世界を崩壊させる藤間の御子よ、汝は何を望む?

ただ、幸せな日常を。

 

世界を堕落させる藤間の御子よ、汝は何故望む?

望む事しか……出来ないから。

 

世界を破壊させる藤間の御子よ、汝は何を考える?

普通の生活を、普通の人生を。

 

世界を倒壊させる藤間の御子よ、汝は何処に望む?

空に浮かぶ太陽に、空に沈む満月に。

 

 

 

 

世界を破滅させる秋桜麻衣子よ、汝は何故生きる?

そんなの―――私の勝手でしょうが。

 

 

 

 

ロードナイツ

 

第三十七話

「神を狩る聖女」

 

 

 

 

「麻衣子ちゃん、行っちゃったね」

 

治癒した途端風のように消え去った麻衣子の後を追い、水瀬名雪も広場に足を運ぶ。

―――眼下に広がるは巨大なシルエット、幻想神種……八岐大蛇の巨体。

そして、そんな大蛇の足下、そこに彼らはいる。

朝会った時とは違う、漆黒の黒髪に剣の形をした"何か"を手にしている相沢祐一。

そして紅き髪を靡かせながらまるで挑発するように大蛇に向け立っている少女は秋桜麻衣子―――祐一の相棒らしい。

彼らは"神"とまで名が付く八岐大蛇に対して、しかし臆することなく立ち向かっている。

 

「………う〜ん、私も出来れば参加したいな」

 

でもそれは出来ない、名雪は微妙に項垂れながら手に持った身の丈以上もある杖で地面を数回つつく。

何せ自分はカノンの守護者のお母さんの変わりに"上"を目指す魔法使い、万が一にも他に気取られてはいけない。

水瀬名雪は治癒魔法のみが得意な魔法使いの落ちこぼれ、"今は"それでいい。

だから……っと名雪は顔を上げて目の前に広がる戦闘を見つめる。

 

「だから"今は"……カノンをお願いね、祐一」

 

そう言って、名雪はいつもの笑顔に戻り……一人住宅の屋根の上で戦闘を観察していた。

 

 

 

 

―――そして、秋桜麻衣子はゆっくりと歩き出した。

眼前には大蛇の巨体が視覚に入りきらないほどに溢れているが、しかし、恐れることなく歩き続ける。

表情には軽い笑みを浮かべ、手には何も持たず、ただ前だけを向いて。

何をするわけでもなく、ただ呆然と立ちつくす魔法使い達に見送られるようにして。

麻衣子は、最後の一歩を踏み出した。

その先は……最早逃げ切れる間合いではない―――大蛇より数歩前の位置。

麻衣子は顔を上げて眼前に広がる大蛇を見上げる、大蛇はそんな麻衣子の顔を残った首全てで見つめている。

視線の交差は、しかし一瞬にして終わる……麻衣子は数歩の距離を保ちながら、軽く頬を掻いた。

 

「………あのさぁ、一つ言っておくわよ?」

 

麻衣子は呆れるように大蛇に向かって不機嫌そうにそう言った。

そんな麻衣子の姿を見て、大蛇は不思議そうに眉を顰めた。

 

『何だ、我が主よ』

 

大蛇は短く問い返す、これ以上の口論は必要ないと思っていた矢先に出鼻を挫かれたようだ。

だがそんな大蛇の思惑とは関係なく、麻衣子は右腕を宙に突き出した。

そして、人差し指を大蛇に向けながら深呼吸を一回した後、吐き出すように怒鳴りつけた。

 

「―――いつまでいい気になって見下ろしてんのよこの馬鹿っ!!!」

 

そうして、麻衣子は拳を握りしめながら大蛇へと走り出す。

そんな麻衣子の姿を見て、大蛇は多少驚きながらもため息をつく。

何と思慮の欠ける行為だ、我の起源は"死"であるが故に死を知らぬ者の攻撃など通る筈がない。

それを知らずに突っ込んでくる自分の元とはいえ主の無謀な行動を見て、大蛇は呆れる。

そう―――呆れるように油断した。

 

「幻想神種って事はさ……」

 

そんな大蛇の思惑を知ってか知らずか、麻衣子は不敵に笑いながら尚も走り続ける。

 

「あんた―――あの馬鹿と同じ起源者でしょ?」

 

鳥が唄うようにその言葉は明確に大蛇の耳に届く。

 

「悪いけどさ、あんたがどんな起源を持ってるか知らないけど―――」

 

そうして、秋桜麻衣子は振りかぶった拳を大蛇の腹に突き刺すように突き出した。

 

「―――藤間の御子は元来あんたみたいな規格外を相手にする為に"作られんのよっ!"」

 

痛みは一瞬だった、さほど外傷もついていない。

まるで小さな針が刺さった程度の痛み、行動不能に陥るにはこれの数千倍は必要だろう。

だが―――幻想神種たる大蛇は腹に突き刺さった拳を感じ、驚愕に目を見開いた。

秋桜麻衣子の拳は、あの川澄舞でも攻撃を通すために起源を活用しなければならなかった一撃を難なく大蛇へと通している。

これは…………何だ?

 

『どういう事だ……これは、我が死が―――発動していない?』

「当たり前でしょうが、攻撃が通ったのがそんなに不思議?」

『当然だ! 起源者でもない貴様がどうしてこのような……っ!!』

 

大蛇は叫ぶ、まさかと思考する。

自分が知らないだけで自分の主は起源者だったのだろうか、いや、それはない。

そんな事、隠せる筈もない……自分がどれだけこの主の元にいたのか、それを考えるとありえない。

ならば何故、このような事が出来る…………ならば何故、死を無視する事が出来る!?

 

「あのさ―――何度でも言うわよ? 私はね、"神様程度"の力があるだけで自分の主義を押し通すやつを見てると腹立つのよ」

『―――神の力など知らぬ小娘が分かったような口をっ!』

「知らないわ、知っても"私には"意味の無いことだろうしね」

『どういう事だ……』

「"神殺し"に神の力何て興味ないのよ、殺した対象の力なんていちいち気にしないわ」

 

そう言って、麻衣子は不敵に笑う。

そんな麻衣子を見て、動揺しながらも表面上は冷静さを取り戻した大蛇は呟くように言葉を発する。

 

『我が主、秋桜麻衣子……神殺しといったな』

「えぇ、それがどうかしたの?」

『誰を殺した、否―――"何を"殺した』

 

この世界には神は確かに存在する、境界線を越えた存在、自分達より遙かに優れた種。

それは人間であっても魔物であっても実体が無くとも人々に認められればそれは神となる。

故に神は多数存在する、例えば嘗て絶対的な力を発揮していた八岐大蛇。

例えば黄金に輝く肢体を持つ九尾を超えた"空狐"という神狐、例えばその気になればどのような人類でも破壊できた異常者だったり。

そして、万物の全てを否定出来る可能性を持つ否定者もその一員に入れてもいいかもしれない。

だが、目の前にいる少女は何が出来る?

八人分の起源者を相手にしても勝利出来る蛇の様な強さを持ってはいない。

鳴くだけで相手を屈服させるような絶対的な支配権を持つ狐のような支配力を持ってはいない。

代償を支払い人類に対し破壊する絶対優先権を持っている異常者のように破壊力を持ってはない。

万物を否定し"■■■■■"という馬鹿げた現象を引き起こす否定者のように外れてもいない。

そんな力を持つ神の位にいる我らを、ただ生きているだけの少女が殺す。

馬鹿げている、確かに馬鹿げている。

だが―――数年間一緒にいた自分の主を見てきて、その言葉が偽りではない事を確信する。

このような場面で自分の仕えてきた主は偽りなど言わない。

だからこそ、大蛇は問いただすように麻衣子に聞いた。

すると、麻衣子はその問いを待っていたかのように大蛇を小馬鹿にするように笑う。

まるで、ようやくその質問に移ったかっと待ちくたびれたように。

 

 

 

「悪いけど知らないわ、だってさ……私自分が神様を殺した現場に立ち会った事ないし」

『な―――んだと、どういう事だ!』

 

「本当に知らないのよ、だって私が神様を殺す事なんて毎日の日課みたいなものだったし」

『どういう事だ、それが事実だとすれば何故この世界にはまだ神が存在する、神は確かに存在するが多くはない、それこそ数えられる程度だ』

 

「ふ〜ん、それじゃあさ、あんたは神様に明日なりそうな幻想種とか分かる?」

『……分かるはずがあるか、そんなもの』

 

「そこがあんた達と私の違い、境界線を越えそうな神様候補は沢山いたらしいわよ?」

『―――な、貴様……まさか殺していたのは……!?』

 

「そうよ? 私が殺していたのは神様になる直前の罪のない者達、私が生まれてから藤間家にいた間神様何て殆ど登場してないのよ」

『つまり貴様は神を殺していたわけではなく、神になる者達を殺していたのか……』

 

「その通り、中には年端もいかぬ子供もいたらしいわね……最も私でも殺せない神様達はいたけどね、人類に対し絶対的な破壊権を持ってるやつとか」

『人類破壊兵器の事か』

 

「あら、知ってたの? その通り、"あいつ"は私の法術を一時的に"破壊"してすり抜けていったわ」

『となると否定者もか?』

 

「あぁ、あの馬鹿は特別……私の力でも殺せなかった、唯一の"基準外"だったのよ」

『―――なるほどな、そういう事か……』

 

「そっ、だからその二人の例外を除けばほぼ全員殺してるのよ、人間でも魔物でも……」

『だから貴様は神殺しか? ふざけるのも大概にするのだな……神になれなかった者達を殺して神殺しだと?』

 

「あら、そんなの簡単じゃない、私には事実ある現象は無効化されてしまうって知ってた?」

『無効化だと