙の剣、宝仙刀やオートクレールやブリューナクの方が実用性がある。

ならば何故、片翼の天使は今この場にロンギヌスの槍を持ち出してきたのか……。

……総合的に考えて、あれは本物のレプリカという事か。

 

「―――ロンギヌス、そんなものを持ち出してどうするというのだ」

「戦うよ―――こんな風にねっ!」

 

片翼の天使は槍をまるで枯れ木を扱うように振り回しながら走り出した。

やつの身長より長い槍は生きているかのように床や壁にぶつける事無く台風のようにこちらに向かってきた。

 

「―――ふっ!」

 

槍がまるで鞭のように撓り紅き閃光と化す。

目視で確認できなくなった槍を何とか一撃杖で受けきると―――後退しながら単発の魔法を撃ち牽制する。

しかしこちらが唱えると同時に相手も槍をまるで盾のように振りかざしながら魔法を弾き飛ばすように前進する。

……こいつ、あの槍を完璧に使いこなせるだけの技術を持っているのか。

―――だがおかしい……魔法使いの癖にこんな運動神経を?

 

「これで―――お仕舞いだよっ!」

 

そう宣言して片翼の天使は捻るように体を捩らせると一気にこちらへと跳躍してきた。

そしてそのまま槍を持つ手を逆手に持ち替え薙ぎ払う要領で斬りつける。

だが―――甘い、槍は払うものではなく……突くものだ。

そんな大雑把な一撃では俺を倒す事など―――できやしない!

 

「―――シッ、はぁっ!!!」

「―――っ!?」

 

槍を潜る様にしゃがんでかわし、無防備になった片翼の天使の懐へと一歩を踏み出しそのまま杖を突きつける。

最早絶対回避不可の領域まで踏み込んだ俺の一撃は確実に相手を仕留めるに相違ない。

魔力の一瞬の内に最大限引き出すとそのまま杖を槍のように天使の体へと突き刺した。

―――突き刺した……筈だった。

 

「この―――化け物が……」

「うぐぅ、失礼だよ!」

 

杖は確かに……突き刺さっている。

だがそれは、こいつの体に突き刺さっているわけではない。

じゃあ何にと問われれば……俺の杖は"空間"に突き刺さっていた。

いや、この表現も可笑しいか……実際に手ごたえはあったしどうみても奴の体に刺さっている。

だがわかる、この杖は彼女の体に刺さっていない……それだけはわかる。

ならば何なのか、それだけが―――わからない。

 

「……お前は―――何者だ?」

「うぐぅ、企業秘密だよ♪」

 

 

 

 

―――"我の呼び声に応えたまえ、我が内なる者よ"

 

「草薙を奪われたか……なんて無様な、貴様ら如きに」

「その如きに喰わされた気分はどうじゃ? 我らは非常に爽快じゃが?」

「黙れ吸血鬼、その口今すぐ塞がれたいか……」

 

大蛇は苦々しくそう呟くと殺気の篭った目で八雲達を睨みつける。

確かに戦力で劣る今の段階で相手に草薙を奪われたのは計算外だ。

幻想神種でもあるが今の大蛇はただの人間、起源以外の戦力は草薙しか持っていなかった。

つまり―――起源を扱える者がいる以上、非常にまずい状況だ。

 

「お前ら―――必ずその身を崩壊させてやる」

「………まぁ、それが出来たらのぉ」

「―――何?」

「ほら――聞こえんか? お前の"死"が……」

 

―――瞬間、大蛇は壮絶なる悪寒に襲われた。

それはただの足音に過ぎなかった、雪を踏みしめるような音。

誰がその音を発したか何て検討がつかない……筈だった。

だが、それならば何故……幻想神種である自分の体が知らぬ内に汗をかくのか。

 

わかっているからだ、音を発した人物を。

わかっているからだ、これが不死の我を死に追いやる死神の足音だという事を。

わかっているからだ、………これが――大蛇という化け物以上の死の具現だという事を。

 

……足音は段々と近づいてくる。

決して急ぐ事もなく、またゆっくりではない速度で。

 

「つか俺は幽霊や死神の類かこの野郎……」

 

その声は、苦笑気味に辺りに響いた。

わかる……最早振り向かなくともやつがすぐ傍に来ている事がわかる。

自らが望んだ結末が―――今そこにある!

 

「……相沢―――祐一」

「呼んだか幻想神種、―――その通り……俺が本当の相沢祐一だ」

 

振り返る振り返る振り返る振り返る。

するとそこにいたのは一人の少年、黒髪に漆黒の瞳……全てを飲み込みそうな少年が立っていた。

だが……想像以上にその存在は不可思議であった。

ありえない、何がありえないというと全てがありえない!

これが……我が望んだ結末だとでも言うのか?

 

「何だ―――その体は……?」

「何だといわれても……何だろうな?」

「何だ何だ何だ何だお前は―――!? まさか……貴様――っ!!!」

「あぁ、そっか……そういえば麻衣子にもまだちゃんと見せたことなかったっけ―――これが俺さ」

「"否定"――っ!? これが"否定"の具現だと!? ふざけるなこんなものは"否定"ではない"拒絶"だ!!!!!!」

「拒絶も否定も俺にはあんまり変わりないと思うんだけどな……」

 

そこに立っていたのは確かに一人の少年だった。

相沢祐一、魔法使いの中でも禁忌とされたただ一人の人間。

だが―――これが相沢祐一の正体とするならば……これは禁忌ではなくただの愚行だ。

傍観者……傍観者……傍観者、なるほど―――ようやく意味がわかった。

相沢祐一は全てに対し傍観を決め込んでいるわけではない、"傍観せざる負えない"という事か。

つまり―――この人間は、"否定されている"のだ。

 

 

…………何から?

 

 

―――決まっている、世界……から。

 

「貴様―――何をした?」

「別に何も、禁忌を犯したわけでもないし世界に逆らったつもりもない」

「ふざけるな、何なんだその体は!!!」

「見て解るだろ? これが―――否定の正体さ」

 

相沢祐一は軽く微笑しながら大蛇に向かい一礼する。

そして、その瞬間……相沢祐一が動いた分だけ世界は"否定"された。

その意味を理解出来る者はこの場には大蛇、八雲……そして川澄舞だけだった。

他の者にはわからない、否―――今実際に起こっている現象についていけないのだ。

今何が起きているか、今……何が起こってしまっているのか。

 

「―――傍観者」

 

呆然とするような声が洩れる、それは誰の言葉だったのか……誰にもわからない。

恐らく本人さえも覚えていないような呟きは、しかし全員に感染するように伝わっていた。

これは、幻想神種に遭遇した気味の悪い違和感とも違い……奇妙な感覚だった。

周囲が、相沢祐一を中心に歪んでいく。

まるで雪解けの朝のように……空間は捻れ溶けていく。

 

「さて、じゃあやろうか……大蛇」

「…………」

「望みどおり否定してやるよ―――それが望みなんだろ、幻想神種?」

 

相沢祐一は可笑しそうに笑う。

目の前に立つ、幻想神種という異常を見て……ただ可笑しそうに。

 

 

「……かかってこいよ、お前の全てお前の存在お前の意味―――全部否定してやる」

「く、ははは……はーっはっはっはー!!! それでこそ我が否定! いいだろう……全てはこの時の為に我は在る!!!」

 

 

to be continue……

 

 

 

 

 

 

あとがき

かゆ……うま……OTZ

あれれー? 戦闘シーンはぁ?

書き直してから調子悪いなぁ……もう少し考えますねー(汗)

 

 

 

 

―――第二十五話★用語辞典―――

 

製作中

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